行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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評価

 とりあえず写本のやり方を患者さんから習うこととなり。何かと忙しい維さんと孫武さんは戻ることになった。皇帝をこれ以上放置はできないみたい。

 あのダメダメ幼なじみはいつもサボっているのだから、維さんも少しくらいサボってもいいと思うのだけどね。

 おっと、そうだ。

「維さん。後宮に『雷獣』が落ちまして」

 一応報告はしておきましょうか。宮廷に伝わる雷鎮撫の儀式とかあるかもしれないし。

「らいじゅう、ですか?」

「えぇ。雷の化身というか神獣というか……。古来、雷獣が宮中に落ちるのは吉兆とされていたのですけど。もしかしたらその時に行う儀式とかあるのかもしれませんし」

「後宮に雷が落ちて火事になったという報告は受けていますが……まぁ凜風殿がいるのですから神獣もいますか」

 それ、私が奇妙奇っ怪な存在の代表格みたいな物言いじゃありません?

「しかし雷獣ですか。私は聞いたことがありませんね。もしかしたらお爺さまなら知っているかも――」

「――雷獣ですか」

 と、身を乗り出してきたのは患者さん。そういえば偉い学者なんだっけ。すごい知的好奇心に溢れる目をしているわね。

「……では私はお爺さまに話を聞いてみましょうそれではまた機会がありましたら」

 あ、逃げた。維さん逃げやがった。さては専門外の面倒くさそうな話になりそうな雰囲気を察ししたな?
 維さんを止めようとする私だったけど、患者さんに服の裾を掴まれてしまった。

「宮中の吉兆とは興味深い。しかも天から落ちてくる光を吉兆とするとは……。もしや皇帝陛下の治世に関する……? 凜風殿。その話、是非詳しくお聞かせ願えればと。もし文献があるならばお貸しいただいて――」

「あー、はいはい。文献は手元にないのでお貸しできませんけど、それでよろしければ」

 圧に負けて了承するしかない私だった。


                    ◇


 患者さんに色々教えたあと。
 病み上がりなのであまり無茶をしないように、と患者さんを帰した結果。私と琳玲さんが二人残される形となった。

「なんか……蔵書楼なのに騒がしくしてすみません」

「いえいえ、凜風様は特段騒がしくなかったですから」

 どうやら騒がしくしていたら叱られていたっぽい。
 まぁ、その辺は騒がしくしていた人をあとで叱ってもらうとして。

「琳玲さんって、どこまで分かっていたんですか?」

「……どこまで、とは。どういうことでしょうか?」

 どもりのない、深遠な微笑み。初対面時の自信なさそうな姿は影も形もない。きっと「もういいか」と思っているのでしょう。

「そうですねぇ。今日はずいぶんと警告していたじゃないですか。『お止まりください。命が惜しければ』とか『覚悟があれば閲覧を許可しますが、あらゆる保証は致しかねます』とか」

「……それはもう。歴代の秘書監から厳重に注意するよう伝えられてきましたから」

「私が本物の呪いの本だと発言しても驚いているようには見えませんでした。それに、『学者さんが一人、病で倒れまして』と発言したときも、すぐに呪いの本が原因だと分かっていたようですし。病気の治療法を探すためにやって来た可能性もありましたのに」

「それは分かりますよ。『本物』があると伝えられてきましたので」

「つまりあなたは、読んだ人間が死ぬかもしれないと分かっていたのに、呪いの本の閲覧を許可したと?」

「――はい・・。本を求める人間に本を渡すのも秘書監の仕事ですので」

 まるで澱みのない琳玲さん。こわい人だ。

「良心とか傷まないので?」

「まさか。例えばこれが部下を派遣してきただけとか、読み書きのできる奴隷を使おうとしたなどであれば全力で止め、出入り禁止を通達したでしょう。しかし、あの学者は自らの命を賭け、後世のために写本をすると決めたのです。その覚悟を、一介の秘書監がどうして止められましょうか?」

「こわい人ですねぇ」

「いえいえ、皇帝陛下を足蹴にしていると噂されている凜風様に比べれば。私などとてもとても。――それに」

「それに?」

「凜風様も、本当は『怖い』などと思っていないのでしょう?」

「……どういうことでしょう?」

「私は人物鑑定も嗜んでおりまして。欧羅には正義を愛し罪人を憎む『名探偵』という者がいるそうですが……凜風様は名探偵に見えませんね。むしろ――」

「――――」

 琳玲さんからの評価を聞き、思わず苦笑してしまう私だった。

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