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弟!
しおりを挟むお父様たちと一緒に屋敷の中へと戻り、三階へ。
屋敷の真ん中あたりに階段が付いていて、三階の右側の廊下を進めば私とアリスの部屋がある。
しかし今回は反対側、左側の廊下を進んでいく。
私たちお部屋と同じ、荘厳な扉。ここが私の義弟・ルイナス君の部屋らしい。
お父様が迷うことなくドアベルを鳴らす。ちなみにボタンを押して『ぴんぽーん』と音がするものではなく、そのままドアに小さなベルが付いているのだ。前世の中世貴族の屋敷と同じ……か、どうかは分からない。
「ルイナス。キミに新しい家族ができた。一応紹介しておくね? 私の姉の子供であるリーナと、リーナの妹であるアリスちゃんだ。ルイナスの『いとこ』になるね」
アリスのことも同時に紹介していたけど、ルイナス君とアリスは赤の他人なんだよね。でもまるでアリスも『いとこ』であるかのように紹介しているし……やはりこの人、腹が黒い。
「リーナは実の父親から虐げられていてね。緊急措置としてうちで引き取ることになったんだ。急に『姉』ができて戸惑うかもしれないけど、ゆっくりと納得してくれると嬉しい」
アリスは別に虐げられてはいなかったけど、そこも特に説明しないお父様だった。たぶんルイナス君はアリスも虐待されていたと思ってしまうことでしょう。やはりこの人以下略。
「…………」
ドアの向こう側で何かが動くような音がした。意外と防音性というか機密性が低いのかもしれない。……貴族っていつも従者が侍っていたり、着替えにすらメイドに手伝わせるみたいだから、そもそも普段の生活における『機密性』という概念が薄いのかもしれないけど。
ドアの向こう側に気配がある。気がする。とはいえ私も気配察知スキルを持っているわけじゃないので直感だけど。
『ミャー』
さっきは使い魔に気づいたじゃないか、みたいな声を上げるミャーだった。あれはほら、王太子に対する乙女の防衛本能みたいな?
お、そうだ。
索敵スキルを使えばドアの向こうに誰がいるか分かるのでは?
……あ、でもどうなんだろう?
今の私って鑑定眼のスキルが進化した千里眼と、索敵のスキルが複合進化して千里の果てを知る者よという名前のスキルになっているんだよね。
スキルの複合進化ってなんやねん、というツッコミはひとまず置いておくとして。
索敵スキルを使うなら自動的に千里の果てを知る者よを使わなきゃいけないのだけど、これってたぶん鑑定眼スキルも混じっているんだよね?
となると、もしかしたら索敵ついでに相手の心を読んでしまうかもしれない。
さっきも王太子の使い魔であるフクロウを鑑定したら、鑑定眼じゃなくて千里の果てを知る者よが発動して使い魔を操っている人物(王太子)の姿や居場所まで視えてしまったし。
いくら義理の弟になるからといって、視すぎてしまうのはどうかと思う。というか家族になるからこそ礼儀は大切にしないとね。
……覗き魔王太子? あのときは不可抗力だし先に覗いてきたのはあっちなんだから別にいいんじゃないのかな?
あとで索敵と鑑定眼を別々に使えるようにならないとなー、っと考えていると、扉からガチャンという音がした。
ガチャン?
まるで扉の鍵を開けたような音じゃない? 気のせい?
どうやら気のせいではなかったらしく、ゆっくりと部屋の扉が開けられた。
「……リーナ、アリスちゃん。少し離れて。直接触れなければ問題ないし、恐れる必要もない」
私の肩を掴み、扉から距離を取らせるお父様だった。腹黒だけどこういうところだなぁ、悪い人判定できないところなんだよなぁ。
部屋の扉が開け放たれる。
室内にいたのは、パジャマ姿の少年だった。
儚げ、というのが第一印象。
身長は私よりも少し低いくらい。子供の頃は男女の身長差はほとんどないのでおかしいことはない――という理屈は分かっているのだけど、それでも儚さを感じてしまうのは全体的な細さのせいだと思う。
いやまぁ、私も細さについては人のことを言えないのだけどね? なにせ部屋に半軟禁状態だったし。その後は別邸に軟禁されて運動量が足りてなかったもの。その上食事の量も少なかったのでガリガリなのだ私は。
まぁ今は魔物肉を食べまくったおかげかだいぶ血色はよくなってきた方だと思う。……思うよ? たぶんね。少なくとも目の前の少年よりは太いと思う。
まず細さから来る儚さに目が行ってしまうけど、息を飲むほどの美少年だ。
顔つきはお父様に似ているけど、幼さのせいか、あるいは心が純真なのか腹黒さは微塵も感じられない。天使。まるで天使のよう。
室内にありながらも光り輝くような金髪は細く、ふわふわで、軽くウェーブを描いている。
――美少年。
圧倒的な美少年であった。
「リーナ、アリスちゃん。私の息子であるルイナスだ。誕生日は半年も変わらないが、君たちの弟となる」
――弟。
おとうと。
おとうと。
その甘美な言葉が頭の中をリフレインする。
弟。
なんという素晴らしい響きか。
弟。
なんという存在か。なんという儚さか。
弟。
少し不安げでありながらも、扉を開けてくれたのはルイナス君の意志。ルイナス君から興味を抱いてくれたのだ。
弟。
――つまり、合法である。
姉とは妹を守らなければならない。
ならば、弟も守らなければならないのでは?
