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翌朝。
私は後宮を出て、秘書監(図書館長)である琳玲さんのところへやって来た。
「凜風様……もしや、私と真なる愛について語り合いに……?」
「違います」
目をキラッキラとさせる琳玲さんを即否定。何が楽しくて野郎同士の愛を語り合わなきゃいけないのか。変に誤解されても面倒なのでさっさと今日の訪問目的を伝えてしまうことにする。
「蔵書楼(図書館)って国が購入した本の履歴って分かります?」
「購入履歴ですか? はい、本に関する一切は秘書省が承っていますので」
「それは例えば医官が購入した医学書も分かったり?」
「そうですね。個人で購入したものまではさすがに分かりませんが、国の予算で購入したものなら記録されているはずですよ」
「それ、見せてもらうことってできます?」
「……目的は?」
ちょっと訝しげな顔をする琳玲さん。まぁいきなりだと訳が分からないわよね。
「医官の李仲景さんから欧羅の医学書を注文されまして。すでに宮中にある本は買ってもしょうがないですし。事前に確かめられるなら確かめておきたいんですよね」
だって持っている本を仕入れても買ってくれないし。そうなるとこちらが赤字になってしまうのだ。欧羅からの輸送費、とてもたかい。
「あぁ、そういうことでしたか。凜風様は商人の娘ですものね。……ちなみに、それは李様の個人的な注文で? あるいは医局の予算を使った購入でしょうか?」
「……どっちなんでしょうね?」
「……意外と抜けてる」
「失礼な」
「いえいえ、『意外と抜けている』ということは、『噂だけ聞くとしっかり者』という意味なのですよ」
「ごまかすにしても、もう少しやる気出してもらえません?」
「いえいえ、でも実際噂だけなら凄い人ですよ? 皇帝陛下を恐れることなく諫言し。毒殺未遂事件が中毒事故だと見抜いて関係者を冤罪から救い。不思議な術で後宮の火事を消し。呪いの本の原因を究明したりと」
「いやだから、『噂だけなら』って……」
この人、案外失礼よね。最初のオドオドした様子はどこに行ったのか。……早々に演技を放り投げたのだったわね。
「凜風様の威光は宮中を照らし、その術は常に人々の間で語りぐさになり。美しさは後宮一と評判なのですよ」
「褒めてはくれているんでしょうけど……棒読みぃ……」
いったい何なのだこの人は。今まで会った人間の中でも特級の奇人なのだが?
「あーもういいや。とにかく、一覧表みたいなものっていただけます?」
「一覧表ですか。購入書籍は分野ごとに分けて記載していますので、それを見れば分かるかと思います。秘書監としても宮中に本が増えるのは喜ばしいのでご協力いたしましょう」
琳玲さんが蔵書楼の奥に引っ込み、しばらくして目録のようなものを持ってきてくれた。どうやら年度ごとに購入した本の書名と簡単な内容が記されているらしい。
その目録をペラペラと捲り、琳玲さんに返す私。
「ありがとうございました」
「……いや、もうよろしいのですか? 一度見ただけですよね?」
「えぇ。一度見れば全て覚えられますので」
「……完全記憶。噂には聞いたことがありますが、実在するのですねぇ……。羨ましい……」
なぜか羨望の目で見られてしまう私だった。普通にできることでそんな目を向けられてもねぇ。
気恥ずかしさというか申し訳なさというか。微妙な心境から逃れるためにもう一つお願いをする。私的にはむしろこっちが本題だ。
「今まで後宮に入った本も分かります?」
この目録は国が買った本が記されているだけで、その後どこに行ったかまでは書いてないのだ。
「うーん、それは調べてみないと分からないと思います。……今度はどういうおつもりで?」
「はい。――後宮に小説を持ち込んで一稼ぎしようかと」
背中を丸めながら声を潜めると、琳玲さんもまた声を潜めた。
「なるほど、中々興味深いお話で。……ちなみに、後宮に小説を持ち込むなら、我ら秘書省もお力になれると思うのですが?」
「それは検閲を緩くしてくれるという意味で?」
「えぇ。後宮の主宰者や尚宮局、尚儀局あたりが横やりを入れてくるかもしれませんが、我らが総力を挙げてお力添えを致しましょう。……ただし、売り上げの一部で書籍補充にご協力いただければと」
「なるほど、そういうのは大事ですね」
「えぇ、大事です」
くくくっ、と笑い合う私と琳玲さんだった。
◇
「ちなみにどういった本を持ち込むおつもりで? ――まさか! 真実の愛の本を!?」
「それはもういいですから」
鼻から息を吐く私だった。
「えーっとですね、まずは普通のっ、男女のっ、恋愛小説っ、でしょう。あとはそうですね、妃たちは宮に引きこもっているので旅行記とか? 『演劇ごっこ』が流行っているそうなので、そういう系統の物語も売れるかもですね」
「あぁ、後宮では下級妃が演劇までしているのでしたっけ」
「後宮ってすごく暇ですからね」
「凜風様は何かとお忙しそうですけど?」
「それでも暇なときは暇ですよ。まぁ最近はちょっとした楽しみもありますけど」
「……それは美丈夫を侍らせた酒池肉林とかですか?」
「あなたは私を何だと思っているのか」
そろそろ頭に拳骨落としても許されるんじゃない、私?
