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40.戦い
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「――お姉様っ!?」
その光景を目の当たりにしたアリスは思わず絶叫した。ドラゴン・ブレスの直撃を受けたリーナが吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられたのだ。
そのまま、ぴくりとも動かなくなるリーナ。
ドラゴン・ブレスが直撃しながらも蒸発せず、生き残った時点でもはや人としての常識を越えた存在なのであるが……そんなこと、アリスには知る由もない。
重要なのはリーナが壁に叩きつけられてしまったこと。叩きつけられたあと動かなくなってしまったこと。
≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
ドラゴンがゆっくりとリーナに近づく。まるで簡単には殺さぬと言わんばかりに。……当然か。矮小な人間に左目を潰されたのだ。誇り高きドラゴンが許すはずがない。
あのまま食いちぎるか。丸呑みにするか。あるいは前足で踏みつぶされたり尻尾で薙ぎ払われる可能性もある。
どちらにせよ、ドラゴンに狙われている以上、リーナの死は避けられない。
「…………」
自分は良い妹だっただろうかとアリスは自問する。
以前まではそんなことすら考えたことはなかった。むしろ、自分の相手をしてくれないリーナこそ悪い姉だとすら感じていた。
でも、今から思えばたくさんの酷いことをしてきたように思う。
そんなアリスを。そんな悪い子を。リーナは『妹』と呼んでくれた。アリスを守るために、あんな無茶までしてくれた。
ならば、次は自分の番だとアリスは覚悟を決める。
お姉ちゃんなのだから妹は守らなくちゃいけないとリーナは言った。
それなら――妹だって、姉を守らなければいけないのだ。
「お姉様!」
『みゃあ!?』
ミャーが驚愕の声を上げる。結界の外に出られないよう雷撃の膜で覆っていたというのに――アリスは、感電するのも構わず手を伸ばしたのだ。
衝撃がアリスの全身を襲う。
痛い。ものすごく痛い、としかアリスの語彙では表現することができない。
でも、だからどうしたのだろう?
リーナはもっと痛い目に遭ってきたのだ。
父親に物を投げられ、継母に殴られ、アリスに水魔法をぶつけられ――それでも、今まで耐えてきたのだ。泣きもせず、逃げもせず、ずっと、ずっと……。
それに比べれば、この程度の痛み、大したことはない。
『みゃあ!』
このバカ! とばかりに叫んでからミャーが雷撃の膜を消した。右腕は感電のせいでうまく動かないが、構うことなく結界から飛び出るアリス。
……特に考えがあるわけではない。アリスにはリーナほどの『力』はないし、そもそも前世の記憶もない6歳の少女なのだ。どうにかできると考える方が間違っているし、全部が全部理屈に叶った行動というわけでもない。
ただ、守りたいと願ったから。
その想いだけでアリスはドラゴンに向けて声を張り上げた。
「この! トカゲ! これ以上お姉様を傷つけるのは許しませんわよ!」
アリスにとってはあらん限りの大声。しかし、しょせんは何の訓練もしていない6歳児の発声だ。ドラゴンの耳に届くのかすら怪しいし、届いたとしてもドラゴンが興味を抱く保証もない。
だが。
それでも。
ドラゴンはアリスの声を拾い、アリスの方を向いた。
残された片目に浮かぶのは、やはり明確すぎるほどの殺意。
――最初から、何かがおかしかった。
リーナがダンジョンにやって来たときは咆吼で脅すだけで終わらせたのに、アリスがダンジョンに入ったらわざわざ転移魔法を発動させ、自分の元へと呼び寄せた。
さらには片目を潰されるまではリーナではなくアリスを狙い、わざわざ周囲から魔力を集めてまでドラゴン・ブレスの発射態勢を取り、確実に殺すことを選んだ。
まるで、恨みがあるかのように。
その恨みを思い出したかのようにドラゴンはアリスに近づき、今度こそ確実に殺そうとしている。
『みゃ!』
そんなアリスを守るためか、ミャーがあらゆる魔法を放つが……黒いドラゴンにはまるで効果がない。
