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手
ルクトベルク公の前に立ちふさがったアリス。
まさしく大人と子供。アリスの身体など、魔法を使うまでもなく蹴り一発で吹き飛ばされるだろう。が、それでもアリスに恐れる様子はない。
6歳児とは思えぬ胆力。真っ直ぐに公爵を見据える瞳。
そんなアリスを、公爵は気に入ったようだ。
「たしか、アリス嬢だったな。そなたもリーナを虐げていたようだが……まだ6歳であれば善悪の区別も付かぬだろうし、親の意向に逆らうこともできなかったはず。リーナに対する態度を反省するなら、伯爵家取り潰し後の養子縁組に関しては儂が保証しよう」
「……わたくしのことなど、どうでもいいのです」
「なに?」
「お姉様を、どうなさるおつもりです!?」
「……む?」
公爵家に連れて帰るとは、そのまま『母方の実家と養子縁組する』という意味なのだが……幼子には難しかったかと考える公爵。
しかし、アリスはその意味を正確に理解し、その上で反対してみせた。
「お姉様には『夢』があるのです! お姉様の夢を、邪魔させなどしませんわ!」
「夢、だと?」
「えぇ!」
「その夢とはなんだ?」
「今さら出てきた男に、教える義理はありませんわ!」
「…………。……はははっ、肝の据わった娘だ。――だが、貴族であれば、口の利き方は覚えなければならんな」
ニヤリ、と笑いながら公爵は杖の先端をアリスに向けた。
先ほど父親が感電したばかり。それを見ていたアリスは恐れるだろうと公爵は予想していたのだが……アリスは怯むことなく、むしろ先ほどよりも強く公爵を睨み付けてきた。
実際。ドラゴンに比べれば公爵など恐怖の『格』が違いすぎるのだが……無論公爵にそれを知る由はない。
脅しが足りぬか、と公爵は杖の先に雷を纏わせた。パチッ、パチッ、と。乾いたような音が室内に響き渡る。
「今一度問うぞ? リーナの夢とはなんだ?」
「…………」
公爵からの問いに答えることすらせず、睨み付けるアリス。
そんなアリスの態度をますます気に入った公爵は一旦杖を降ろそうとした。
その、直前。
「――構造破壊」
覚えたばかりのスキルを使い。
別邸からやって来たリーナは、状況に介入した。
さらさらと。
まるで砂のように。アリスに向けられていた杖が崩れ落ちる。ドラゴンの骨によって作られた国宝級の一品が、リーナの『構造破壊』によって破壊されたのだ。
「お、お姉様!」
目を輝かせるアリスの元へ、リーナが飛翔を応用し一瞬で移動する。
そのままリーナはアリスを抱きしめた。守るように。もう二度と離さないと言わんばかりに。
突如として現れたリーナを見て、公爵が目を丸くして驚愕する。
「銀髪……その顔つき……まさか、リーナか……?」
愛用の杖が謎の力で破壊されたというのに、まるで気にした様子を見せない公爵がリーナたちに一歩近づく。
「――なんですか、こっち来ないでください」
リーナが腕を掲げて、雷をその手に纏わせる。
雷の魔法を扱う者として。その威力は公爵自身がよく分かっているだろう。
だが。
公爵は躊躇わなかった。
「妹への無礼は、謝罪しよう。久々に骨のある人物を見て、つい試したくなってしまったのだ。アリス嬢も、すまなかったな」
雷を前にしてもなお接近してきて。
いかにも偉そうな格好をしているのに、あっさりと謝ってみせて。
――そしてなにより、その両目に涙を浮かべていることによって、リーナの調子は完全に狂わされた。
「な、なんですか……なんですかあなた?」
脅すように。
警告するように。
怯えるように。
リーナが雷を纏わせた右腕を、公爵に向ける。
そんなリーナの右腕を、公爵が両手で包み込んだ。
「ぐぅ!」
「はぁ!?」
反射的にリーナが雷を収めるが、即座に消えるものではない。確かに、確かに感電したはずなのに、公爵は歯を食いしばってそれに耐えてみせた。――この程度の痛み、リーナが受けてきた仕打ちからしてみれば安いものだと言わんばかりに。
そして。
「リーナ。我が孫娘よ――迎えに来たぞ」
裏表のない笑顔を浮かべられて。
「…………」
リーナは、思わず、その手を握り返してしまったのだった。
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