行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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念話

 後宮での本の販売を認めさせるにしても、まずは現物サンプルがないとね。

 というわけで私はさっそく地元にいる弟と念話で連絡を取り、いくつかの本を取り寄せてもらうことにしたのだった。

『姉さん、後宮でも商売をはじめるんですか……』

 なぜか呆れた様子の弟だった。

「そこに売り先があるのだから売らなきゃいけないでしょう?」

『許家の血を引いてますねぇ……。ディックさんが楽しみにしてますから、欧羅の品も売れるようにしてくださいね』

 そういえば欧羅商人のディックさんとそんな約束もしたような?

「でも、後宮って太妃派――保守派と革新派が対立していてねぇ。欧羅の品を堂々と売ると面倒に巻き込まれそうなのよね」

『――なるほど。つまり対立を上手く煽れば革新派に欧羅の品を買ってもらいやすいと? そして同時に高品質な大華国製品を持ち込めば保守派にも売れると』

 うーん、許家の次期当主ぅ……。

「それ、私が太妃派から目を付けられるんだけど?」

『姉さんならどうとでもできるでしょう?』

「弟からの信頼が厚すぎる……」

『今までの行いですね』

「ちょっと神仙術を習得して人助けしただけなのに……。まぁいいわ、とりあえず後宮の妃たちが好きそうな本をいくつか送ってちょうだい」

『はいはい』

「あまり過激なのはダメよ?」

『むしろそういう本の方が売れそうじゃないですか? そういう場所なんですから』

「ダメよ。最初から過激なのを持って行ったら今後全部検閲で弾かれるかもしれないもの。まずは当たり障りのないものでお偉いさんの目を慣らさないと」

『なるほど』

「じゃあよろしくね? あと、お父様たちは元気?」

『元気ですよ。姉さんの立身出世のおかげで毎日上機嫌です』

「立身出世?」

 あぁ、上級妃の専属医になるのは立身出世よね。期間限定とはいえ、実績は残るし。皇帝の子供を取り上げたとなればそれだけで仕事に困らなそうだしね。

『そうじゃないですけど……まぁいいですか……。あと、最近はジンさんが修行を頑張っていまして』

「浄が?」

 そういえば、私の義理の息子でありながら護衛役もやってもらっているけど、男は宦官にならないと後宮には入れないからお留守番してもらっているのよね。念話での連絡もなかったけど「まぁ、思春期男子だからねー」っと大して気にしていなかったのだ。

 修行かぁ。何をやっているかちょっと気になるかも……。

 まぁ、でも、思春期男子って頑張っている姿を母親に見られたくないとも聞くし、ここは知らなかったふりをするべきよね。

『……可哀想』

 なにかをボソッとつぶやかれたけど、念話ってあまり小さい声は拾えないのよね。

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