【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!

久乃川あずき(桑野和明)

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4巻

4-1

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 プロローグ


 僕――水沢優樹みずさわゆうき七池高校なないけこうこう二年A組の三十四人のクラスメイトとともに異世界に転移した。
 それから三ヶ月で十五人のクラスメイトが死に、ケガをした僕はクラスから追放されてしまった。
 普通なら、森の中をうろつき回るモンスターに殺されていただろう。
 しかし、僕は『創造魔法そうぞうまほう』を覚えたことで生き延びることができた。
 創造魔法は万能の魔法で、素材さえあれば何だってできる。
 強力な呪文でモンスターを倒すこともできるし、美味おいしい料理を具現化することも可能だ。
 僕は冒険者となり、幼馴染おさななじみの由那ゆな、猫の獣人のクロとパーティーを組んだ。
 そして、創造魔法を教えてくれた英雄アコロンとの約束を果たすために、僕たちは動き出した。
 それは、魔王ゾルデスを倒すことだ。
 アクア国の王様に会って、ゾルデス討伐の協力を得た。
 さらに新たな仲間として、獣人ミックスのミルルが加わった。
 僕たちは七魔将ななましょうカリーネを倒して、ゾルデスがいる最果ての大迷宮に向かうことになった。


 第一章 つかの間の休日


 僕と由那は、深い森の中にある家で昼食を取っていた。
 リビングの中央に置かれたテーブルの上では、創造魔法で具現化した『ピザール』のピザが湯気を立てている。

「んーっ、幸せ」

 ピザを口にした由那が満足げな笑みを浮かべた。つやのある黒髪に色白の肌、ぱっちりとした目の下にはほくろがある。スタイルも良く、冒険者用の服の胸元が大きくふくらんでいた。

「ピザールの照り焼きチキンピザは美味しいね」

 由那はメガネの奥の目を細くする。

「そうだね。イタリア人からは怒られそうだけど、ピザの具に照り焼きチキンはすごく合ってると思うよ」

 僕は切り分けられたピザを手に取り、一口食べる。
 溶けたチーズと照り焼きチキンの組み合わせは最高だな。コーンとマッシュルームも入っているし、きざ海苔のりこうばしさをプラスしている。
 この世界で食べた料理にも美味しいものはあったけど、やはり、元の世界の料理にはかなわない。特に日本では、世界中の美味しい料理を食べることができたし。
 僕は右手の人差し指にはめた『ダールの指輪ゆびわ』を見つめる。
 この指輪の中には多くの素材が収納してある。この素材さえあれば、創造魔法は万能だ。
 美味しい料理を出すこともできるし、強い武器や防具を作ることもできる。千人以上の軍隊を一発で殲滅せんめつさせる高位呪文も使えるんだ。

「ねぇ、優樹くん」

 由那が僕に声をかけた。

「この後、何をするの?」
「今日は体を休めておこうか。明日からいそがしくなるし」
「明日はヨタトの町に戻って、みんなと合流するんだよね?」
「うん。いっしょにカラロ城に行く予定だからね」

 僕は壁に貼ってあるアクア国の地図に視線を向ける。
 カラロ城を攻めるのは、『幻惑げんわく軍師ぐんし』シャムサスが率いる十万の軍隊だ。十日で城を落とす計画を立ててるみたいだけど、上手くいくんだろうか。
 当然、カラロ城を守る魔族側もアクア国の軍隊が攻めてくることを知ってるだろうし。
 厳しい戦いになるかもしれないな。
 その時、誰かがドンドンと玄関の扉を叩いた。

「ん? 誰だろう?」

 立ち上がって扉に近づくと、声が聞こえてきた。

「優樹くん! いるんでしょ?」
「この声は……」

 僕は金属製の扉を開けた。
 そこにいたのは副委員長の瑞恵みずえだった。
 瑞恵は英語の文字が印刷されたTシャツとチェック柄のスカートを穿いていて、髪は短く切っている。学校から走ってきたのか、Tシャツの胸元が汗でれていた。

