30 / 38
30
しおりを挟む男は地下にいた。
はるか神話の時代より残っているとされる古い地下施設。その雰囲気から『神殿』と呼んだ方がいいかもしれない。
……いいや、まさしく神殿である。
なぜならば、この場所で彼ら『ウロボロス』は魔王を召喚するのだから。
……数日前に実行したときは何も起こらなかった。
だからこそ、今度こそは失敗するわけにはいかなかった。五年前に大神殿から盗んだ召喚素材は残り一つしかないのだから。
すでに召喚の準備は終わっている。
だが、男はもう一度召喚手順の確認をさせていた。失敗を恐れているが故に。
そんな中。部下の一人がとある報告を持ってきた。冒険者として商都に忍び込ませていた四人組が、公爵家の騎士団に捕まったというのだ。
「……まさか、ウロボロスの一員であると露見したのか?」
「おそらくは」
「バカな。アイツらには『時』が来るまで普通の冒険者として行動させていたはずだ。露見するはずがないだろう?」
「それについてなのですが……どうにも『ハイエルフ』が出たようで」
「ハイエルフ、だと?」
男もハイエルフに関する噂ならいくつか知っている。今は失われたポーションを製造する技術があり、人を遥かに超える魔力を持ち、神話の時代から生きているという……。
ポーション。そして神話の時代から生きていることから、神話の時代より幾度となく復活してきた魔王との関連性を指摘する研究者もいるが……馬鹿馬鹿しいと男は思う。たったそれだけの共通点で同一視するなど、『二足歩行している』という理由で人間とエルフを同一視するようなものではないかと。
魔王との関連性はとにかく、ここはどう動くべきかと男は悩む。
この神殿は商都近くの森の中にある。
あの冒険者たちはしょせん使い捨てなので神殿の場所は教えていない。が、今までのやり取りから森の中に『何か』があると察している可能性はゼロとは言えなかった。
できることなら早急に処分したい。
「……暗殺者を送り込むことはできるか?」
「試すことはできますが、確実に実行できるかは……。囚われているのが騎士団の本部ですので」
「うぅむ……」
暗殺者は気配を消してこそ。しかし、戦闘訓練を積み続けている騎士であれば気配を察してしまう可能性がある。そんな騎士が常に複数詰めかけている騎士団本部であれば尚更だ。
万が一暗殺者が捕まった場合、あの冒険者共とは比べものにならないほどの情報漏洩があるだろう。ここは無理をせずに召喚の準備を進めてしまうのが――
「――いや、あの手があったか」
その結論に至った男は部下に指示を飛ばした。
「あの冒険者共の『刻印』を暴走させろ」
「刻印を、ですか?」
「うむ。刻印は体内の血管と深く結びついている。刻印を暴走させれば死に至るはずだ」
体内の魔力は血管を伝って全身をめぐっているので、理屈の上ではそうなるだろう。そしてあの刻印は特殊なのでこちらから暴走させることもできるかもしれない。
が、それはあくまで理屈の上だ。
「そのようなことは試したことがないので、どのような結果になるか分かりませんが……」
「かまわん。失敗したとしてもこちらが不利になるわけでもなかろう。むしろ良い実験になるではないか」
「……はっ。それでは、すぐに暴走させます」
そもそも、治療によって足が繋がっていれば効果はあるが、そのまま放置されていたら何の意味もない。そして、ウロボロス関係者であろう人間の足をわざわざ繋げるとも思えないのだが。
そんな指摘をしたい部下だったが、やめた。上司を不機嫌にさせる必要もないからだ。
「では、失礼いたします」
部下の男は深々と頭を下げたあと、常識外の指示をこなすために部屋をあとにしたのだった。
12
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!
naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。
そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。
シオンの受難は続く。
ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。
あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる