行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

文字の大きさ
83 / 105

太妃

 太妃様のいる部屋に通されると、一気に複数の視線が向けられた。太妃様に仕える侍女たちのものだ。

 最初来たときはあまり気にしてなかったけど、いかにも尊大――いや、高貴そうな女性が揃っているわね。やはり仕える主人によって侍女の性質も変わってくるのかしら?

 私は別にいいのだけど、侍女がいる中で深い話をしても大丈夫なのかしらね? なぁんて私が考えていると、

「――下がれ」

 御簾の向こう側からそんな声が。たぶん侍女たちに部屋から出て行けと命じたのだと思う。いや私に言った可能性もなきにしもあらず?

「太妃様!? そんな、このような怪しげな道士と二人きりになるなど!?」

 侍女長らしき女性が慌て始めたので、どうやら侍女に出て行けという意味で合っていたようだ。

「――聞こえなかったのか?」

 おぉ、不機嫌さが声に乗っている。さすが太妃様、一言だけでこの場の雰囲気を重苦しいものにしてしまったわ。

 並みの人間であればこの威圧感だけで唯々諾々と従ってしまうのでしょう。
 しかし、侍女長は引き下がらなかった。

「なりません! 御身に何かあっては――っ!」

 おぉ、すごい。何という忠臣。ちょっと感動しちゃったかも。
 というわけで、少しだけ手助けすることにした私である。

「まぁまぁ、そこまで心配しているなら、侍女長さんだけでも残られては?」

 なんという寛大さ。何という仲裁力。これは太妃様も手放しで絶賛し、侍女長さんは感涙の涙を流すことでしょう。

「…………」

「…………」

 なぜかジトッとした目を向けられてしまう私だった。

 しかし私の提案はやはり素晴らしかったらしく、侍女たちは渋々といった様子で部屋から出て行った。

 この場に残されたのは私、子猫、侍女長さん。そして部屋の主である太妃様のみ。

「…………」

 御簾の向こう側からこちらを凝視されている。あちらから喋るつもりは……なさそうね。ここは私から話を切り出す場面かしら?

「本日はお招きいただき、大変ありがたく。以前にも申しましたが平民ですので正式な礼儀作法など存じ上げません。あしからず」

「……南朝貴族の末裔、許家の娘がよくもまぁぬけぬけと」

 呆れたようにため息をつく太妃様だった。そんなこと言われても。父たちは本気で貴族の末裔だと信じているみたいだけど、それだって『誇り高き我らがご先祖様!』って感じで、自分たちは商人であると理解しているし。

 もちろん私も貴族の娘としての教育を受けたわけじゃないので、今さら貴族的な態度を求められても困るのだ。

「その軽い言動。どうにかならないのかしら?」

「いえいえ、こればかりはどうにも。そのうち出て行きますのでそれまで我慢していただければと」

「……いざとなれば海藍に任せればいいか」

 なぜここで海藍様を? まさか、私の教育係にしようと? いやいやすぐに出て行くって言っているじゃないですか。

 どういうつもりなのかは心を視れば分かる。
 しかし、楽しく会話しているときに心を読んでもねぇ?

 ふぅ、っと小さく鼻を鳴らす太妃様。

「子猫からは、お前から話があると聞いていたのだけどね?」

 先ほどの侍女に対するものから比べれば、どことなく口調が柔らかいものになっていた。やはり私の人徳とか能力がそうさせるのかしらね? ……いや『お前』呼ばわりはどうかも思うけれど。

「ははは、私は太妃様からお呼び出しがあったので参上したのですが。これは子猫にしてやられましたか」

「してやられた、というわりには落ち着いているわね?」

「えぇ、まぁ想定内と言いますか。依頼内容に変更はありませんので」

「依頼内容?」

 太妃様が疑問の声を上げ、

「ちょ、ちょっと凜風様」

 子猫が私の服を引っ張る。けれど、私は容赦なく口を動かしたのだった。

「この子猫から、太妃様を救って欲しいと依頼されましたので」

「なんで言っちゃうんですかぁああああ!?」

 ぬぉおぉおお、っと頭を抱えてその場にしゃがみ込む子猫だった。おもしろ。

「……あの子猫がねぇ」

 どこか嬉しそうな様子の太妃様だった。拾った野良猫が懐いた、みたいな?

「子猫の忠誠心は嬉しいけれど。お前はなぜ依頼を受けたのかしら? 怪しげな術士を排除しようとしていたことくらい知っているのでしょう?」

「太妃様ならば銭の支払いもよろしいでしょうし」

哀家アイジャが支払うと?」

「もちろん子猫からも搾り取りますが。そこまでお金は持っていないでしょうし。ここは太妃様が器の大きさを見せていただければなーっと」

「たわけた女だこと」

 太妃様が呆れたようにため息をつき、

「――本音は?」

 彼女の言葉で、ほんの少しばかり緊迫した空気となった。



感想 23

あなたにおすすめの小説

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です *加筆修正中です