再び、ドラゴンがその顎を開いた。
再び、魔力が口元に集まる。
「アリス様!」
同じように結界を抜け出したフィナがアリスを守るように抱きしめるが、それでどうなるという話ではない。
死んだ、とアリスは確信する。
リーナのように結界が張れるわけではないし、リーナのように自動回復のスキルを持っているわけでもない。たとえミャーやフィナが結界で守ったところで、そのあと壁に叩きつけられればそれだけで死ぬだろう。
迫り来る、明確な死。
僅か6歳にして『死』を目の当たりにして。
アリスの脳裏に浮かんだのは、あの日……初めて会ったときのリーナの姿だった。
嬉しかった。
幸せだった。
こんなに綺麗な子がお姉ちゃんになってくれるんだって。アリスは、純粋に喜んだのだった。
「お姉ちゃん……」
令嬢教育が始まってから口にしなくなった呼び方。
「お姉ちゃんと、もっと、仲良くなりたかった……」
それだけだったのに。
ただ、それだけを願ったのだ。
お姉ちゃんと、仲良くなりたい。
その言葉が、届いたかのように。
「――ありがとね、アリス。おかげさまで回復できた」
この世界の何よりも美しい声が、アリスの心を埋め尽くした。
「灯火」
何の変哲もないはずの、明かりを灯す生活魔法。
それを、リーナはドラゴンの残った右目、そのすぐ近くで発動した。
≪ガァアァアア!?≫
普段であれば大したことがなく、無視したであろう輝き。だが、片目を潰されたばかりのドラゴンは過剰に反応してしまった。意識をリーナやアリスたちから離し、灯火の明かりを消すために明後日の方向を向いてしまう。
それは、完全なる隙であった。
「――飛翔」
ぴくりとも動かなかったはずのリーナの身体が、浮かんだ。
そのまま空中で身体を捻り、岩壁に両足を突く。
「――天井歩き」
ダンジョンで得たスキルを使い、リーナが洞窟の壁を、天井を駆ける。
ただでさえアリスに意識を向けていたドラゴンは、その予想外の動きのせいでリーナの姿を完全に見失った。
「――神威象りたる天の光よ。すべてを焼き尽くす神々の怒りよ」
洞窟内に走る、雷光。
天井を駆け抜けながら、リーナが上級攻撃魔法を発動しているのだ。
「世界を照らす光で以て、世界を害する邪悪を討て!」
雷が、リーナの右手に迸った。
「――雷よ、我が敵を討ち果たせ!」
狙いは、ドラゴンの残った右目。
すでにリーナの身体は天井の天辺に到着し、ドラゴンの頭は目と鼻の先にある。
しかし、リーナは万全を尽くすため、さらにスキルを発動させた。
「――精密射撃!」
必中スキルによって放たれた上級攻撃魔法は、狙い違わずドラゴンの右目を穿った。
ドラゴンにとっては完全なる奇襲。当然のことながら瞼を閉じる余裕はなかった。
≪ガァアアアァアアアアァアアアァアアアァアアァアアアッ!≫
両目を失ったドラゴンが絶叫する。いかな巨体を誇ろうと、いかな強大な魔力を誇ろうと。両目を失っては平常心でいられるはずがない。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
滅多矢鱈に暴れ回るドラゴン。ドラゴン・ブレスは洞窟内を滅茶苦茶に薙ぎ払い、前足は目的も定まらぬまま地面を何度も踏みしめ、その長い尻尾を振り回して岩壁を、天井を削っていく。
しかし距離を取れば何とかなる動きだ。両目が見えぬまま、ドラゴンの巨体で、逃げ回る人間を捉えようというのが無理な話なのだ。
飛び散る岩石を避けながらリーナがミャーたちに合流する。
「みゃー! 出口はどこかな!?」
『みゃ! みゃあ!』
相変わらず何を言っているかは分からないものの、なんとなく『駄目だ! あのドラゴンを倒さなきゃ!』と説明してくれたような気がするリーナ。
つまりは、前世のゲームで言う強制イベント。ボスであるあのドラゴンを倒すまでは外に出られないのだとリーナは理解した。
ならば、倒すしかない。
大丈夫。できるとリーナは確信する。
すでにいくつかのヒントは得ているのだから。
ドラゴンの鱗は固く、上級攻撃魔法を直撃させても傷一つ付かない。
でも、今のドラゴンはリーナの攻撃で両目を失った。――鱗がない場所ならば、十分攻撃は通るのだ。