「優樹くんっ! 助けて!」

 瑞恵が僕の上着をつかんだ。

「助けてって、何かあったの?」
「学校に大きなクモがおそってきてるの」
「クモって、八本脚のクモ?」
「そうよ! でも、犬ぐらい大きくて何百匹もいるの。それで……委員長がケガして」

 瑞恵の目が赤くなっている。

「お願い! 宗一そういちくん……委員長を助けて! あの石をあげるから!」
「あの石?」
「そう。黒くてキラキラした石よ。三日前に私が見つけたの」
「『魔石ませき』か……」

 あの石は新しい魔法を創造する時に必要になる素材だ。今の僕は百個以上持っている。今さら、欲しい素材じゃない。
 だけど……。

「わかった! 由那もついてきて!」

 僕たちは家を出て、二百メートル先の学校に向かった。


 校門から学校の敷地に入ると、ヤンキーグループのリーダー、恭一郎きょういちろうと剣道部の小次郎こじろうが赤黒いクモに囲まれていた。
 クモは中型犬ぐらいの大きさで、八本の脚の先端は鋭くとがっていた。八つの目は赤く、白い牙からは半透明の液体が垂れている。
 僕は腰にげていた『魔銃零式まじゅうぜろしき』を手に取り、ダールの指輪から『通常弾つうじょうだん』を装填そうてんする。
 二匹のクモが恭一郎に飛びかかった。
 同時に僕は引き金を引く。
 銃声が響き、二匹のクモの丸い体に小さな穴が開いた。その穴から黄色い体液がき出す。

「ゆ、優樹……」

 ぽかんとした顔で恭一郎が僕を見つめる。

「ケガはない?」
「……あ、ああ。俺たちは」

 その時――。

「キュキュッ!」

 校舎の壁に張りついていた数匹のクモが甲高い鳴き声をあげて、飛び降りてきた。

「優樹くん、私にまかせて!」

 由那が巨大化した斧を両手で振り回す。
 クモの体が切断され、赤黒い手脚が地面に落ちた。
 強いモンスターじゃないな。でも、数も多いし、みんなにはきついか。

「ひっ、ひいいいっ!」

 突然、校舎の昇降口から、料理研究会の胡桃くるみが飛び出してきた。その背中にはクモが張りついている。

「たっ、助けて!」

 胡桃の足がもつれて、前のめりに地面に倒れた。
 僕は胡桃にけ寄り、背中に張りついていたクモを蹴り上げる。
 胡桃から離れたクモに銃口を向けて、僕は通常弾を撃った。
 クモの頭部に穴が開き、カシャカシャと動いていた脚が停止する。

「優樹くん! あっちよ!」

 僕の後ろにいた瑞恵が体育館を指さした。
 視線を動かすと、体育館の前に七人の元クラスメイトたちがいた。その周囲を数十匹のクモが取り囲んでいる。野球部の浩二こうじとヤンキーグループの巨漢、力也りきやが必死に鉄の棒を振り回しているのが見えた。
 僕は走りながら、みんなを取り囲んでいるクモの位置を確認する。
 よし! この距離なら……。
 ダールの指輪に収納していた『魔力まりょくキノコ』『赤炎石せきえんせき』『星水晶ほしすいしょう』を組み合わせて、『ファイヤーボール改』の呪文を使用した。
 具現化された数十の火の玉が、意思を持っているかのように動きクモに当たる。

「キュイイイッ!」

 クモたちは炎に包まれて動かなくなった。

「優樹! 助けにきてくれたのか」

 浩二が僕に駆け寄ってきた。

「やっぱり、お前は俺たちのヒーローだぜ!」
「副委員長が魔石……黒い石をくれるって言ったからだよ」

 僕は腹部を押さえて倒れている委員長の宗一に近づいた。宗一のシャツは破れていて、ズボンまで血で濡れている。
 傷は深そうだな。このまま血が止まらないなら、出血多量で死ぬだろう。

「僕は……死ぬんだな……」

 宗一は青白いくちびるを動かした。

「むなしい……人生だった。こんな世界に……転移して……草ばかり食って。元の世界にいたのなら、有名な大学に入って、一流企業に就職できたのに……」
「まだ、死ぬって決まったわけじゃないよ」

