勇者学校の指南役~私、魔王だけどいいのかしら?

九條葉月

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 ――シンシア・アルフィリア。

 原作ゲームの最高レアキャラで、私の推し。設定としては公爵家のご令嬢&王太子の婚約者でありながら勇者としての才能を開花させ、最後まで進化すると聖剣『クラウ・ソラウ』を使うことができるようになるのだ。

 ……これはマズい。
 マズすぎる。

 せっかく我が人生最高の推しが目の前にいるのに、全身血まみれというのはいただけない。せめて最低でもドレスを――着てはいるのか。ゲームキャラっぽいど派手なドレスだけど。

 ともかく、ドレスコードはO.K.っぽいので身を清めないと!

「――浄化ライニ!」

 先ほど使えるようになったばかりのスキルを使い、血まみれの身体を綺麗にする。きらきらと。きらきらと。光の粒子が舞い踊る。

「わぁ……」

 感激の声を上げたのはシンシアちゃん。お? もしや私の美しさに感激しちゃった? なにせ今の私は魔王グルグラスト13世。ラスボスでありながらそのビジュアルの良さで大人気になったキャラなのだから! 通称グル姉ぇ!

『中身はポンコツですけどね』

 ちょっと、心を読むの止めてもらえません? あと誰がポンコツだ誰が。

 私がティナに笑顔で詰め寄っていると、シンシアちゃんが「あっ!」という声を上げた。

「そうでした! 助けていただきありがとう――痛っ」

 勢いよく感謝の言葉を述べたシンシアちゃんが右腕を押さえ、顔を歪めた。大きな声を出して傷口が痛んだのかな?

「見せてみて? ……あらぁ、これはひどい……」

 クマの爪によるものだろう、骨まで見えるんじゃないかってほどの深手だった。私だったらたぶん痛みで気絶すると思う。シンシアちゃん、強い子。

 原作ゲームなら回復魔法を習得できるのだけど、私は使えるのかな? 使えたとしてもきっとまだレベル1だから大して回復はできないか……。

 あ、そうだ。
 さっきの装備ガチャでそれなりの数のポーションをゲットしたのだった。せっかくなので使ってしまおう。

 原作ゲームだと使用すると自動で体力が一定値回復していた。でも、現実で実際に使うにはどうすればいいのだろう? 飲む? 傷口に振りかける?

 まぁ、飲むより傷口に付けた方が効果ありそうだなーっと判断した私はポーションの蓋を開け、シンシアちゃんの傷にかけてみたのだった。

「え!?」

 驚きの声を上げたのはシンシアちゃん。それもそうか。骨まで達していそうな傷がみるみるうちに回復していったのだから。

 ポーションが乾くのを待つことなくシンシアちゃんの傷は完全に塞がっていた。見たところ傷跡も残ってなさそうだ。

 レア度Nのポーションにしては効果が高すぎない? 大丈夫? 間違って中級ポーションを使っちゃったとか……うん、普通のポーションだね。いやシンシアちゃんのためなら一つしかない中級ポーションを使うことも辞さないけどね私!

『女たらし』

 ティナからジトーッとした目で見られてしまった。なんでやねん。推しを助けるのに理由は不要。見返りも不要。それがオタクってものでしょうに。

『はいはい』

 なんかシンシアちゃんと出会ってからティナがさらに辛辣になったような? 嫉妬? 嫉妬してる?

 ふふふ、い奴めとニヤニヤしていると、シンシアちゃんが私の手を両手で掴んできた。

「あの! ありがとうございます!」

 うおぉおおっ! 顔が! 推しのご尊顔が目の前に! 浄化されそう!

『欲望まみれですものね』

 ティナの辛辣ツッコミは華麗にスルーしたシンシアちゃんが、真っ直ぐに私を見つめてくる。

「あの! それってポーションですよね!?」

「え? えぇ、そうよ?」

「やっぱり! 伝説に謳われたエルフの秘薬! どんな傷でも即座に癒やし、あらゆる病に効果があるとされる万能薬ですよね!? かつては一つのポーションをめぐって戦争まで起こったとか!」

「え? えーっと……ポーションってそんな感じなの?」

 原作ゲームだと装備ガチャでバンバン出てきたし、回復魔法もあったから装備品枠を空けるために容赦なく捨てられてたものなんだけど? 売っても二束三文にしかならないし。

「そうですよ! 人間の国ではこの500年ほど確認されていない超貴重品です! むしろ伝説とか作り話の類いでして! ……あ、エルフの皆さんは森で生活しているからご存じないのですか……」

「へー」

 なんでこんな便利なものが廃れたのかしらね?

「……実を言いますと、ポーションを得るために人間たちがエルフ狩りをするほどでして」

 あ、何となく察しちゃったかも。人間が欲望に任せて無茶をしちゃった系かー。そしてエルフは森に避難したと。

「……あの!」

 シンシアちゃんが私から少し距離を取り、地面に正座して頭を下げてきた。これは『土下座』にしか見えないわね……。

「助けていただいたばかりなのに厚かましいのは重々承知の上ですが! そのポーション、まだあるようでしたら譲っていただけないでしょうか!?」

「譲る? 誰かケガか病気でも?」

「はい! 実は私の母が病気でして!」

「シンシアちゃんのお母様が……?」

 それってもしかして――と、私が原作知識を思い出していると、シンシアちゃんが驚いたようにガバッと顔を上げた。

「な、なぜ私の名前をご存じなのですか!?」

 あ、ついつい口に出しちゃったか。

 うーん、『原作ゲーム知識です』なんて説明しても理解できないだろうし、変な人扱いされる可能性もある。シンシアちゃんからドン引きされたら心が再起不能になるわね、私。

 さてどう答えたものか。
 私が悩んでいると、背後に控えていたティナが一歩前に出た。

『――控えなさい、小娘』

 いやいや、初対面の少女を小娘呼ばわりって。いやいや。

「し、失礼しました! エルフの皆様方を詮索するような真似を! お許しください!」

 再び頭を下げるシンシアちゃん。え? エルフってそんな人間から恐れられている系の扱いなの? エルフ狩りとかしていたのに?

 恐縮しまくるシンシアちゃんの態度に満足したのか、ティナが何度か頷く。

『感謝しなさい。我が主は寛大なお方です。小娘のことを許すとおっしゃっています』

 いや何も言ってませんが? まぁたとえ問われても許すに決まってるけどね。シンシアちゃんだったら裏切られても許すよ私は。なぜなら推しだから。

「あ、ありがとうございます!」

『結構。素直な小娘に教えてやりますが、我が主は大いなる目的のために動いています』

「お、大いなる目的!?」

 いやなんですか大いなる目的って? 今の目標と言えば操糸手袋を上手く使えるようになりたいなーくらいのものなんですけど? あとは今後の生活の安定?

「大いなる目的とは――いえ! 詮索はしません! しませんとも!」

『よろしい。それと、主様のお力であれば名前をはじめとした情報など全てお見通しです』

「そうでしたか! そういえばエルフの中には鑑定眼アプレイゼルの上位互換を有している方もいらっしゃるとか!」

『理解が早いようで何より。しかし訂正しなさい。主様はただのエルフではありません。偉大なる祖にして大自然の化身、ハイエルフです』

「し、神話の時代より存在するという――っ!?」

 なんだろう? なんかこう、なんだろうこれ?

 うーん、嘘やごまかしを平気でしてしまうティナと、原作ゲームでも素直なキャラだったシンシアちゃんが悪い意味でベストマッチしているわね、これ。なんか私がどんどんとんでもない存在になっていっているような……?

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