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山賊
しおりを挟むほうほう? いかにも山賊っぽい格好ね? ボロボロの服に、毛皮のジャケット。森の中で鉈としても使えそうなほど分厚い剣や斧などを装備している。
さて、たぶん無駄だろうけどまずは警告して――
「――いと猛々しき焔の神よ。いと気高き紅蓮の主よ。世界の始まりの炎で以て、今こそ我が友を救いたまえ」
迷いなく。戸惑いなく。シンシアちゃんが呪文詠唱を開始した。
原作ゲーム知識がある私には分かる。これは中級攻撃魔法だ。
「――焔よ、我が敵を討て!」
呪文詠唱が終わるのとほぼ同時。シンシアちゃんの腕から炎の渦が巻き起こった。
炎の渦はシンシアちゃんから離れたあともその勢いを弱めることなく山賊の一人に命中。近くにいたもう一人をも巻き込んで、盛大に燃え始めた。
「ぎゃあぁあああぁあっ!?」
「うわぁ!? うわぁあああ!?」
絶叫しながら地面を転がる山賊二人。呼吸ができなくなったのかすぐに叫びは止まり、動かなくなった。
髪の毛が燃えたような、不愉快なニオイが森に充満する。
あまりにも凄惨な光景に絶句する私と山賊たち。
しかし、そんな惨劇の演出者であるシンシアちゃんは迷うことなく剣を抜き、山賊に斬りかかった。
一人を切り伏せられたところで山賊たちも再起動。剣や斧といった多様な武器を構え、シンシアちゃんを取り囲もうとする。
「てめぇ!」
「よくもやりやがったな!」
「手足切ったあとに犯してやるよ!」
「顔はいいからしばらく楽しめそうだな!」
粗暴な声に、嫌悪感が一気に吹き上がった。――これは負けるわけにはいかない。
シンシアちゃんの魔法は強力だけど、さっきみたいに呪文詠唱をしていたらその隙に攻撃されてしまうはず。
たった一人で残り七人と斬り合い、無事で済むはずがない。女の子の足では逃走しても逃げ切れるかどうか……。
しかし、私の予想に反してシンシアちゃんは強かった。自分より一回りも二回りも大きい男性に囲まれているのに、むしろ有利に斬り合いをしている。
(あー……)
それもそうかと納得する私。そもそも勇者候補に選ばれて、勇者学校に入学する前から鍛えていたのがシンシアちゃんだ。公爵令嬢なのだからちゃんとした師匠に剣を教えてもらえるだろうし、こんなところで山賊をしているような連中に負けるはずがないのだ。
まぁブラッディベア相手は厳しかったみたいだけど、逆に言えばボスキャラ相手に即死せず、手傷を負うだけで済んでいたのだものね。
と、私が半分くらい観客気分でいると、
『まったく、森の中で火魔法を使うとは……』
ため息をついたティナが水の魔法を発動。焼死した山賊たちに水をぶっかけていた。火が延焼したら森林火災になっちゃうものね……。ありがとうございます。
あ、ティナも魔法が使えるなら私も使えるのかしら? あとで試してみよう。
そんなことを考えている間にもシンシアちゃんは有利に戦いを進めていく。
敵を示す赤い点は最初10個だった。
そして、最初に燃やした2人を含め、すでに5人が切り伏せられている。
残る赤い点は、あと5人。
「――そこまでだぜ!」
と、山賊の中でもひときわガタイのいい男が叫んだ。
男はまだ年若い少女の首に左腕を回し、拘束していた。右手には大振りのナイフが握られている。人質のつもりなのでしょう。
「へっ! お前! 領主の娘だな! 勇者候補様は人質を前にしてどんな行動をするのかねぇ!?」
うわぁ、下衆。下衆がいるわ。押し問答もなく燃やされたり斬り伏せられていたからちょっとだけ同情していたけど、そんな必要もなかったみたい。
「た、助けて!」
少女の悲痛な叫びを受けて、シンシアちゃんの動きが止まる。
私たちが無抵抗になったことを確認してから、生き残った三人の男たちが改めて私とシンシアちゃんを取り囲んでくる。
シンシアちゃんは動けないでしょう。ここで人質の命を最優先してしまうからこそのシンシアちゃんだ。
対して。私にはできることがある。
スキルのレベルアップによって自由に動かせるようになった魔力の糸。それを使えば誰にも気づかれることなく男たちの首を刎ねることだってできるはずだ。
ブラッディベアを輪切りにしたのだ、人間なんて簡単に殺せるはず。
だから、必要なのは私の覚悟。
人を殺すという、覚悟。
――やるしかない。
私がやらなければ、シンシアちゃんが酷い目に遭わされるのだ。こんな下卑た男たちによって、シンシアちゃんが……。
やるしかない。
やるしかない。
やるしかない!
覚悟を決めた私は人差し指を僅かに動かした。狙うは人質を拘束した山賊の首。その首に魔力の糸を巻き付けて――
「――え、えぇい!」
人差し指を『クイッ』と動かすと、糸が巻き付いた山賊の首はいとも簡単に弾け飛んだ。
指に、不快な感覚がいつまで残っている。
命を奪った感覚だ。
先ほどのオオカミやブラッディベアと同じ。ただ一つ違うのは、奪った相手が人間だということ。
罪悪感は、ある。
でも、思ったよりは平常心を保てていた。
この世界がまだ『ゲーム』だと思っているのか。あるいは、正当防衛だと理解しているからか。もしくは、誰かを守るための戦いであるからか。
「な、なんだ!?」
「お頭の首が!?」
「な、何がどうなってやがる!?」
山賊たちの慌てふためく声に意識が現実へと引き戻された私は、次々に彼らの首を刎ねたのだった。
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