行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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話題

 私が借りている宮に戻り、先ほど覚えた蔵書一覧表を紙に書き写していく。あとはこれをディックさんに渡し、いい感じに本を選んでもらいましょう。

 欧羅の医学書は20年ほど前から購入し始めたようだ。今まで聞いた話を総合すると……先帝が不老不死を求めて怪しげな道士に頼り、水銀を飲み始めたあと。太妃様が従来のれっきとした医官を保護したって感じ? で、医局は太妃派になったと。

 さすがに20年も前の医学書だと色々と古くなっていると思う。けれど、太妃様が再購入させた様子はなし。……興味がなければこんなものか。一度買えばいいだろうって感じで。そういう頭の硬い上司をどう説得するかも商人の腕の見せ所だったりする。

(李さんはあの患者さんの病原が腫瘍だと見抜いていたみたいだし、ちゃんと欧羅の医学書から学んでいたのでしょうね)

 購入したのは羅逸ライツの医学書が中心。外科や内科、薬草、毒や中毒に関する本など。基本に忠実と言えるでしょう。
 やはり外科手術と言えば羅逸よね。手術の道具もあの国のものが最高品質とされているみたいだし。

 ちなみに『欧羅』というのは西洋の大陸の総称で、それぞれに羅逸などの国があるみたい。

 そんな欧羅から買った本の中に、回復魔法関連はなし。まぁこれは仕方ないでしょう。そもそも大華国には回復魔法という概念がないし。制度を作って回復術士を育てるにしても、先帝(皇帝)が怪しげな道士に入れ込んでいる中では『まさか太妃様も怪しげな術を……?』となってしまうはずだ。

(となると……)

 私がその可能性に思い至っていると、

『――モォ!』

 部屋の外で雷獣が吼え、

「わぁ!? 何ですか!? 私は食べても美味しくないっすよ!?」

 聞き慣れたくもないけど、聞き慣れてしまった声が響いてきた。

 自称情報屋の子猫でしょう。子猫という名前の割には可愛げのない子。まぁその分面白いからいいのだけど。

「雷獣ー、そのまま食べちゃってもいいわよー」

 扉越しに廊下の雷獣へ許可を出す私だった。

「――なんてことを言うんですか凜風様!?」

 ぴしゃーん、っと扉を開けたのは予想通り子猫。頭に雷獣が噛みついているわね。おもしろ。

「まったく! 愛玩動物の躾はちゃんとして欲しいっすね!」

「ちゃんとしているじゃない。不審者に噛みついているのだから」

「私のどこが不審者っすか!?」

「どこからどう見ても不審者じゃない」

 むしろ自分が真っ当な人間だと思っているのだろうか子猫は?

 私が呆れ果てていると、雷獣を引き剥がした子猫が対面の席に腰掛けた。微塵も遠慮することなく。

「いや~、しかし、凜風様。少し見ないうちにまたまたご活躍なさったようで! 後宮も凜風様の噂で持ちきりですよ!」

「へぇ? どんな感じに?」

「やっぱり話題の中心は大臣の毒殺未遂事件っすよ! 凜風様が華麗に冤罪を回避した上、未だに魔導具をすり替えた人間が見つかってないんですから! 謎が謎を呼ぶって感じっすね!」

「ふーん? 子猫は誰が犯人だと思う?」

「いやぁ、まだ分からないっすねぇ。あの大臣はかなり恨まれていたみたいなんで」

「へぇ? そうなんだ? それは毒殺されかねないほど?」

「そりゃあもう! ずいぶんと悪辣なことをしていたようで、宰相殿も密かに調査をしていたようですよ? 讒言ざんげんによって他の文官を蹴落としたり、人事に介入して私腹を肥やしたり。他にも人身売買に、商人との裏取引。機密情報を外国に漏らしたという噂も……」

「へー」

 人身売買自体は禁止されてないけど、許可を得ていないなら違法となる。あとやっぱり『大臣ともあろうお方が……』って感じもあるかもね。

 もちろん、敵対国と手を結んだとなれば斬首でもおかしくない。一族も一緒に。

 それが分かっているのかいないのか。どこか興奮した様子で子猫が語り続ける。

「毒検知の魔導具がいつすり替えられたかを調べるという名目で、大臣の家にも調査が入ったとか。まぁそれはついでで、本命は汚職の調査でしょう。これであの大臣も終わりですね!」

「ふーん」

「……興味なさげですね?」

「実際興味ないし」

「皇后になるなら大臣の汚職にも興味持った方がいいですよ?」

「だから皇后になんてならないわよ」

 ふぅー、っとため息をつく私だった。


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