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患者
「――なりません」
医局の入り口で。医官から立ち入り拒否を通告される梓宸だった。ざまぁ。
じゃなくて。まさか皇帝陛下を前にして立ち入り拒否するとは。首を刎ねられた上に一族郎党皆殺しでも不思議ではないのでは?
医官さんは見た目だけなら何の変哲もない中年男性。皇帝を前にして我を通すような頑固者にはとても見えない。
だというのに即座の完全拒否なのだから――梓宸、よっぽど嫌われているんじゃない? 可哀想な梓宸……。
「陛下。医は仁術。医は知術。医学とは絶え間なく更新される知識と、仁慈の心で行うべき術。ゆえにこそ、人を騙し、古来の術に固執する道士を立ち入らせるわけにはまいりません」
おっと違った。私が嫌われているらしい。可哀想な私。
「――ほぅ? 我が妃を馬鹿にするとは。覚悟はできているのだろうな?」
明らかに不機嫌な声を出す梓宸だった。誰が妃か、誰が。
妃扱いに対するツッコミと、威圧感を霧散させるために梓宸の尻を蹴り上げる私。梓宸って筋骨隆々だから怒ると怖いのよね。もちろん孫武さんほどじゃないし、私にはまるで効果がないのだけど。
「り、凜風ぁあああ……」
情けない声を上げるこーてーへーか様は無視して。私は医官さんに視線を移した。とはいえ、言い争いをしたり無理やり医局に入るつもりはない。そもそもここには梓宸に連れてこられただけだし。欧羅式の医学を学んだ私にとって、大華国の医学はさほど……ん?
医官さんの背後に広がる医局。そこに並べられた寝台(ベッド)を見た私は動きを止めた。一人、女性が寝かされていたためだ。
「…………」
特に意識するでもなく『視る』私。普段はよほどのことがない限り無許可で他人を視たりはしないけど、病人であれば話は別だ。死んだら個人の秘密もなにもないし。そもそも大華国においてそんな概念は希薄だ。
「……あちゃー」
アレはダメだ。大華国はもちろん、欧羅の医学でも対処が難しい。あんな若いのに珍しいわね……。
「ちょっと失礼」
医官さんの横を通り過ぎ、中に入ろうとすると、
「ま、待て! 聞いていなかったのか!? 怪しげな道士など――ぐっ!?」
私を止めようとした医官さんは、何とも不思議なことに動きを止めてしまった。この世は不可思議で満ち溢れているわね。
というわけで、遠慮なく中へと入って患者さんを診察する。
女性。
年齢は30~40代。
痩せ細り、かなり末期の状況だと思われる。
お腹が膨らんで見えるのは太っているわけではなく、腹水か。
寝台近くには血の溜まった桶。吐血か、あるいは下血でしょう。
瞼を開けてみると眼球は黄色く染まっていた。
うん、診察結果も千里眼で視た結果を裏付けているわね。
「凜風? どうなんだ?」
医局の入り口に立ったまま尋ねてくる梓宸だった。この前毒を飲んだ侍女に近づいた梓宸に『皇帝が安直な行動をするな!』と蹴りを入れたことが効いているのかしらね?
尋ねられたのだから答えてあげてもいいけど……あまり専門的な単語を使ってもしょうがないから……。
「そうね。悪い腫瘍が身体の中で増えてしまっている、ってところかしら?」
私の答えを聞き、医官さんが驚きで目を見開いた。どうやら症状から病気を察していたらしい。優秀な人だ。……優秀だからと言ってどうにかできるものじゃないのだけどね。
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