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7.聞き飽きただろう言葉
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しおりを挟む「あれはまだ試験終了段階では」
「自分がいただいたものはまだ試験中とのことでしたが、効果は十分に確認できました。ただ、多少の頭痛を伴うようですが」
「…そうか」
紫香楽がスプーンでカップの底を浚う度、ザリ、と溶けきらない砂糖が砕ける音がした。
「…しかし、アルファの剱など、…理央様にとってリスクしかありません。それは理解しているつもりです。理央様の経過を見て、最悪の場合は自分は理央様の剱から外れます」
「…わかった。ワンタイムは常に持たせておくように」
「はい」
口元を手で覆い、思案する表情を見せた後、紫香楽がカプセルのシートをテーブルに置く。
「…強めの抑制剤だ。今のものよりも即効性も効果も高い。頓服としても使えるものだ。ただ、理央様に直接渡せば使ってしまいそうなのでね。君に渡しておく」
「しかし、理央様の体に負担が、」
「非常時のみ、使いたまえ。不特定多数のアルファがヒートにあてられてしまうよりはマシだ。何かあってからでは遅い」
「…わかりました」
紫香楽の視線には、『お前もその一人だ』という意志が垣間見えた。
紫香楽を邸のエントランスまで見送り、その足で理央の部屋を訪れた。
寝室のドアをノックしたが返事はない。
念のため、遮断剤を飲んでからカードキーを使って部屋に入り、ベッドにのりあげた。
穏やかな寝顔に安堵する。
ベッドヘッドに置かれたままの理央の端末を確認すれば吉良が言った通り、電源が落ちていた。
ひとまずそのまま充電器に置き、理央の髪を撫でてからベッドからおりたとき、白い手が俺の手を掴んだ。
「…つるぎ、…?」
「…はい、ここに」
一瞬驚いたが、直ぐに答えた。
「よかった、」
細い指先が眼帯を絡めとり、俺の頬を撫でる。
「…理央、?」
「ここにいろ、」
「しかし、」
「命令だ」
「…はい、」
抱き寄せられ、瞼に口付けられて目を閉じれば唇を吸われて息を飲んだ。
柔らかな熱い舌が理性を奪う。
「…ん、」
吐息した理央の身体を抱き締めて密着させた。
「好きです、理央」
動物のように身を寄せてくる理央はどうしようもないほど庇護欲を煽った。
髪を撫で、シャツの釦を外し、薄い肩に手のひらを滑らせる。
鎖骨にキスして尖った乳首を指先で擦った。
「…っぁ、」
「俺の番にしたい、…」
それが、許されたならば。
「つるぎ、」
「戯言です」
理央が今俺に触れるのはアルファに触れることで安堵をえられるからだ。
俺の頬を撫で、キスしてくる理央は可愛い。
自分が好かれているのでは、と思えるほど。
抱き締めて鎖骨を吸う。
脚の間に指先を這わせれば理央は既に濡らしていた。
「あ、」
「…濡れてますよ」
「…っ」
「抑制剤を服用していてもこんなになるんですね、ヒート中は、」
指を沈めたら理央の身体が跳ねる。
「あ、っあ、」
濡れた音に羞恥を覚えるのか、かたく目を閉じた理央の瞼に口付けた。
「かわいい、理央」
「っつるぎ、っ奥、深…っ、」
「…」
細い腿に欲を押し付けながら耳に噛み付く。
びく、と震えた理央に内心苦笑して指を抜いた。
たとえヒート中でも、俺などが抱いていいわけがない。
吉良に劣る剱など何の価値もない。
理央の優しさで、今触れることを許されているだけだ。
ヒート中でなければ疾うに打たれている。
遮断剤を飲んでおいて正解だった。
そう思いながら身体を離し、理央をイかせようと透明な滴をこぼしている器官に触れた。
「…あ、」
「こちらも気持ちいいでしょう?」
「違う、」
「…理央」
「こっち、」と脚を広げて指を挿れ、後腔をさらす理央の姿態に唾液を飲み下す。
酷く、頭痛がした。
「っ、」
「挿れて、いいから」
「何を言って、」
「つるぎ、」
「…理央、」
「俺が全部してやる、から、」
「…っ、」
全部に、性行為も含まれているとでもいうのか。
「…、そんなに嫌か、」
「いけません、理央、」
するりと。
俺の身体から手を離し、理央はシャツを羽織って俺に背を向けた。
「理央、…」
「…悪かった、もういい」
「…、好きです、理央、」
「…お前のそれはな、剱の習性だ。無条件で暁に惹かれる。おまけにアルファ。…それでも俺みたいなオメガじゃ流石に無理なんだな」
「…何の話ですか」
「寝る。下がれ」
「…」
理央の背を呆然と見つめていたら、やがて小さなため息を吐き、理央は俺の方に身体を向け、手を差し出した。
俺は何も言えないままその手を取り、手の甲に口付ける。
「…悪かった、もう今みたいなことは強要しねーから、……少し、…俺が寝るまで此処にいてくれ」
「…はい、」
胎児のように丸くなって目を閉じた理央の背を撫でたら、理央は小さく吐息した。
「…悪いな、」
なぜ、悪いなどと。
強要とは、どういう意味だ。
俺はあなたの剱なのに。
訊きたかったが、もし、『もうお前を剱だと思っていない』というような、決定的な答えが返ってくることを俺は恐れた。
「…好きです、理央」
「…うん」
やがて寝息をたてはじめた理央の頬を指先で撫で、唇を押し付ける。
「好きです、理央…」
美しい黒髪に指を通し、もう理央は聞き飽きただろう言葉を繰り返すことしか、俺には出来なかった。
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