勇者学校の指南役~私、魔王だけどいいのかしら?

九條葉月

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 原作ゲームには『転移魔法』というものがあった。
 目視できる範囲か一度行ったことがある場所に一瞬で移動できるというものだ。まぁゲームにはよくある移動時間短縮のヤツだと思う。

 補助魔法の一覧に転移魔法があったので、まずは内容を確認。……使用条件は原作と同じ。行きたい場所を目視しながら魔法を起動するか、マップで移動先を指定してから魔法を使えばいいらしい。

「――転移」

 私がそう呟きながら転移魔法をクリックすると、視界が『ぐわん』と回った。
 一瞬の浮遊感。
 それが過ぎ去ったあと、無意識に閉じていた瞼を開けると――そこは、私が目を覚ました森だった。

『よ、っと』

 音もなく私の後ろに着地するティナ。私の転移に同行したのか、あるいは自分で転移してきたのかは分からない。

 MPの消費はほとんどなし。というか自動魔力回復イルズィカーリオンのおかげでもう満タンだ。この魔力消費で商都まで馬車を使うような距離を一瞬で移動できたのだからかなり便利だよね。

「さーって、あとはテキトーに獲物を――」

≪――ガァアアアァアアアアッ!≫

 ジャストタイミングで獣の咆吼が。振り向くと、そこにいたのはやはりブラッディベアだった。しかも2匹。上手く狩れば50万ゴールド×2である。

「――マネー!」

≪が?≫

≪がぁ?≫

 まるで恐れた様子のない私を見て2匹のブラッディベアが首をかしげ、

『いえエリカ様。もうちょっと言い方を……』

 ティナがなぜか呆れ果てていた。
 まぁそれはともかく、今はもはや戦闘場面である。私はさっそく操糸手袋を起動し魔力の糸を生成した。

 この糸であれば簡単にブラッディベアの首を刎ねることができる。

 しかし、毛皮を切断してしまうとギルドでの買い取り額が下がってしまうらしい。
 少しでも儲けを増やすならなるべく傷つけず、綺麗な状態で狩らなければならない。

 毒でも使えればいいのだけど、毒系のスキルは(まだ)持ってないし、毒を使うと今度は素材にしたお肉が食べられなくなる=お肉を買い取ってもらえなくなるかもしれないので選択肢から除外。

 ここで威力を発揮するのが操糸だ。

 今はまだ自由に動かせるのは一本だけだけど、敵の首に巻き付いて切断できるほどの精度と鋭さがあれば、たぶん――

「――操糸!」

 二匹いるブラッディベアのうち一匹に右手を向けつつ、魔力の糸を射出・・する。最初に試したときはひょろひょろと地面に落ちてしまったけれど、操糸スキルのレベルが上がった今では真っ直ぐに、目にもとまらぬ速度で糸は発射され――ブラッディベアの毛皮と肉を貫き、心臓に突き刺さった。

 そのままブラッディベアの体内に突き刺さった糸を操作。心臓に巻き付け・・・・・・・輪切りにする・・・・・・

≪――――っ!≫

 声にならない声を上げながら。ブラッディベアはゆっくりとその場に倒れ込んだ。

 よし、毛皮は無事そうね。肉や内臓も最低限のダメージで済んでいるはず。

『……いや、やってることが悪そのもの……。やはり魔王なのでは……?』

 誰も危険な目に遭わせることなく、敵の苦しみも一瞬で済ませたというのに。いったいどこが悪役だというのだろうか?

『そういうところです』

 こういうところらしい。いやいやどういうことよ?

 私が猛抗議しようとすると、

≪が、ガァアアアアァアアアァアアッ!?≫

 生き残った方のブラッディベアが背中を向けて逃げ出した。

「50万!」

 倒した方のブラッディベアを空間収納ストレージで回収しながら、すぐに追いかける私だった。

『いやだから、言い方ぁ……』


                  ◇


 ブラッディベアは木の生えてない獣道を逃走していた。あの巨体だから木々を避けての疾走は難しいのでしょうね。

 獣道ならこの先に巣とかあるかも?

