行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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事件解決?

 毒を以て毒を制すというか。盗人のばんには盗人を使えというか。毒という概念を使うことによって毒を探知できるようにするというか。

 詳しい理屈は置いておくとして。『毒』という概念が強ければ強いほどより多くの毒を探知できる魔導具になるのだ。

 そして、この国において辰砂――水銀は毒物の皇帝と呼べる存在だ。なにせ大陸をはじめて統一した始皇帝の健康を蝕み、それ以降も多くの皇帝や貴族の命を奪ってきたのだから。我が国において水銀ほど『強い』概念を持つ毒は存在しない。

 というわけで。
 後宮には設備や素材がないので、そのまま実家で毒検知の魔導具作りを開始した私である。

「え~っと、まずは辰砂。金剛石の結晶に、毒蛇の牙。熊の胆嚢と、一角獣の角……」

 素材をすり潰したり煮込んだりして大本を作り、あとは私の血と神力を混ぜていく。

「――天皇天帝陛下に願い奉る」

 呪文を唱えながら血を一滴垂らし、神力を込めながら鍋をかき混ぜれば――完成だ。

 見た目は欧羅の『ワイン』を思わせる赤い液体。

 しかし、匙で掬って机の上に垂らすと――液体であったそれは自然と球体となり、固まった。

 匙で叩いてみると、軽い音が響く。少なくとも液体に匙を入れた音ではない。

 試しに身近で手に入る毒――水仙をすり潰した液体に近づけてみると、球体は蛍のように点滅し始めた。このくらいなら所有者の神力もほとんど消費しないはずだ。毒の浄化までするとなると利用できる人間も限られちゃうけどね。

「よし、成功っと」

 一応千里眼――鑑定眼アプレイゼルで鑑定。うん、問題なく作動しそうね。あとは装飾品を作る職人に指輪部分を作ってもらえばよしと。

 それは知り合いの職人に発注するとして――いや、皇帝である梓宸や、上級妃である瑾曦様や雪花が使うなら装飾の格式とかあるのかしら?

 ちょっと分からないので一旦後宮に戻り、誰かに確認してから発注しましょうか。

 作った大本の液体を匙で掬って、球体にして、掬って、球体にして……。すべてを球体にしてから空間収納ストレージにしまい込み、後宮へ転移。

 さてこういうのは瑾曦様に尋ねるべきか、あるいは張さんに頼めばいいのかしらと悩んでいると、ちょうどよく瑾曦様がやって来た。

「凜風ー、いるかい?」

「瑾曦様。どうしました?」

「皇帝陛下というか、張の爺さんからの呼び出しだ。事件調査のために外廷へ来て欲しいそうだよ」

「……いや、また侍女みたいなことをやっているんですか瑾曦様?」

「あはは、妃よりこっちの方が性に合っているね。凜風の侍女でもやってみるかな?」

「冗談でも止してくださいよぉ……」


                      ◇


 外廷に到着すると、梓宸や張さんの他にも親衛隊長の孫武さんや宰相の維さんが待ち構えていた。偉い人大集合。

「よくぞお越しくださいました凜風様。早速ですが妃毒殺未遂事件についての今までの調査結果を――」

 あのあとも調査を続けていたらしく、張さんは色々な報告をしてくれた。

「宮廷内の全ての厨房を調べさせましたが、水仙らしきものは見つかりませんでした」

 全てって。宮廷はただでさえ広いうえ、皇帝や貴族の食事を作る厨房と官僚たちのための厨房は別になっているはず。数千――下手をすれば万単位の人間の食事を作る厨房全てを調査とか、凄いことになっているのね……。

「納入された野蒜ノビルの中に水仙は混じっていませんでした。これについてはこれ以上調査のしようがありませんな」

 それはそうよね。一つだけ偶然混じっていただけかもしれないのだから。

「料理人の背景を調査しましたが、特に怪しい点はありませんでした。嫌がらせなどの目的で水仙を混ぜる可能性はありますが……自分が疑われるのは分かっているのですし、おそらくはないでしょう」

 いやぁ、愉快犯とか精神的に不安定になってという可能性もあるんだけどね……。ややこしくなるから黙っていましょうか。どうせ今回は無関係なのだから。

「やはり可能性が高いのは配膳をした侍女でしょうか。あの侍女は長年宮廷で働いていますが、皇帝のお手つきもなく、そろそろ年齢的にも厳しくなってきたところ。嫉妬に狂って妃の誰でもいいから――という可能性は十分にあります」

 え? 年齢的に厳しいの? まだあんな若くて綺麗なのに? それだったら結婚適齢期を過ぎちゃった私なんて完全に選外じゃない? いや別に選外になることを恐れているわけじゃないけどね? 私が駄目じゃないのにあの侍女さんが駄目というのは筋が通らないというか許せないというか……。

「……もう梓宸が手を出せばいいんじゃない? 若い子なら誰でもいいんでしょう?」

「真顔でなんてことを言うんだ凜風……」

 なぜか梓宸に眉をひそめられてしまった。あの腰軽浮気下半身野郎に。ムカつくから潰して・・・やろうかしら?

「ひっ」

 長年の経験から何かを察したのか内股になる梓宸だった。

 まぁ、脳みそ下半身系幼なじみはどうでもよくて。今重要なのは疑われている侍女さんだ。

「無実の人間を犯人扱いするのは、可哀想だと思いますよ?」

「……無実、ですか?」

「えぇ。たしかにあの侍女は梓宸を狙っていますし、妃に嫉妬していますし、いつか自分が成り代わってやると野望を抱いていますが……。だからこそ、毒を混ぜるなんてことはしませんよ。だってそんなことをしたら罰せられて自分が妃になれない・・・・・・・・・じゃないですか」

 運良く犯人だとバレなくても、『疑われた』という事実だけで皇帝から距離を取らされる可能性はある。そしてあの人はその危険性リスクを理解できるはずだ。

「……犯人ではないと視た・・と。ではお尋ねしますが、この事件の犯人は誰なのでしょう?」

 真剣な目を向けてくる張さん。さすが三代も皇帝に仕えてきただけあって全てを見抜きそうな目をしている。

 そんな彼に対して、私はあっけらかんと答えた。

「犯人なんていませんよ。偶然。偶然水仙が混じってしまっただけです。不幸な事故ですね?」

「…………」

 張さんはずいぶんと胡散臭そうな顔をしていた。せっかく私が誰も傷つかない素晴らしき名推理を披露したというのにね。
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