子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月

文字の大きさ
40 / 75

40.戦い

しおりを挟む
「――お姉様っ!?」

 その光景を目の当たりにしたアリスは思わず絶叫した。ドラゴン・ブレスの直撃を受けたリーナが吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられたのだ。

 そのまま、ぴくりとも動かなくなるリーナ。

 ドラゴン・ブレスが直撃しながらも蒸発せず、生き残った時点でもはや人としての常識を越えた存在なのであるが……そんなこと、アリスには知る由もない。

 重要なのはリーナが壁に叩きつけられてしまったこと。叩きつけられたあと動かなくなってしまったこと。


≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫


 ドラゴンがゆっくりとリーナに近づく。まるで簡単には殺さぬと言わんばかりに。……当然か。矮小な人間に左目を潰されたのだ。誇り高きドラゴンが許すはずがない。

 あのまま食いちぎるか。丸呑みにするか。あるいは前足で踏みつぶされたり尻尾で薙ぎ払われる可能性もある。

 どちらにせよ、ドラゴンに狙われている以上、リーナの死は避けられない。

「…………」

 自分は良い妹だっただろうかとアリスは自問する。
 以前まではそんなことすら考えたことはなかった。むしろ、自分の相手をしてくれないリーナこそ悪い姉だとすら感じていた。

 でも、今から思えばたくさんの酷いことをしてきたように思う。

 そんなアリスを。そんな悪い子を。リーナは『妹』と呼んでくれた。アリスを守るために、あんな無茶までしてくれた。

 ならば、次は自分の番だとアリスは覚悟を決める。

 お姉ちゃんなのだから妹は守らなくちゃいけないとリーナは言った。

 それなら――妹だって、姉を守らなければいけないのだ。

「お姉様!」

『みゃあ!?』

 ミャーが驚愕の声を上げる。結界の外に出られないよう雷撃の膜で覆っていたというのに――アリスは、感電するのも構わず手を伸ばしたのだ。

 衝撃がアリスの全身を襲う。
 痛い。ものすごく痛い、としかアリスの語彙では表現することができない。

 でも、だからどうしたのだろう?

 リーナはもっと痛い目に遭ってきたのだ。

 父親に物を投げられ、継母に殴られ、アリスに水魔法をぶつけられ――それでも、今まで耐えてきたのだ。泣きもせず、逃げもせず、ずっと、ずっと……。

 それに比べれば、この程度の痛み、大したことはない。

『みゃあ!』

 このバカ! とばかりに叫んでからミャーが雷撃の膜を消した。右腕は感電のせいでうまく動かないが、構うことなく結界から飛び出るアリス。

 ……特に考えがあるわけではない。アリスにはリーナほどの『力』はないし、そもそも前世の記憶もない6歳の少女なのだ。どうにかできると考える方が間違っているし、全部が全部理屈に叶った行動というわけでもない。

 ただ、守りたいと願ったから。
 その想いだけでアリスはドラゴンに向けて声を張り上げた。

「この! トカゲ! これ以上お姉様を傷つけるのは許しませんわよ!」

 アリスにとってはあらん限りの大声。しかし、しょせんは何の訓練もしていない6歳児の発声だ。ドラゴンの耳に届くのかすら怪しいし、届いたとしてもドラゴンが興味を抱く保証もない。

 だが。
 それでも。
 ドラゴンはアリスの声を拾い、アリスの方を向いた。

 残された片目に浮かぶのは、やはり明確すぎるほどの殺意。

 ――最初から、何かがおかしかった。
 リーナがダンジョンにやって来たときは咆吼で脅すだけで終わらせたのに、アリスがダンジョンに入ったらわざわざ転移魔法を発動させ、自分の元へと呼び寄せた。