 いやでも、木が生えてないだけで雑草だらけ。しばらく何かが行き来した様子はないなぁ。

 そんなことを考えながらブラッディベアを追いかける。ちなみにハイエルフの身体能力のおかげか、クマの全力疾走にも余裕でついて行けていた。もちろん身体強化ミュスクルなしで。

(これ、身体強化ミュスクル使えばすぐに追いつけそうね)

 そんなことを考えながら、身体強化の魔法を使おうと準備していると、

≪――がぁあああぁあああぁああああっ!?≫

「おおう!?」

 前を走っていたブラッディベアが、急に透明な何かにぶつかったかと思うと――感電した。え? 電撃? 農業用の電気柵とか? いやそれにしては威力がありすぎる気がする。そもそもこの世界に電気柵はないかな?

≪がぁあああぁあああぁああああっ!?≫

 感電から逃れようと暴れ回るブラッディベア。すると、なにやら目の前の空間が点滅しているように見えた。ブラッディベアより遥かに大きい、見上げるほどの巨大な――

「あれは、ドーム?」

 ブラッディベアが感電している場所を端として。大きな大きな半円状のドームが見え隠れしていたのだ。本来隠されているものが、ブラッディベアがぶつかると見えるようになっている感じ?

『これは……防御結界ですね』

「結界? 私の自動防御結界スクトゥテラノーラみたいな?」

『エリカ様のものに比べればずいぶんと常識的ですね。おそらくは設置型の結界でしょう』

「へぇ」

 ティナの話を聞いている間にブラッディベアは地面に倒れた。たぶん絶命したのだと思う。とりあえず死体は空間収納ストレージへ。

 そしてほぼ同時に結界にヒビが入り――割れた。まるでガラスが粉々になったかのように。日の光を反射してキラキラと光る破片。

 結界を張ってあるということは、この先に守りたいものや隠したいものがあるのだと思う。……もしかしたらレアアイテムもあったりして?

 ゲーマーとして、ここは先に進むべきでは?

「というわけで! 突撃!」

 人差し指で結界の中心部分を指差しながら一歩踏み出す私だった。

『あなた警戒心とかないんですか?』

「えー? でも自動防御結界スクトゥテラノーラもあるし、いざとなれば転移魔法で逃げれば――」

「――なんだお前らは!?」

 私が目指そうとした結界の中心部の方から、いかにも怪しげな黒ずくめが駆けつけてきた。フードを目深に被っているので顔すら分からない。

「えーっと?」

 あの黒ずくめ。どこかで見たことがあるような……。もしかして原作ゲームで……。

「死ね!」

 既視感の正体を探っていると、黒ずくめの男たちが攻撃魔法を放ってきた。えー? 警告もなしにいきなり? 野蛮すぎない?

 もちろん、男たちの攻撃魔法は私の自動防御結界スクトゥテラノーラに阻まれて霧散した。

 うん、これは正当防衛よね。
 もはや『敵』の命を奪うことに躊躇したりはしない私だ。さっそく魔力の糸を伸ばしたところで――

『――不敬ですね』

 聞いたこともないほど不機嫌なティナの声。いや私に対してはわりと不機嫌な声を向けてくるけれど、それが『じゃれ合い』に思えてしまえるほどの冷たさだった。

 ギョッとした私がティナに顔を向けると……彼女は、物騒なものを手にしていた。

 黒光りする鉄の棒。
 いかにも重そうで、いかにも殺傷能力が高そうな。

 銃器に詳しくない私でも、それが『機関銃』であることは理解できた。

 映画の中くらいでしか見たことのない重機関銃。それを、左右それぞれ一挺ずつ手にしたティナ。

 え? どこから出したの? まさかスカート? そのロングスカートの中から? やだちょっとおねーさんそんなの許しませんよ? ここには野郎共もいるのに。やるならせめて二人きりの空間で恥じらいながら――

『――変態退散!』

「ぎゃあぁあああっ!?」

 撃った!? 容赦なく撃ってきた!? いや自動防御結界スクトゥテラノーラで無事だけど! 機関銃で撃たれるのってメッチャ怖いわね!?

 私に思う存分銃弾をぶっ放したあと、銃口を黒づくめの男たちに向けるティナ。  

『――死に晒せ』

 うちのメイドさんが怖すぎる件。

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