「おねえ、さま?」
ルイナス君のその言葉で、私は決壊した。
「――お姉ちゃんですよーーーーーっっっっ!!」
もはや気づいたときには抱きついていた。頬ずりしていた。
弟!
可愛い!
愛でるべき!
合法!
ほっそいねぇ栄養足りてる? ドラゴンのお肉食べる? 大丈夫だよこれからはお姉ちゃんが守るからね!
「ちょ、ちょっとお姉様!?」
『みゃあ!?』
「リーナ!? 触れちゃダメだと――」
なにやら後ろが騒がしいけど問題なし! 弟! 弟を可愛がらなければ! 前世にも妹はいたけど弟も欲しかったんだよねぇ私! 可愛いねぇ可愛いねぇルイナス! お小遣いあげようかあぁでも私お金持ってないや! ドラゴンの牙でも売り払う――痛ぁあぁあぁいっ!? ミャーにお尻噛まれた!?
◇
「――いやだって、弟ですよ? 抱きしめるものなのでは? 頬ずりするものなのでは?」
落ち着きを取り戻した私は弁明するのだった。アリスとミャーからの視線がとっても冷たいでござる。
ちなみにフィナさんは『おもしれー女』みたいな目で私を見ているし、ルイナス君は『あわあわ』といった様子で私とお父様を交互に見ている。
そんなルイナス君からの視線を向けられているお父様はというと――不安そうな顔で私の額に手をやったり、手首を握って脈を測ったりしている。
「……脈の乱れはなし。発熱も、貧血の症状もなし。健康そのものだね」
「ご飯いっぱい食べましたからね」
「……今日はサンドウィッチしか食べてないという話だったが……普段どれだけ食事を抜かれていたのか……。いや、伯爵への報復は後にするとしてだ。――リーナ。体調に問題はないのかな?」
「? ないですよ? むしろ弟を愛でて絶好調、みたいな?」
「……そもそもなぜいきなり抱きしめたんだい? 触れたら危険だと言っておいただろう?」
「? 目の前に弟がいるのですよ? 抱きしめるものなのでは?」
「…………。……なるほど、今まで破綻した家族関係しか知らないからこそ『家族愛』に飢えているのか……。だからこそ突如として現れた『弟』の存在を前にして混乱し、距離感を掴めなかったと……。なんと憐れな……」
なんか知らないけど、めっちゃ同情を込めた目で見つめられてしまった。猛抗議したいけど怒られそうにないからこれはこれで結果オーライ? みたいな?
おっと、そうだった。
「――ルイナス」
私が弟に視線を向けると、彼はビクッと身を縮めてしまった。
きっと怖かったのだと思う。
恐れていたのだと思う。
今までどれだけの人を体調不良にさせてきたのだろう? どれだけ避けられてきたのだろう? ルイナスの不安そうな顔からは、これまでの悲劇が察せられるかのようだった。
でも、彼は逃げることはせず。部屋に閉じこもることもせず。私のことを心配し、この場に留まってみせた。
優しい子だ。
優しいからこそ、傷ついてきた子だ。
だからこそ。
私はルイナスに微笑みかけた。
「――私は、大丈夫だよ」
私がそう告げると、ルイナスは驚いたように目を見開いたのだった。
「……いや、恐れているのは急に抱きついてきた『姉を名乗る不審人物』じゃないっすか?」
いい感じの空気を台無しにするフィナさんだった。
【ご報告】
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます!
報告の際の更新内容がこれ!?Σ( ̄□ ̄;)
それに伴う作業のため、来週の更新はお休みいたします。ご了承ください(゜゜)(。。)ペコッ
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