つまりは、内部。体内を破壊すれば何とかなる。
思い出すのは、魔法の練習をしていた日々のこと。
攻撃魔法が地下室に飛び散らないよう、リーナは四角い結界の中に攻撃魔法を発生させ、その威力を結界内に留めようとした。
失敗したら圧力を逃がしきれない圧力鍋のように爆発してしまったが……逆に言えば、結界を破壊するほどの威力があるのだ。
だからこそ。狙うのはドラゴンの体内。固い鱗を、結界だと想定する。
「――精密射撃」
必中スキルでドラゴンの体内、おそらくは心臓があるだろう場所に狙いを定める。
使う魔法は、最も得意な雷魔法。最も威力があるだろうもの。
――最上級雷攻撃魔法。
さすがに威力がありすぎるのが予想されたので、試したことはない。
だが、今なら使えるという不思議な直感があった。
深呼吸。
深呼吸。
深呼吸……。
心を落ち着け、体内の魔力を感じ取ったリーナは、呪文を詠唱し始めた。
「――神々よ、今こそ我が矛となろう」
ぱちり、と。リーナの髪の毛先が爆ぜた。
「――神威象りたるは天の光。森羅万象焼き尽くしたるは天上の業火」
膨大な魔力風が渦を巻き、リーナの体内から一気に魔力が抜けていく。
「――雷鳴は世界を揺らし、閃光は地平を駆け抜ける」
ぱちり、と。ドラゴンの体内が小さく爆ぜた。
「――恵みの光。神罰の化身。善たる者には言祝ぎを。悪たる者に潰滅を」
体内の小さな爆発。その痛みにドラゴンが暴れ回るが、リーナは構わず詠唱を続けた。
「――神の力なる雷光で以て、世界を害する邪悪を討たん!」
呪文の完全詠唱。
それが、終わった。
「――神雷よ、世界を救え!」
落雷のような轟音。
それが、ドラゴンの体内から鳴り響いた。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!?≫
ドラゴンの口から鮮血が吐き出される。
鱗の隙間からも血が噴き出した。
肉の焦げるニオイ。
内部から爆ぜ飛ぶ鱗たち。
ドラゴンはまるで痙攣するかのようにその長い首を天井へと伸ばし――そのまま、土埃をあげながら地面に倒れ込んだ。
≪――邪竜を討伐しました。『勇者』の称号が与えられます≫
その光景を目の当たりにしたアリスは思わず絶叫した。ドラゴン・ブレスの直撃を受けたリーナが吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられたのだ。
そのまま、ぴくりとも動かなくなるリーナ。
ドラゴン・ブレスが直撃しながらも蒸発せず、生き残った時点でもはや人としての常識を越えた存在なのであるが……そんなこと、アリスには知る由もない。
重要なのはリーナが壁に叩きつけられてしまったこと。叩きつけられたあと動かなくなってしまったこと。
≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
ドラゴンがゆっくりとリーナに近づく。まるで簡単には殺さぬと言わんばかりに。……当然か。矮小な人間に左目を潰されたのだ。誇り高きドラゴンが許すはずがない。
あのまま食いちぎるか。丸呑みにするか。あるいは前足で踏みつぶされたり尻尾で薙ぎ払われる可能性もある。
どちらにせよ、ドラゴンに狙われている以上、リーナの死は避けられない。
「…………」
自分は良い妹だっただろうかとアリスは自問する。
以前まではそんなことすら考えたことはなかった。むしろ、自分の相手をしてくれないリーナこそ悪い姉だとすら感じていた。
でも、今から思えばたくさんの酷いことをしてきたように思う。
そんなアリスを。そんな悪い子を。リーナは『妹』と呼んでくれた。アリスを守るために、あんな無茶までしてくれた。
ならば、次は自分の番だとアリスは覚悟を決める。
お姉ちゃんなのだから妹は守らなくちゃいけないとリーナは言った。
それなら――妹だって、姉を守らなければいけないのだ。
「お姉様!」
『みゃあ!?』
ミャーが驚愕の声を上げる。結界の外に出られないよう雷撃の膜で覆っていたというのに――アリスは、感電するのも構わず手を伸ばしたのだ。
衝撃がアリスの全身を襲う。
痛い。ものすごく痛い、としかアリスの語彙では表現することができない。
でも、だからどうしたのだろう?
