行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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穏やかなお茶会

「海藍様ってよく後宮で生き残れますよね?」

「ケンカ売ってる?」

「むしろ心配しているのですが?」

「その顔、ぜんぜん心配しているように見えないのよ」

「なんと、こんなにも優しげで慈悲深く尊尚親愛そんしょうしんあいの心に溢れた私を捕まえて失礼な」

「どちらかというと仏面鬼心じゃない?」

「ははは、言葉を間違えてますよ海藍様。正しくは鬼面仏心。内面は仏のように慈悲深いのです」

「間違ってないわよ。仏面鬼心。見た目だけはいいのにね」

「……そういう海藍様も見た目だけはいいんですけどね」

「はっ倒すわよ?」

「できますかね?」

 穏やかに平穏なお茶会を楽しむ私たちであった。

「――そ、そろそろおかわりを準備しますね!」

 と、穏やかで平穏なお茶会に割り込んできたのは侍女長さん。なぜだか顔が引きつっているわね。なぜかは分からないけど。

 次にやって来たのはハーブティー。大華国ではまだまだ珍しいわね。独特の風味を嫌う人も結構いるし。

 ……まさか、私が飲めると知って在庫処分しようとしているとか? いやこの侍女長さんはそんなことしないか。海藍様は分からないけど。いや海藍様もそんな陰謀とかできないかしら?

 ハーブティーの効能か、ずいぶんと落ち着いた雰囲気になってきたような気がする。

「……ところで、太妃様ってどんな人なんです?」

「なに? 急に興味を持って? 何を企んでいるの?」

「企んでいるって……。そりゃああっちが興味を持っているなら気になるでしょうに」

「ま、それもそうよね。――太妃様は、傑物よ」

「ほう」

「先帝陛下が心を病まれ、不老不死研究に没頭したあとも。陛下に代わって政務を取り仕切った――らしいわ」

「そこは伝聞なんですね?」

「当たり前でしょう。その頃私はまだ後宮にいなかったのだから。そもそも後宮にいたって政治の話なんて入ってこないし」

「…………」

 瑾曦様や雪花なら普通に政治情勢も知ってそうだし、子猫あたりを使えば情報入手も容易いでしょうに。『後宮にいるのだから政治の話は分からなくて当然』と無邪気に信じている海藍様、ほんと大丈夫……? おねーさん心配よ……?

「なによその生温かい目は?」

「生温かい海藍様を見つめております」

「どんな表現よ、それ?」

 こう、氷水のような後宮からは一線を引き、ぬるま湯の中でぬくぬくとしている、みたいな感じ?

「なんか失礼なこと考えてない?」

「まさかまさか。ささ、続きをどうぞ」

「こやつは……。…………。……太妃様もご高齢だからね。そろそろ『次』について考えているらしいわ」

「ほうほう」

 そういえば、太妃様って何歳くらいなのかしらね? 梓宸の母親と同じくらいならそこまで高齢って感じじゃないでしょうけど。でも先帝の最初の奥さんならそれなりに年取っていても不思議じゃないのか。

 しかし、『次』といっても他に皇族の男子はいないし、このまま梓宸でいいんじゃないかしら? あとは皇族の血が入った貴族家の男子を連れてくるくらいで……と、考えていると、

「――太妃様は不老不死を求めている、とされているわ」

「それは、水銀を飲んでいると?」

「本当に飲んでいるかは分からないけれど。水銀を持っているのを見たという噂があるわ」

 政治の話には興味がなくても、太妃様に関することは別らしい。

「でも、先帝陛下旦那さんは水銀を飲んで体調を崩したんですよね? 自分の夫が死んだ原因を、飲もうとしますかね?」

「終わりが見えてきた人間の考えなんて、知らないわよ。そういうものなんじゃないの?」

「まぁ、それもそうかもしれませんけど」

 若い頃は不摂生だった人間が、年を取ってから健康を意識するなんてありふれた話だものね。

 しかし、水銀かぁ。また面倒くさいことになりそうな……。

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