行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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無粋

 私が自分の目に回復魔法を掛けていると、

「――おう梓宸。そろそろ『お大臣様』たちとの会食の時間だ」

 医局を訪ねてきたのは孫武さん。大臣との会食? 皇帝陛下がそんなことまでするの? ……まぁ梓宸ならやるかしら。良くも悪くも『軽い』のが梓宸という男なのだ。

 あと理由を付けるなら側妃の息子なので後ろ盾が弱いってところかしら? 皇帝なんて椅子の上でふんぞり返っているものだと思うんだけどねぇ。

 そんなよわよわ皇帝はキリッとした顔で妄言を口にした。

「馬鹿な! まだ凜風との『でぇと』の途中なのだぞ!」

「……だ、そうだが? どうなんだ嬢ちゃん?」

「私が梓宸なんかとデートするわけないじゃない」

「よし、言質取った。というわけで諦めろ皇帝陛下。政治の安定のためには偉いお貴族様とも仲良くしなくちゃな」

 ガッシリと梓宸の襟首を掴み、そのまま引きずっていく孫武さんだった。やだ……皇帝の威厳……皆無ゼロ……。


                  ◇


 こーてーへーかの痴態は見なかったことにして。

 私は改めて患者さんに向き直り、診察をしたのだった。

 悪い腫瘍は全て除去済み。
 呼吸はずいぶんと穏やかになったし、顔に血色も戻ってきた気がする。

 しかし、だからといってすぐに元気になるわけでもない。まずは体力回復に努めないとね。
 まぁ、その辺は大華国の医療が得意とするところでしょう。症状から病名を察していたこの医官さんなら間違ったこともしないはず。

「すでに病の原因は除去しましたので、あとは療養させて体力の回復を図ってください」

「おぉ……なんと……」

 わなわなと震えながら患者に近づいていく医官さん。触診を行っているけれど、まだそこまで急激な回復は達成されていないはず。

 なのだけど、医官さんは病気からの回復を確信したようだ。まぁ先ほどよりも呼吸は楽になっているし、その他にも細かな変化はあるのかもしれない。毎日事細かに診察していなければ分からないほどの僅かな変化だろうけど。

「凜風様……感謝を……感謝を……」

 患者さんからこちらに向き直り、深々と頭を下げてくる医官さん。

 なんだろう? こう、医者と患者を越えた『情』が込められている気がする。

 …………。

 末期の患者と、甲斐甲斐しく看病していた男。

 医師としての使命感としてではなく、それ以上の『情』があったとしたら?

 そう考えれば、呪いの本によって弱っていた(と思われていた)あの学者さんを医局で預からずに自室療養させたのも納得できるかもしれない。もしも感染症だったら、体力の削られたこの女性は真っ先に感染してしまうだろうし。

(……って、いやいや、考えすぎか)

 阿呆な梓宸のせいでこっちまで阿呆な考えをしてしまった。

 いやまぁ。この医官さんを視てしまえば一発で答え合わせができるのだけど……無粋よね、無粋。


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