リーナはもっと痛い目に遭ってきたのだ。
父親に物を投げられ、継母に殴られ、アリスに水魔法をぶつけられ――それでも、今まで耐えてきたのだ。泣きもせず、逃げもせず、ずっと、ずっと……。
それに比べれば、この程度の痛み、大したことはない。
『みゃあ!』
このバカ! とばかりに叫んでからミャーが雷撃の膜を消した。右腕は感電のせいでうまく動かないが、構うことなく結界から飛び出るアリス。
……特に考えがあるわけではない。アリスにはリーナほどの『力』はないし、そもそも前世の記憶もない6歳の少女なのだ。どうにかできると考える方が間違っているし、全部が全部理屈に叶った行動というわけでもない。
ただ、守りたいと願ったから。
その想いだけでアリスはドラゴンに向けて声を張り上げた。
「この! トカゲ! これ以上お姉様を傷つけるのは許しませんわよ!」
アリスにとってはあらん限りの大声。しかし、しょせんは何の訓練もしていない6歳児の発声だ。ドラゴンの耳に届くのかすら怪しいし、届いたとしてもドラゴンが興味を抱く保証もない。
だが。
それでも。
ドラゴンはアリスの声を拾い、アリスの方を向いた。
残された片目に浮かぶのは、やはり明確すぎるほどの殺意。
――最初から、何かがおかしかった。
リーナがダンジョンにやって来たときは咆吼で脅すだけで終わらせたのに、アリスがダンジョンに入ったらわざわざ転移魔法を発動させ、自分の元へと呼び寄せた。
さらには片目を潰されるまではリーナではなくアリスを狙い、わざわざ周囲から魔力を集めてまでドラゴン・ブレスの発射態勢を取り、確実に殺すことを選んだ。
まるで、恨みがあるかのように。
その恨みを思い出したかのようにドラゴンはアリスに近づき、今度こそ確実に殺そうとしている。
『みゃ!』
そんなアリスを守るためか、ミャーがあらゆる魔法を放つが……黒いドラゴンにはまるで効果がない。
再び、ドラゴンがその顎を開いた。
再び、魔力が口元に集まる。
「アリス様!」
同じように結界を抜け出したフィナがアリスを守るように抱きしめるが、それでどうなるという話ではない。
死んだ、とアリスは確信する。
リーナのように結界が張れるわけではないし、リーナのように自動回復のスキルを持っているわけでもない。たとえミャーやフィナが結界で守ったところで、そのあと壁に叩きつけられればそれだけで死ぬだろう。
迫り来る、明確な死。
僅か6歳にして『死』を目の当たりにして。
アリスの脳裏に浮かんだのは、あの日……初めて会ったときのリーナの姿だった。
嬉しかった。
幸せだった。
こんなに綺麗な子がお姉ちゃんになってくれるんだって。アリスは、純粋に喜んだのだった。
「お姉ちゃん……」
令嬢教育が始まってから口にしなくなった呼び方。
「お姉ちゃんと、もっと、仲良くなりたかった……」
それだけだったのに。
ただ、それだけを願ったのだ。
お姉ちゃんと、仲良くなりたい。
その言葉が、届いたかのように。
「――ありがとね、アリス。おかげさまで回復できた」
この世界の何よりも美しい声が、アリスの心を埋め尽くした。
「灯火」
何の変哲もないはずの、明かりを灯す生活魔法。
それを、リーナはドラゴンの残った右目、そのすぐ近くで発動した。
≪ガァアァアア!?≫
普段であれば大したことがなく、無視したであろう輝き。だが、片目を潰されたばかりのドラゴンは過剰に反応してしまった。意識をリーナやアリスたちから離し、灯火の明かりを消すために明後日の方向を向いてしまう。
それは、完全なる隙であった。
「――飛翔」
ぴくりとも動かなかったはずのリーナの身体が、浮かんだ。
そのまま空中で身体を捻り、岩壁に両足を突く。
「――天井歩き」
ダンジョンで得たスキルを使い、リーナが洞窟の壁を、天井を駆ける。
ただでさえアリスに意識を向けていたドラゴンは、その予想外の動きのせいでリーナの姿を完全に見失った。
「――神威象りたる天の光よ。すべてを焼き尽くす神々の怒りよ」
洞窟内に走る、雷光。
天井を駆け抜けながら、リーナが上級攻撃魔法を発動しているのだ。
「世界を照らす光で以て、世界を害する邪悪を討て!」
雷が、リーナの右手に迸った。
