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実家へ
「――おぅえぇえええええぇ……」
「――ぐぅうううぅうううぅ……」
縮地が見事に成功し。私たちは二千里ほどを飛び越えて一大交易都市『申』に到着したのだけど……子猫と琳玲さんが地面に両膝を突いていた。弱っ。
いやまぁ琳玲さんは体調不良だったから仕方ないとはいえ、子猫は元気いっぱいだったじゃない?
「い、いや凜風様……あれで酔わない方が……」
「そう? 張さんと維さんを縮地で移動させたときは平気そうだったけど?」
あ、でもよく考えればあれは張さんの屋敷から宮殿へという比較的近距離か。都から申までの移動と比べるのは酷なのかもしれないわね。
ここは手っ取り早く欧羅の回復魔法を使っちゃう? ……でもなぁ、悪酔い(?)ってどこをどう治せばいいのだろう? もっとこう裂傷だったり骨が折れていたり悪い腫瘍があったりと分かり易ければ治療もしやすいのだけど……。
「――凜風ぁあああああぁああっ!」
「お?」
なにやら懐かしい声が。
振り向くと、土煙を上げながらこちらに駆けてくる『白い鹿』の姿が。
ここはもう実家の目の前なのでそれなりに人通りがある。普通ならあんなにデカくて白い鹿(雄なので立派な角つき)が駆けていたら周りの人は叫んだり逃げたりしそうなものだけど……みんな慣れているので驚く様子すらない。
「浄。どうしたの?」
なんだか久しぶりな我が義理の息子、浄に声を掛けると――彼は私の目の前で止まった。
「どうしたの、ではない! 宮殿に行ったまま一向に帰ってこないし! 後宮に入ったと聞かされて! こっちがどれだけ心配したことか!」
「……んー? 雪花の出産まで面倒見るだけなのだから、別に気にしなくてもいいのに」
あ、あと海藍様の赤ん坊の体調管理もしないとか。うーんしばらく帰れなさそう。安心できる年齢となると――3歳とか、5歳とか、下手すると10歳とか?
「まったく以て危機感が足りん! あの野獣のような男が! この好機を逃すはずがないだろうに!」
なぜだか不満げに暴れる浄だった。まぁこの子が情緒不安定なのはいつものことなのだけど……デカい鹿(立派な角つき)が首を振るのは危なくてしょうがないわね。
「浄。お客さんがいるのだから大人しくしなさい」
「……む、失礼した」
ここでやっと子猫と琳玲さんの存在に気づいたのか、浄が少し恥ずかしそうに咳払いをして――身体が淡い光に包まれた。目を逸らすほどのまばゆさはないけれど、凝視することが何となく憚られる、そんな不思議な光。
光が収まったとき、そこに牡鹿の姿はなく……代わりに、身の丈六尺(180cm強)を優に超える白髪の美丈夫が立っていた。
鹿から人へ。
私やこの近辺の人からすれば見慣れた光景なのだけど、さすがに子猫と琳玲さんにとっては珍しかったらしく目を見開いていた。
「り、凜風様? なんすか、これ?」
「せ、聖獣の中には人の姿を取るものもいると書物にはありますが……まさか……?」
二人が説明を求めるように視線を寄越すけど、こっちだって細かい理屈は知らないのだ。母鹿を失った浄を鹿として育てていたら、いつの頃からか人の姿を取れるようになっていただけで。
「えーっとね……世の中には不思議なことがたくさんあるのよ」
「……説明になってないっす」
「ですが、凜風さんの関係者ですからね……」
琳玲さん、私が世の中の不思議代表みたいな物言い、やめてもらえません?
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