 さらには片目を潰されるまではリーナではなくアリスを狙い、わざわざ周囲から魔力を集めてまでドラゴン・ブレスの発射態勢を取り、確実に殺すことを選んだ。

 まるで・・・恨みがあるかのように・・・・・・・・・・

 その恨みを思い出したかのようにドラゴンはアリスに近づき、今度こそ確実に殺そうとしている。

『みゃ!』

 そんなアリスを守るためか、ミャーがあらゆる魔法を放つが……黒いドラゴンにはまるで効果がない。

 再び、ドラゴンがその顎を開いた。
 再び、魔力が口元に集まる。

「アリス様!」

 同じように結界を抜け出したフィナがアリスを守るように抱きしめるが、それでどうなるという話ではない。

 死んだ、とアリスは確信する。
 リーナのように結界が張れるわけではないし、リーナのように自動回復イルズィオンのスキルを持っているわけでもない。たとえミャーやフィナが結界で守ったところで、そのあと壁に叩きつけられればそれだけで死ぬだろう。

 迫り来る、明確な死。
 僅か6歳にして『死』を目の当たりにして。

 アリスの脳裏に浮かんだのは、あの日……初めて会ったときのリーナの姿だった。

 嬉しかった。
 幸せだった。
 こんなに綺麗な子がお姉ちゃんになってくれるんだって。アリスは、純粋に喜んだのだった。

「お姉ちゃん……」

 令嬢教育が始まってから口にしなくなった呼び方。

「お姉ちゃんと、もっと、仲良くなりたかった……」

 それだけだったのに。

 ただ、それだけを願ったのだ。

 お姉ちゃんと、仲良くなりたい。

 その言葉が、届いたかのように。

「――ありがとね、アリス。おかげさまで回復できた」

 この世界の何よりも美しい声が、アリスの心を埋め尽くした。

灯火リヒト

 何の変哲もないはずの、明かりを灯す生活魔法。

 それを、リーナはドラゴンの残った右目、そのすぐ近くで発動した。

≪ガァアァアア!?≫

 普段であれば大したことがなく、無視したであろう輝き。だが、片目を潰されたばかりのドラゴンは過剰に反応してしまった。意識をリーナやアリスたちから離し、灯火リヒトの明かりを消すために明後日の方向を向いてしまう。

 それは、完全なる隙であった。

「――飛翔ボラーレ

 ぴくりとも動かなかったはずのリーナの身体が、浮かんだ。
 そのまま空中で身体を捻り、岩壁に両足を突く。

「――天井歩きスカイウォーカー

 ダンジョンで得たスキルを使い、リーナが洞窟の壁を、天井を駆ける。

 ただでさえアリスに意識を向けていたドラゴンは、その予想外の動きのせいでリーナの姿を完全に見失った。

「――神威しんいかたどりたる天の光よ。すべてを焼き尽くす神々の怒りよ」

 洞窟内に走る、雷光。

 天井を駆け抜けながら、リーナが上級攻撃魔法を発動しているのだ。

「世界を照らす光でもって、世界を害する邪悪を討て!」

 雷が、リーナの右手にほとばしった。

「――雷よ、我が敵を討ち果たせトニトルニアス!」

 狙いは、ドラゴンの残った右目。

 すでにリーナの身体は天井の天辺に到着し、ドラゴンの頭は目と鼻の先にある。
 しかし、リーナは万全を尽くすため、さらにスキルを発動させた。

「――精密射撃サギターリア!」

 必中スキルによって放たれた上級攻撃魔法は、狙い違わずドラゴンの右目を穿うがった。
 ドラゴンにとっては完全なる奇襲。当然のことながら瞼を閉じる余裕はなかった。

≪ガァアアアァアアアアァアアアァアアアァアアァアアアッ!≫

 両目を失ったドラゴンが絶叫する。いかな巨体を誇ろうと、いかな強大な魔力を誇ろうと。両目ひかりを失っては平常心でいられるはずがない。

≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫

 滅多矢鱈めったやたらに暴れ回るドラゴン。ドラゴン・ブレスは洞窟内を滅茶苦茶に薙ぎ払い、前足は目的も定まらぬまま地面を何度も踏みしめ、その長い尻尾を振り回して岩壁を、天井を削っていく。

