後宮の残念美人は、女装侍女と謎を解く

九條葉月

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女装男?

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『モォ! モォ!』

 雷獣を隣に歩かせながら、天真はいつもの洗濯場を目指していた。相変わらず沙羅の洗濯物はないが、それならそれで铃の洗濯を手伝おうと思っているのだ。

 ちなみに雷獣はいつも天真の近くにいるので引き紐(リール)を付ける必要はない。

「わぁ! モーちゃん!」
「今日も可愛いわねぇ!」

『モォ!』

 道行く女官や下女が雷獣を撫でたりエサをやったりするのでずいぶんと時間が掛かってしまったが、なんとか铃の洗濯が終わる前に洗濯場へと到着することができた。

「铃、遅れてゴメンね」

「いいんですよ、天真ちゃんは手伝ってくれているだけなんですから」

 そんなやり取りをしている間にも、近くにいた女官たちが雷獣に声を掛けたり撫でたりしている。

「――モーちゃんは今日も可愛いですね」

 と、声を掛けてきたのは別の女官。铃と同じく蘭の侍女をしている蓮だ。

 蓮とは雷獣を見つけた事件をきっかけに親しくなり、今では洗濯というていでお喋りをする仲になっているのだ。

 いや、蓮の目的は天真というより雷獣かもしれないが。今も天真への挨拶はそこそこに蕩けそうな顔で雷獣を撫でているし。

 今ならいける、と思ったのか蓮が雷獣を抱き上げ頬ずりする。

「聞いてよモーちゃ~ん! 今日は宦官と鉢合わせして気絶しそうになったんだから!」

『モォ!』

 慰めるように蓮の頬を前足でペシペシ叩く雷獣だった。それがさらに庇護欲を刺激したのか蓮の猫かわいがりが加速する。

 きゃあきゃあしている蓮を横目に、天真が小声で質問する。

「気絶しそうに、って。そんなに怖い宦官だったんですか?」

「いえ、身体は大きいですけど普通の宦官だと思います。むしろ態度は優しいかと。ただ、蓮は男性恐怖症の気があるので」

「あー……」

 後宮にいる女性は、妃は当然のこととして、女官や下女に至るまで美少女・美人が多い。なので必然的に後宮入りする前は男性から嫌な思いをさせられた人も多いらしい。というのは天真も小耳に挟んだことだ。

「宦官さんも大変ですね。大事なところを切り取られた上に怖がられちゃうんですから」

 同じ男として同情するしかない天真だった。

「……宦官さんの味方をするなんて、天真ちゃんは珍しい人ですね」

「え゛? そ、そうかな?」

「はい。普通の女性は宦官を怖がるものなので」

「そ、そうなんだ……」

 天真としては「ちゃんと切除・・してあるんだから怖がる必要はないのでは?」と思ってしまうのだが。女性からすれば『自分より大きく力のある存在』は怖く思えてしまうものらしい。

(女装した男だってバレたら大変だし、気をつけないと……)

 铃はこういう女性と男性のズレを教えてくれるので感謝することしきりな天真である。もちろん口にはできないが。

「そういえば」

 ずい、っと顔を近づけてくる铃。
 地味な侍女服を着ていて、化粧もしていないのであまり目立たないが……それでも铃はとんでもない美少女なのでドキドキしてしまう天真である。

「な、何かな?」

「こんな噂、知ってる?」

「うわさ?」

「うん。――後宮に、女装した男が紛れ込んでいるという噂」

「え゜!?」

 予想外の噂に変な声が出てしまう天真だった。
 そんな彼の様子を見てうんうんと頷く铃。

「そうだよね、怖いよね。本来なら女性か宦官しか入れないはずの後宮に、野獣のような男が紛れ込んでいるかもしれないんだから」

「や、野獣……」

 端から見れば自分は野獣でしかないのかと密かに傷つく天真であった。

「じょ、女装した男って、どんな感じ? 見てすぐ分かるものなの?」

「う~ん、こっちも噂で聞いただけだからなぁ。でも女装しているって分かるんだから、きっとアゴが割れていたり、髭の剃った跡が見えたり、肩幅が広かったりするんじゃないかな?」

「あぁ……」

 とりあえず自分は当てはまりそうにないなと思う天真であった。

「そ、そんな人がいたら凄く目立つだろうし、あくまで噂なんだろうね」

「う~ん、やっぱりそうだよね。噂は当てにならないかぁ」

 安心したような笑みを浮かべる铃だった。やはり美少女である。




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