行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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医学書


 患者さんを治療したおかげか医官さんからの険はだいぶ和らいだ。……というか、好感度が上がった気すらするわね。

「改めまして。医官の李仲景でございます。先ほどは大変な無礼を――」

「あぁ、いえいえ。怪しんで当然ですから」

 真正面から謝られると許すしかない私だった。まぁ悪意はなさそうだし。そういうのは視るまでもなく分かるのだ。こう、黒いモヤがにじみ出ている感じ? そもそも私って端から見れば『皇帝に取り入った怪しげな道士』でしかないしね。

 おっと、挨拶されたのだからこちらからも名乗らないとね。

「はじめまして、許凜風です」

「存じ上げております。道士……いえ、神仙術士なのだとか」

「えぇ、道士とは違います」

「なるほど。医局の者たちにも間違えぬよう伝えておきます。……あの技は欧羅の医学でしょうか?」

「欧羅の医学と神仙術を組み合わせた感じですね」

「ほほぅ、興味深い。欧羅医学には鑑定眼アプレイゼルというものがあるそうですが、許様もお持ちなのですか?」

 どこか興奮した様子で李さんが本棚へと向かい、古びた本を持って戻ってきた。分厚い表紙。欧羅式の本だ。

 題名は『最新式羅逸ライツ医学』か。その下に発行年数も書いてあるけど……ずいぶんと古い本ね。

「珍しい。羅逸の医学書ですか」

「おぉ! もしや許様は欧羅の言葉を読めるのですか!?」

「えぇ。うちの実家は商売をしていますが、欧羅との取引も行っていますので」

「なんとなんと! では、欧羅の医学書も入手できるのでしょうか!? この本もかなり古いようですし……やはり最新の医学書も気になっておりまして……」

「えぇ、それは可能ですし、お望みであれば翻訳も行いますが」

「なんとそこまで!? いやぁ、私も欧羅の言葉を学んででいますが、どうにも理解できない箇所がいくつかありまして……」

「医学の専門用語はまた特殊ですからね」

「まことに。翻訳までしていただけるのはありがたい。許様の腕であれば内容も理解しておられるでしょうし……是非お願いできればと」

「それはいいですけど……いいんですか? 欧羅の医学ですよ?」

「? と、申しますと?」

「いやほら、太妃様は欧羅の文化に否定的なんでしょう? 医官って太妃派なんですよね?」

 という噂だったはずだ。あくまで噂だけれども。

 私の質問に、李さんは困ったように苦笑するのだった。

「ははは、たしかに欧羅の文化を嫌ってはいるようですが、だからといって医学までも拒絶することはありません。現にこうして欧羅の医学を学ぶことを許してくださっていますし」

 まぁ視たので分かっていたけれど、ほんとにそんな感じなのねぇ。

「では知り合いの欧羅商人に医学書を頼むとしてまして……」

 まだディックさんも欧羅に戻っていないはずなので、注文できるはず。もう出発していても縮地で追いつける距離だろうし。

 あとはディックさんが戻ってくるのを待たなくても、医官さんに魔法の才能があるなら回復魔法の本も売ることができる。私の私物を写本してって感じだけど。

 私は一度読めば覚えてしまうけれど、それはそれ。やはり実践するときは本を読みながら慎重にやりたいものなのだ。

「医局に回復魔法が使える人っているんですか?」

「いやぁ、分かりません。そもそもそんなものが実在することすら知らなかったもので」

「それもそうですよね」

 今度医局の人を集めて調べてみましょうか。……いや、医官以外でも才能があるなら教えてしまえばいいのか。
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