 僕は魔力キノコと『夢月草ゆめつきそう』を組み合わせて、回復魔法を使用した。
 黄金色の光が宗一の腹部を照らした。みるみる傷がふさがっていく。

「こ……これは?」

 宗一は驚いた顔で腹部を触る。

「僕は……助かったのか?」
「うん。回復魔法を使ったから」
「回復魔法?」
「ケガを治す魔法だよ。ある程度の傷なら、この魔法で治すことができるよ」
「そっ、そんなことができるなんて、聞いてないぞ」
「言ってなかったからね」

 僕は周囲を確認する。
 近くにいたクモは由那が倒していて、残っていたクモも学校の敷地から逃げ出している。
 もう大丈夫みたいだな。一匹一匹なら、みんなでも倒せるだろうし。

「ちょっと、優樹くん!」

 自己中心的な奈留美なるみが僕に声をかけてきた。

「私もケガしてるの。早く治してよ」

 そう言って、奈留美はクモに引っかかれた腕の傷を見せる。

「すごくヒリヒリして痛いんだから」
「その傷、たいしたことないよ。もう血も止まってるみたいだし」
「はぁ? 委員長は治したでしょ。それなのに私を治さないって、おかしいから!」

 奈留美は眉を吊り上げた。

「これって、差別よね」
「違うよ。委員長は回復魔法を使わなかったら、死ぬ可能性が高かった。でも、君は元気じゃないか」
「元気じゃないから! それに傷痕きずあとが残ったらどうするの? 責任取ってくれるわけ?」
「どうして、僕が責任取らないといけないんだよ」

 ずっしりと肩が重くなる。
 毎度のことだけど、奈留美と話してると頭が痛くなるな。ここまで自分勝手な人間は見たことがない。

「とにかく、僕の仕事は終わったよ。約束通り、魔石をもらうから」
「わかってる。ちゃんと約束は守るから」

 瑞恵がスカートのポケットから魔石を取り出し、それを僕に渡してくる。

「……うん。小さいけど、魔石だね」

 僕は魔石をダールの指輪に収納した。

「じゃあ、僕は家に帰るから」
「おいっ、待てよ!」

 浩二が背後から僕の肩を掴んだ。

「その石を渡したんだから、ついでに食い物も出してくれないか」
「食い物?」
「あぁ。そのぐらいいいだろ?」

 浩二は壊れた小屋を指さした。

「俺たちが育ててた鳥をクモが殺したんだ。このままじゃ、当分、野草サラダとスープだけの生活になるからさ。胃にがつんとくるものが食いたいんだよ」
「狩りはやってないの?」
「最近は上手くいかなくてさ。新しいゴブリンの群れが狩り場の近くに巣を作ったし、恵一けいいち雪音ゆきねもいなくなったからさ」
「あぁ、今は十一人か」

 僕は元クラスメイトたちを見回す。
 異世界に転移した時は、三十五人のクラスメイトがいたのにな。

「だから、『ビッグマグド』ぐらいいいだろ?」

 浩二が僕の肩に太い手を回した。

「もう、お前に逆らうつもりなんてないんだからさ」
「無理だね。食べ物を出すための素材も貴重だし、それは仲間のために取っておきたいから」
「仲間? そいつらにはビッグマグドを食わせてるのか?」
「ビッグマグドはまだ食べさせてないけど、『杉阪牛すぎさかうし』のステーキやシュークリームは食べさせたかな。どれも好評だったよ」
「杉阪牛のステーキだとっ!」

 力也が野太い声を出した。

「おっ、お前、そんなものも出せたのか?」
「うん。僕が食べたものなら、何でも魔法で出せるから」
「何でもって……カツ丼や天丼もか?」
「もちろん。他にもピザとか寿司とかラーメンとか……」
「あああっ!」

 胡桃が僕の前で土下座した。

「お願い、優樹くん。とんこつラーメンを……とんこつラーメンを出して! 私、ラーメンが大好きなの」
「バカっ! とんこつラーメンより、杉阪牛のステーキだろうがっ!」

