行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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幼なじみ


「凜風! 水銀とは一体どういうことだ!?」

 太妃様の宮(?)から出てしばらく歩いていると、もう我慢できないとばかりに梓宸が尋ねてきた。

「そのままの意味よ。水銀は飲んではいけません」

「……太妃が水銀を飲んでいるのか? 先帝が水銀で死んだというのに?」

「飲む人もいるんじゃない?」

「そんな適当な……」

「だって私と敵対しているらしいし? 警告はしたのだからあとは自己責任でしょう」

「それはそうかもしれないが……」

「しかしあの太妃様、意外と仲良くなれそうね」

「どうしてあのやり取りでそんな感想を……。凜風の心臓は鋼に毛が生えているのか?」

「どういう表現よ、それ」

 阿呆なことを言う梓宸に呆れるしかない私だった。まったく蚤のような心臓を捕まえて失礼な男である。

「蚤というか象というか……」

「あ゛? 何か言った?」

「いえ何も。しかし、なぜ急に太妃のところに? まさか俺を巡って太妃と戦うつもりで――痛いっ!?」

 阿呆なことを抜かす梓宸のケツを蹴り上げる私だった。

「そういうあなたこそ、なんで太妃様のところにいたのよ?」

「……え? それはもう、政治の相談とかだな――痛い!?」

 梓宸の背中を『バシーン』と叩く私だった。

 梓宸が私の嘘を見抜けるように。
 私も梓宸の嘘を見抜けるのだ。
 もはや視るまでもなく。

「――余計なことはしなくてよろしい。太妃様なんて適当にやり過ごせばいいのだから。梓宸に庇ってもらうまでもなく」

「いや、しかしだなぁ……だが、凜風ならたとえ敵対しても力でねじ伏せられるか……」

「私を何だと思っているのか」

 再び梓宸の背中をぶっ叩く私だった。


                ◇


 後宮へと戻る道中。なぜか梓宸と並んで歩いている私だった。なんだか道行く文官や武官の視線が集中しているわね。

「む! そうか! これは逢い引きと言えるのではないか!? 欧羅風に言うと『でぇと』だな――痛い!?」

 もはや何度目かも分からない指摘ツッコミをする私だった。

「阿呆なこと抜かしてるんじゃないわよ」

「だ、だがなぁ、維や孫武とは逢い引きしたのだろう? なら俺とだって……」

 なぜ呪いの本の調査が逢い引きになるのか。皇帝ってこんな頭でもできるの? 維さんの苦労が忍ばれるわね……。

 やれやれとため息をつきつつ歩いていると、医局の看板を見つけた。
 医局というと太妃派閥だとか、ヒ素中賊の患者さんを入院させず部屋で療養させていたりと良い心証イメージがないのよね……。

「お? なんだ? 医局に興味があるのか?」

「興味ねぇ……」

 私は欧羅医学と神仙術を組み合わせた独自の医術を習得しているので、まったく興味をそそられないわね。『ここが噂の医局かー』くらいのもので。

「よしよし、ならば見学させてやろう。なぁに、凜風には皇帝らしいところを見せなければな」

 なんか知らないけどやる気満々な梓宸だった。なるほど、これが欧羅小説で言うところの『フラグ』ってやつね?

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