行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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医官

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「うっわ! すみませんっす! 割れては――いないっすね」

 ホッとした様子の子猫。だけど、警戒しているのか落とした宝玉を拾おうとする様子はない。

「あの、凜風様? しんしゃ、というと……水銀の原料の?」

「よく知っているわね? その通りよ」

「……実は皇帝陛下や側近の暗殺を狙っていたり?」

「なんでよ。安全性に関しては暗部とやらが確認済みよ」

 たしか張さんがそんなことを言っていたはず。いや事後報告はないけれど、大臣たちが求めているなら大丈夫だと保証されたのでしょうきっと。

 それに梓宸なら毒殺するより殴った方が早いし。

「えーっと、毒性はないんですよね?」

「なに? 不安なら別の支払いにするけど?」

「いえ! これでいいっす! 仕事柄、毒の心配がないのって最高っす!」

 慌てた様子で宝玉を広い、再び太陽に透かして見る子猫だった。情報屋も意外と危険な仕事らしい。まぁ、色んな妃のところに出入りしていれば当然かしら?

「ほっ、傷はないみたいっすね……」

「頑丈に作ってあるからね」

「なによりっす。いやぁ、これが噂の……。こんな貴重な品物をいただいてしまっては、年間支払いでもまるで足りないっすね! ――末永いご愛顧をよろしくお願いするっす!」

「つまり、今後の支払いは無しでいいのね? タダで酷使していいのね?」

「うわ、そういうの真正面から聞いてきます?」

「聞くわよ。商人の娘なんだから。契約条件は事前に確認しておかないと」

「抜け目のない人っすねぇ……」

 なぜだか嫌そうな顔をする子猫だった。

「で? 太妃様情報を教えてもらいましょうか」

「はいはい。ちなみに現時点でどのくらい知ってます?」

「えっとねぇ……」

 瑾曦様と雪花から教えられた情報を伝えると、子猫は呆れたようにため息をついた。

「もう私が教えるものがないじゃないですか。ま、そりゃあ上級妃二人と仲がいいならそうなるでしょうけど」

「なんだ、情報屋と言ってもその程度か……」

 私が煽ると子猫がむっとした顔になった。分かり易い。

「ふっ、いいでしょう。ではとっておきの情報を……。医局にいる医官は太妃派なのでお気をつけを」

「医官というと……医者?」

「えぇ。先帝陛下が無茶をした結果、太妃様はまともな医官を育てようと尽力しまして。医官はほぼ太妃派っす。……ケガや病気の際は『敵』の手下に診てもらうことになるお覚悟を」

「へー」

 先帝の無茶っていうと道士に入れあげて不老不死を求めたやつか。それは通常医療が滅茶苦茶になりそうよね。ただでさえ欧羅と比べると未発達なのに。

 普通に考えれば、医官が敵対派閥(暫定)なのは恐るべきことだ。

 でもまぁ私って病気にならないし、ケガをしても自分で治せばいいし、医者にかかることなんてないのだけどね。

「……もうちょっと怖がったらどうっすか?」

 少し残念そうな子猫だった。いい性格してるわね。

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