「――雷よ、我が敵を討ち果たせ!」
狙いは、ドラゴンの残った右目。
すでにリーナの身体は天井の天辺に到着し、ドラゴンの頭は目と鼻の先にある。
しかし、リーナは万全を尽くすため、さらにスキルを発動させた。
「――精密射撃!」
必中スキルによって放たれた上級攻撃魔法は、狙い違わずドラゴンの右目を穿った。
ドラゴンにとっては完全なる奇襲。当然のことながら瞼を閉じる余裕はなかった。
≪ガァアアアァアアアアァアアアァアアアァアアァアアアッ!≫
両目を失ったドラゴンが絶叫する。いかな巨体を誇ろうと、いかな強大な魔力を誇ろうと。両目を失っては平常心でいられるはずがない。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
滅多矢鱈に暴れ回るドラゴン。ドラゴン・ブレスは洞窟内を滅茶苦茶に薙ぎ払い、前足は目的も定まらぬまま地面を何度も踏みしめ、その長い尻尾を振り回して岩壁を、天井を削っていく。
しかし距離を取れば何とかなる動きだ。両目が見えぬまま、ドラゴンの巨体で、逃げ回る人間を捉えようというのが無理な話なのだ。
飛び散る岩石を避けながらリーナがミャーたちに合流する。
「みゃー! 出口はどこかな!?」
『みゃ! みゃあ!』
相変わらず何を言っているかは分からないものの、なんとなく『駄目だ! あのドラゴンを倒さなきゃ!』と説明してくれたような気がするリーナ。
つまりは、前世のゲームで言う強制イベント。ボスであるあのドラゴンを倒すまでは外に出られないのだとリーナは理解した。
ならば、倒すしかない。
大丈夫。できるとリーナは確信する。
すでにいくつかのヒントは得ているのだから。
ドラゴンの鱗は固く、上級攻撃魔法を直撃させても傷一つ付かない。
でも、今のドラゴンはリーナの攻撃で両目を失った。――鱗がない場所ならば、十分攻撃は通るのだ。
つまりは、内部。体内を破壊すれば何とかなる。
思い出すのは、魔法の練習をしていた日々のこと。
攻撃魔法が地下室に飛び散らないよう、リーナは四角い結界の中に攻撃魔法を発生させ、その威力を結界内に留めようとした。
失敗したら圧力を逃がしきれない圧力鍋のように爆発してしまったが……逆に言えば、結界を破壊するほどの威力があるのだ。
だからこそ。狙うのはドラゴンの体内。固い鱗を、結界だと想定する。
「――精密射撃」
必中スキルでドラゴンの体内、おそらくは心臓があるだろう場所に狙いを定める。
使う魔法は、最も得意な雷魔法。最も威力があるだろうもの。
――最上級雷攻撃魔法。
さすがに威力がありすぎるのが予想されたので、試したことはない。
だが、今なら使えるという不思議な直感があった。
深呼吸。
深呼吸。
深呼吸……。
心を落ち着け、体内の魔力を感じ取ったリーナは、呪文を詠唱し始めた。
「――神々よ、今こそ我が矛となろう」
ぱちり、と。リーナの髪の毛先が爆ぜた。
「――神威象りたるは天の光。森羅万象焼き尽くしたるは天上の業火」
膨大な魔力風が渦を巻き、リーナの体内から一気に魔力が抜けていく。
「――雷鳴は世界を揺らし、閃光は地平を駆け抜ける」
ぱちり、と。ドラゴンの体内が小さく爆ぜた。
「――恵みの光。神罰の化身。善たる者には言祝ぎを。悪たる者に潰滅を」
体内の小さな爆発。その痛みにドラゴンが暴れ回るが、リーナは構わず詠唱を続けた。
「――神の力なる雷光で以て、世界を害する邪悪を討たん!」
呪文の完全詠唱。
それが、終わった。
「――神雷よ、世界を救え!」
落雷のような轟音。
それが、ドラゴンの体内から鳴り響いた。
≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!?≫
ドラゴンの口から鮮血が吐き出される。
鱗の隙間からも血が噴き出した。
肉の焦げるニオイ。
内部から爆ぜ飛ぶ鱗たち。
ドラゴンはまるで痙攣するかのようにその長い首を天井へと伸ばし――そのまま、土埃をあげながら地面に倒れ込んだ。
≪――邪竜を討伐しました。『勇者』の称号が与えられます≫
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