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腕試し
しおりを挟む特に断る理由もないのでギルマスとの腕試しを受け入れると、さっそく訓練場に案内された。準備万端というかやる気満々というか……。
ギルドの訓練場は中庭にあった。
三階建ての建物(ギルド本部)に四方をぐるっと囲まれているので、多少斬撃を飛ばしたり魔法を飛ばしたりしてもギルドの建物が『壁』になり、周辺に被害が行かないようになっているのだと思う。
「いや、建物の窓から自由に訓練風景を見学できるようにだが?」
「さらっと『斬撃を飛ばす』とか言うなよ……」
「セナさんならやりそうですよね。実際攻撃魔法は飛ばしていますし」
「うん、セナならやりかねない」
暁の雷光のみんなが「セナー! がんばれー!」と熱い声援を送ってくれていた。照れるぜ。
そして、
「ギルマスが勝負を挑むとは……」
「あの女、只者じゃないのかもしれねぇな……」
先ほど私にケンカを売ってきた二人組が訳知り顔で腕組みをしていた。解説キャラかな?
ギルドの中庭にある訓練場には、そんな二人組の他にも多くの冒険者たちが集まってきた。訓練場の中だけじゃなく、宿として使われているらしい二階や三階の窓からも声援が飛んできている。
……そう、声援。
私を応援する人もいれば、ギルマスを応援している人もいる。さっきの騎士団と違うのは、下品な声を上げる人間が一人もいないってことだ。
「へぇ、あの女か? ギルマスが腕試しを希望したってのは」
「見た目は華奢だが、中身はとんでもないんだろうな」
「なにせあの脳筋――じゃなくて、ギルマスが直接動いたんだからな」
「噂じゃ、あの女が噂の『雷光』らしいぜ?」
「マジかよ? 若すぎねぇか?」
「だが、『雷光』は銀髪だって話だったよな?」
「はぁん、そりゃあギルマスも腕試しを希望するってもんか」
「俺もできねぇかなぁ?」
「止めとけ止めとけ。噂が本当なら、命がいくつあっても足りねぇぞ」
訓練場のあちこちから話し声が聞こえるけど、やはりみんな好意的だ。むしろさっきのケンカを売ってきた二人組が異端だったんじゃないかって思えるくらい。
……ちなみにその二人組は相変わらず腕組みをしながら最前列をちゃっかり確保していた。なんか意外と面白い人たちなのかもね?
(う~ん、中々にいい雰囲気……)
やっぱり私は騎士より冒険者の方が向いているのかも。
「うっし! 始めるか!」
ギルマスが嬉しそうな声を上げた。もちろん、私が刀を取り出すのをちゃんと待ってから。
彼の武器は、金属の手甲。籠手とか、アームアーマーとも呼ばれるものだ。金属鎧の手首と上腕部分だけ装備したような感じ。
興奮を抑えきれないようにギルマスが両手の拳を打ち鳴らす。――聞き慣れない金属音。おそらくは希少金属であるミスリルとかヒヒイロカネ、あるいはギルマスという立場ならオリハルコンでもおかしくはないかもしれない。
よし、腕試しを望んだのはあっちなのだから、容赦なくいきましょうか!
「ではさっそく、っと!」
試しにとばかりに刀でギルマスに斬りかかる。肩から腰までを切り裂く、いわゆる袈裟斬りで。
「ほぉ! 速ぇな!」
刀なんて武器は見慣れていないだろうに、ギルマスは慌てることなく腕を動かし、ガントレットの曲面を利用して上手い具合に刀身を滑らせた。こちらの予想に反した動きで、刀の切っ先が地面にまで滑り落とされてしまう。
「もらったぜ!」
地面すれすれにまで落ちた刀の刀身を踏みつけ、ギルマスが私に殴りかかってくる。刀の動きを封じられ、すでに格闘の間合い。普通の剣士であればもう勝負が付いてしまうところだ。
しかし、残念ながら。私は魔法剣士なのだ。
「――ぐっ!?」
私の顔面を容赦なく殴ろうとしたギルマスの拳が、私の顔の前で止まった。思っていたより手前での衝撃に、ギルマスの顔が苦痛に歪む。
「くそっ! 防御結界か! しかも無詠唱! さすが――」
丁寧に解説してくれるけど、解説終わりを待つ義理はない。私は刀の柄から手を離し、ギルマスの脇腹に掌底を叩き込んだ。
……うっわ、かったい。
防御結界を使ったわけでも、鎧を着ているわけでもない。ただ単純に鍛え上げられた筋肉と頑強な骨によって攻撃が弾き返された感じだ。掌底したこっちの手が痺れるってどういうことやねん。
ギルマスは防御結界を殴った右手にダメージを受け、私も同じく右手が痺れている。自然と距離を取った私たちはお互いを口汚く罵りあった。
「お前! 腕試しで防御結界なんて使うなよ!? 卑怯じゃねぇか!」
「女の子の顔面を容赦なく殴ろうとした鬼畜にとやかく言われたくはありません! というかなんですかその筋肉!? まだ手が痺れているんですけど!?」
「はんっ! 魔法にばかり頼っているから鍛え方が足りんのだ! もっと筋肉を付けろ筋肉を!」
「筋トレしすぎて頭の中まで筋肉になったんじゃないですか!?」
「そういうお前は魔法を使いすぎて性格が歪んだんだな!」
とんでもないセリフを吐き捨てながらギルマスが突撃してきたので、空間収納から二本目の刀を取り出す。刀は武人の魂だと言われることもあるけれど、私は別に武人じゃないので遠慮なく予備の刀を使わせてもらう。
本来であれば攻撃範囲が短いガントレット(というか拳)は圧倒的に不利であるはず。だというのにギルマスはこちらの斬撃を完璧に読み切り、ガントレットで受け流し、着実に拳が届く距離にまで詰め寄ってくる。
丸い盾を使って攻撃を受け流すというのは聞いたことがあるけど、まさかガントレットでやる人間がいるとは! 目の前で白刃が踊っているというのに恐怖心というのがないのかしら!? ちょっと失敗したらザクッと斬られるのに!
もうあまりの脳筋さに付き合いきれなくなったので、後ろに飛んで距離を取る。
「もーやだぁー! 何このオッサン、めっちゃ怖いんですけどー!?」
「オッサンとは失礼だな! まだオッサンと呼ばれるような年齢じゃねぇ!」
「……実年齢は知らないけど、見た目は完全にオッサンでしょう。あと、さっきちょっと加齢臭したし」
「――ぐふぅ!?」
なんか知らないけど精神的に大ダメージを喰らったらしいギルマスは、その場で両膝をついたのだった。
筋肉を鍛えても心までは鍛えきれんかったか、未熟者めが……。というオチでそろそろ締めにしない? ダメ?
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