行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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太妃


 相手が太妃様だというのなら相応の対応をしましょうか。

「これはこれは。まさか太妃様とは。私の愛玩動物ペットが迷い込んでしまったようで、申し訳ございません。本来であれば礼を尽くした対応をしたいところではありますが、なにぶん庶民の出であるもので礼儀作法には疎く。太妃様の海よりも広い御心でご寛恕いただければと」

「よく回る口だこと」

「よく言われます」

「……我が宮に許可なく足を踏み入れるとは。いい度胸をしているわね?」

「ははは、うちの小動物が申し訳ありません」

「それが愛玩動物だというのなら、飼い主が責任を取るべきではないかしら?」

「いやいや、連座(連帯責任)など今どき流行らぬでしょう。無礼の責任を取るべきはあくまで本人。一族連座などが必要なのは皇帝の威光が弱きゆえ。我らが偉大なる9代皇帝劉宸陛下であれば敵対者の一族すら従わせてみせることでしょう。つまり陛下の治世において連座など不要でございます」

「そなた、その偉大なる皇帝陛下を足の下に敷いたようだけれど?」

「ははは、よもやそんな。そんなまさか。見間違いでございましょう。それが証拠に陛下は元気に立っているではないですか。――ねぇ?」

「はい!」

 倒れ込んだ床から即座に立ち上がり直立不動になる梓宸であった。よろしい。

「……情けない」

 深々とため息をつく太妃様。うん、分かります。今この瞬間太妃様と心を通じ合わせた私であった。おぉ、これは仲良くできるのでは? 具体的に言えば海藍様くらい仲良くできる気がするわ。

「そなた、突如として現れたように見えたけど、それは方術かしら?」

「いえいえ、方術士などという詭弁士と一緒にしないでいただきたく。これは由緒正しき神仙術にてございます」

「あなたの方がずいぶんと詭弁を弄しているように見えるけれど?」

「おや、私の真心が通じていないとは。これは我が不徳の致すところと言えるやもしれませぬ」

「ふざけた女ね」

「よく言われます」

「よく言われるなら修正しなさい。その頭の中に脳みそ詰まっているならね」

「いやぁ、これは手厳しい。ははははは」

「……そなた、ずいぶんと暴れているそうね? 後宮の火事を消したとか、呪いの本の正体を見破ったとか」

「おや、さすがは太妃様。耳がお早い」

にわかには信じられないことばかり。そなたが本物の神仙術士だというのなら。何か証拠を見せてもらいましょうか」

「そうですねぇ。今すぐに、ご納得いただける『術』といいますと――」

 にっこりと。友好的な笑みを浮かべる私。

「――水銀は飲まない方がいいですよ? 無駄に苦しむだけですから。神仙術士として警告します」

「水銀、ねぇ? 哀家アイジャが水銀を飲んでいるなんていう噂、情報を収集すれば誰でも知ることができるわね」

「ははは、宮中にやって来てこの短期間でこれほどの情報収集能力を発揮した私をお褒めいただければと」

「情報収集能力は神仙術士としての能力と何か関係があるの?」

「おっと、なんとも鋭いご指摘」

 ぺしん、と自らの頭を叩く私だった。この軽い感じ、ちょっと子猫を参考にしすぎたかもしれないわね。

「軽い言動。陛下に対する敬意のなさ。――およそ皇后には出来ない人間だわ」

 おやおや? なぁんか話が変な方向に転がりそうな?

「いやいや、私など皇后にはとてもとても。しかし、太妃様は噂通りの傑物。これは小娘程度では敵いそうにありません。怪しげな神仙術士はこれにて失礼いたしましょう。ではでは」

 梓宸の首根っこを掴み、そのまま太妃様の宮から逃げ出す私だった。

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