 恭一郎が怒声をあげた。

「肉だぞ、肉! しかも最高品質の牛の肉だ!」
「でも、ラーメンだって、チャーシューが載ってるし」
「値段を考えろ! 杉阪牛のステーキは三万円を超えるのもあるんだぞ!」
「待てっ!」

 小次郎が口を開く。

「日本人なら、寿司にするべきだろう。この世界の魚を生で食うのは無理そうだしな。寄生虫の問題があるだろうし」
「いいや。杉阪牛のステーキだ!」
「とんこつラーメンよ!」

 胡桃と恭一郎と小次郎が言い争いを始めた。
 食べ物を出すなんて、言ってないのに……。
 僕は頭をかきながら、ため息をつく。
 その時――。
 コンクリートの塀の向こう側から、大きな音が聞こえた。
 全員の視線が音がした方向に向く。
 そこには、背丈が五メートルを超える巨大なクモがいた。クモは全身が黒光りしていて、八つの目が赤く輝いている。

「ギィイイイ!」

 クモは八本の脚を動かして、こっちに近づいてくる。

「ひ、ひいいいっ!」

 千春ちはるが悲鳴をあげて、後ずさりする。
 他のクラスメイトたちも恐怖に顔をゆがめて、僕の背後に回った。
 クモの親玉か。あれは通常弾では倒せそうにないな。
 僕は『エクスプローダー弾』を魔銃零式に装填し、近づいてくるクモに向けて引き金を引いた。
 銃声が響き、弾丸がクモの額に当たる。金属同士がぶつかったような音がして、エクスプローダー弾がはじかれた。
 小さなクモと違って硬いな。それなら、脚の関節を狙って動けなくするか。

「由那っ! 僕がクモの動きを止めるから」
「わかった」

 由那の持っている斧がさらに大きくなった。

「どいてろ! 優樹」

 突然、聞き覚えのある声が背後から聞こえ、誰かが僕と由那の間をすり抜けた。
 声の主は追放された四郎しろうだった。
 四郎の頬はけていて、手足は棒のように細い。冒険者風の服を着て、茶色のブーツを履いていた。

「さて、と」

 四郎は口角を吊り上げて、巨大なクモに突っ込んだ。

「ギィイイ!」

 クモは尖った前脚を振り下ろす。
 その攻撃をかわして、四郎はジャンプした。前脚の関節部分に飛び乗り、さらにジャンプしてクモの真上に移動する。

「一瞬で終わらせてやるよ」

 四郎は笑いながら、右手を振り上げた。

「ギッ……ギギッ!」

 クモは楕円形だえんけいの胴体を上下に揺らして、四郎を振り落とそうとする。

「もう遅い!」

 四郎の右手のひらが縦にけ、その部分から胴回りが二十センチ近くある細長い生き物が姿を見せた。色は赤黒く、先端の部分の口には尖った歯が円形状に並んでいる。
 その生物の胴体が長く伸び、頭部がクモの赤い目を突き破った。
 グシュ……グシュ……グシュ……。
 肉が喰い千切られるような音が聞こえてくる。

「ギ……ギギ……」

 クモの動きが止まり、ぐらりと体が傾く。
 そして、クモは地響きを立てて横倒しになった。
 同時に四郎がクモの上から飛び降りる。

「残念だったな、優樹」

 四郎はだらりと舌を出した。

「みんなの前ででかいクモを倒して、ヒーローになりたかったんだろうけど、それは僕の役目になったみたいだね」
「ヒーローになる気なんてないよ」

 僕は四郎と視線を合わせる。

「僕は報酬ほうしゅうをもらって、クモ退治をしてただけだから」
「報酬がなければ、みんなを助けなかったってことか」
「そうだね。ビジネスライクにつき合おうって、委員長にも言われてたし」
「……ふーん。やっぱり君は冷たい男だね」

 四郎は右手を胸元まで上げた。手のひらから出ている細長い生物が尖った歯をカチカチと鳴らして、僕を威嚇いかくする。


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