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魔導具
しおりを挟む子猫さんによる持ち上げが止まらない。
「さらには……魔導具、でしたっけ? 毒を検知できるのかと大評判みたいですよ? ま~私は後宮から出られないので噂でしか聞いていませんけど、大臣たちは魔導具を下賜されるため陛下に媚を売りまくっているとか」
下賜というと、偉い人から何かをもらうことだっけ? 平民として生きてきたからその辺の用語とか曖昧なのよねぇ。瑾曦様や雪花から習ってもいいのだけど「そんな用語を学びたいとは、ついに覚悟を決めたのか!」「きゃあ! 素敵です! 愛する人のために努力する女!」みたいな感じで騒がれそうだからなぁ。
「分かる」
と、訳知り顔で何度も頷いているのは瑾曦様。媚を売る気持ちが分かるってことです?
「凜風は分かってないなぁ。平民は一度の煮炊きで作り置きするから中々温かいものを食べられないし、偉い人間となると毒味が食べてからじゃないと危ないから料理は全部冷えてしまう。『温かい料理を食べられる』というのは最高の贅沢なのさ」
「へー」
温かい料理を食べたかったら神仙術で加熱してしまえばいいだけなので、その辺が理解しがたい私だった。薪も要らないしね。
あ、でも、宴の時に食べたご飯は冷えていたわよね。あれも十分おいしかったけど、温かければもっと美味だったはず。
「――ですが」
と、急に真面目な顔を作る子猫さん。
「どうやら活躍しすぎて太妃様から目を付けられているようですね」
「げぇ」
ものすごーく面倒くさそうな顔を作る私。実際面倒くさいしね。
もういっそのこと安心安全な神仙術で私に関する記憶を消してしまって――欠点はバレたら打ち首なことか……。
「なので!」
ぱん! と両手を打ち鳴らす子猫さん。
「太妃様の情報が欲しい場合は私にご連絡を! 初回は格安、二回目はそこそこのお値段で。年間契約ですと超格安で新鮮な情報をお届けするっす」
なんか欧羅商人みたいなことを言いだしたわね?
まぁでも、私は後宮や宮廷について何も知らないし、情報屋に伝手を持っておくのはいいかもね。
「じゃあ、これからよろしくね、子猫さん」
「いえいえ、将来皇后陛下になられる凜風様から『さん』付けなど! 私のことは気安く子猫と呼び捨てにしてくださいっす!」
「皇后になんてならないわよ」
まったくどいつもこいつも……。もう此奴は呼び捨てでいいか……。敬語もいらないか……。
しかし、この感じだと太妃様も『この娘、皇后の座を狙っているのか……』と考えていそうよねぇ。面倒くさい。偉い人との関わりなんて商取引だけでいいのに。
昔の偉い人いわく、彼を知り己を知れば百戦危うからず。
「じゃあ、太妃様の情報を教えてもらえるかしら?」
「はいっす! 初回特別価格でお教えいたしましょう!」
ずいっと手のひらを指しだしてくる子猫。
料金の提示はなし。
これは、あれかぁ。ここでいくら渡すかによって今後の情報の精度が変わってくるヤツかぁ……。商人の娘なので察してしまう私だった。
「そうねぇ。じゃあ、年間契約といきましょうか」
「へ? いきなり年間契約っすか?」
戸惑う子猫の手のひらに、空間収納から取りだした『それ』を置く。
赤い、朱い。红宝石(ルビー)を思わせる丸い宝玉。もちろん本物の红宝石に比べれば輝きは少ないし、素人でも『红宝石じゃないな』と分かる程度には違うのだけど。比喩としてはそんなものだと思う。
「……凜風様、これは?」
「例の魔導具よ」
「っ! ではこれが毒検知の――!」
おぉ! っと宝玉を手に取り、太陽に透かして見る子猫。大臣が媚を売るくらいなのだから、年間契約料としては十分でしょう。こっちとしても大して手間を掛けたわけじゃないし。
「何とも不思議な石っすねぇ。……ちなみにこれ、何で出来ているんすか?」
「辰砂よ」
正確に言えばその他にも色々と素材を混ぜているけれど。見た目としては辰砂を丸く削ったものとさほど変わらない。
一気に顔を青くする子猫。
「辰砂ぁ!?」
思わずといった風に宝玉を地面に落とす子猫だった。まぁ辰砂と言えば水銀の原材料として有名だしねぇ。
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