 しかし距離を取れば何とかなる動きだ。両目が見えぬまま、ドラゴンの巨体で、逃げ回る人間を捉えようというのが無理な話なのだ。

 飛び散る岩石を避けながらリーナがミャーたちに合流する。

「みゃー! 出口はどこかな!?」

『みゃ! みゃあ!』

 相変わらず何を言っているかは分からないものの、なんとなく『駄目だ! あのドラゴンを倒さなきゃ!』と説明してくれたような気がするリーナ。

 つまりは、前世のゲームで言う強制イベント。ボスであるあのドラゴンを倒すまでは外に出られないのだとリーナは理解した。

 ならば、倒すしかない。

 大丈夫。できるとリーナは確信する。
 すでにいくつかのヒントは得ているのだから。

 ドラゴンの鱗は固く、上級攻撃魔法を直撃させても傷一つ付かない。

 でも、今のドラゴンはリーナの攻撃で両目を失った。――鱗がない場所ならば、十分攻撃は通るのだ。

 つまりは、内部。体内を破壊すれば何とかなる。

 思い出すのは、魔法の練習をしていた日々のこと。

 攻撃魔法が地下室に飛び散らないよう、リーナは四角い結界の中に攻撃魔法を発生させ、その威力を結界内に留めようとした。

 失敗したら圧力を逃がしきれない圧力鍋のように爆発してしまったが……逆に言えば、結界を破壊するほどの威力があるのだ。

 だからこそ。狙うのはドラゴンの体内。固い鱗を・・・・結界だと想定する・・・・・・・・

「――精密射撃サギターリア

 必中スキルでドラゴンの体内、おそらくは心臓があるだろう場所に狙いを定める。

 使う魔法は、最も得意な雷魔法。最も威力があるだろうもの。

 ――最上級雷攻撃魔法。

 さすがに威力がありすぎるのが予想されたので、試したことはない。
 だが、今なら使えるという不思議な直感があった。

 深呼吸。
 深呼吸。
 深呼吸……。

 心を落ち着け、体内の魔力を感じ取ったリーナは、呪文を詠唱し始めた。

「――神々よ、今こそ我が矛となろう」

 ぱちり、と。リーナの髪の毛先が爆ぜた。

「――神威しんいかたどりたるは天の光。森羅万象焼き尽くしたるは天上の業火」

 膨大な魔力風が渦を巻き、リーナの体内から一気に魔力が抜けていく。

「――雷鳴は世界を揺らし、閃光は地平を駆け抜ける」

 ぱちり、と。ドラゴンの体内が小さく爆ぜた。

「――恵みの光。神罰の化身。善たる者には言祝ことほぎを。悪たる者に潰滅かいめつを」

 体内の小さな爆発。その痛みにドラゴンが暴れ回るが、リーナは構わず詠唱を続けた。

「――神の力なる雷光でもって、世界を害する邪悪を討たん!」

 呪文の完全詠唱。
 それが、終わった。

「――神雷よ、世界を救えトニトルスアーナ!」

 落雷のような轟音。
 それが、ドラゴンの体内・・・・・・・から鳴り響いた・・・・・・・

≪ガァアアアァアアアアァアアアッ!?≫

 ドラゴンの口から鮮血が吐き出される。
 鱗の隙間からも血が噴き出した。
 肉の焦げるニオイ。
 内部から爆ぜ飛ぶ鱗たち。

 ドラゴンはまるで痙攣するかのようにその長い首を天井へと伸ばし――そのまま、土埃をあげながら地面に倒れ込んだ。




≪――邪竜を討伐しました。『勇者』の称号が与えられます≫


しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ゲームちっくな異世界でゆるふわ箱庭スローライフを満喫します 〜私の作るアイテムはぜーんぶ特別らしいけどなんで?〜

ことりとりとん
ファンタジー
ゲームっぽいシステム満載の異世界に突然呼ばれたので、のんびり生産ライフを送るつもりが…… この世界の文明レベル、低すぎじゃない!? 私はそんなに凄い人じゃないんですけど! スキルに頼りすぎて上手くいってない世界で、いつの間にか英雄扱いされてますが、気にせず自分のペースで生きようと思います!

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...