私は後宮を出て、秘書監(図書館長)である琳玲さんのところへやって来た。
「凜風様……もしや、私と真なる愛について語り合いに……?」
「違います」
目をキラッキラとさせる琳玲さんを即否定。何が楽しくて野郎同士の愛を語り合わなきゃいけないのか。変に誤解されても面倒なのでさっさと今日の訪問目的を伝えてしまうことにする。
「蔵書楼(図書館)って国が購入した本の履歴って分かります?」
「購入履歴ですか? はい、本に関する一切は秘書省が承っていますので」
「それは例えば医官が購入した医学書も分かったり?」
「そうですね。個人で購入したものまではさすがに分かりませんが、国の予算で購入したものなら記録されているはずですよ」
「それ、見せてもらうことってできます?」
「……目的は?」
ちょっと訝しげな顔をする琳玲さん。まぁいきなりだと訳が分からないわよね。
「医官の李仲景さんから欧羅の医学書を注文されまして。すでに宮中にある本は買ってもしょうがないですし。事前に確かめられるなら確かめておきたいんですよね」
だって持っている本を仕入れても買ってくれないし。そうなるとこちらが赤字になってしまうのだ。欧羅からの輸送費、とてもたかい。
「あぁ、そういうことでしたか。凜風様は商人の娘ですものね。……ちなみに、それは李様の個人的な注文で? あるいは医局の予算を使った購入でしょうか?」
「……どっちなんでしょうね?」
「……意外と抜けてる」
「失礼な」
「いえいえ、『意外と抜けている』ということは、『噂だけ聞くとしっかり者』という意味なのですよ」
「ごまかすにしても、もう少しやる気出してもらえません?」
「いえいえ、でも実際噂だけなら凄い人ですよ? 皇帝陛下を恐れることなく諫言し。毒殺未遂事件が中毒事故だと見抜いて関係者を冤罪から救い。不思議な術で後宮の火事を消し。呪いの本の原因を究明したりと」
「いやだから、『噂だけなら』って……」
この人、案外失礼よね。最初のオドオドした様子はどこに行ったのか。……早々に演技を放り投げたのだったわね。
「凜風様の威光は宮中を照らし、その術は常に人々の間で語りぐさになり。美しさは後宮一と評判なのですよ」
「褒めてはくれているんでしょうけど……棒読みぃ……」
いったい何なのだこの人は。今まで会った人間の中でも特級の奇人なのだが?
「あーもういいや。とにかく、一覧表みたいなものっていただけます?」
「一覧表ですか。購入書籍は分野ごとに分けて記載していますので、それを見れば分かるかと思います。秘書監としても宮中に本が増えるのは喜ばしいのでご協力いたしましょう」
琳玲さんが蔵書楼の奥に引っ込み、しばらくして目録のようなものを持ってきてくれた。どうやら年度ごとに購入した本の書名と簡単な内容が記されているらしい。
その目録をペラペラと捲り、琳玲さんに返す私。
「ありがとうございました」
「……いや、もうよろしいのですか? 一度見ただけですよね?」
「えぇ。一度見れば全て覚えられますので」
「……完全記憶。噂には聞いたことがありますが、実在するのですねぇ……。羨ましい……」
なぜか羨望の目で見られてしまう私だった。普通にできることでそんな目を向けられてもねぇ。
気恥ずかしさというか申し訳なさというか。微妙な心境から逃れるためにもう一つお願いをする。私的にはむしろこっちが本題だ。
「今まで後宮に入った本も分かります?」
この目録は国が買った本が記されているだけで、その後どこに行ったかまでは書いてないのだ。
「うーん、それは調べてみないと分からないと思います。……今度はどういうおつもりで?」
「はい。――後宮に小説を持ち込んで一稼ぎしようかと」
背中を丸めながら声を潜めると、琳玲さんもまた声を潜めた。
「なるほど、中々興味深いお話で。……ちなみに、後宮に小説を持ち込むなら、我ら秘書省もお力になれると思うのですが?」
「それは検閲を緩くしてくれるという意味で?」
「えぇ。後宮の主宰者や尚宮局、尚儀局あたりが横やりを入れてくるかもしれませんが、我らが総力を挙げてお力添えを致しましょう。……ただし、売り上げの一部で書籍補充にご協力いただければと」
「なるほど、そういうのは大事ですね」
「えぇ、大事です」
くくくっ、と笑い合う私と琳玲さんだった。
◇
「ちなみにどういった本を持ち込むおつもりで? ――まさか! 真実の愛の本を!?」
「それはもういいですから」
鼻から息を吐く私だった。
「えーっとですね、まずは普通のっ、男女のっ、恋愛小説っ、でしょう。あとはそうですね、妃たちは宮に引きこもっているので旅行記とか? 『演劇ごっこ』が流行っているそうなので、そういう系統の物語も売れるかもですね」
「あぁ、後宮では下級妃が演劇までしているのでしたっけ」
「後宮ってすごく暇ですからね」
「凜風様は何かとお忙しそうですけど?」
「それでも暇なときは暇ですよ。まぁ最近はちょっとした楽しみもありますけど」
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