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27・ただ一つ、仄暗い喜び
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しおりを挟む「なぜ、命令しては下さらなかったのでしょう」
ぼんやりと呟いた瞬間、神木が天井から視線を下ろし、俺を見る。
「…惨めで虚しいだろう。好意を寄せている相手に命令するのは。まして理央様はあの見た目だ。メイドに手を出している側近がどう見ても男性のオメガ相手に使い物になるか、自信等持てなかっただろう」
返す言葉もなかった。
「自分が、理央様を大切にするほど…理央様を惨めにしていたということですか…」
「どちらも悪くはないんだ。どちらも自分の立場があった。その上で相手の立場と、相手を思って行動した。それだけのことだ」
「なるほど…俺がいくらあいしていると告げたところで説得力も無い」
膝の上で握り締めた拳がギシ、と鳴る。
「…教えてくれればよかったなどと言わないでくれよ。理央様を貶めたくはない。だから僕も吉良も決して君に言わなかったのだからね」
「自分の愚鈍さを呪うばかりです」
もはや全てが遅い。
全てが置き去りだ。
ソファから立ち上がり、神木に背を向ける。
「大和、…」
「生家に戻る準備を致します」
「ああ。しっかりと」
「…はい」
もはや眼帯で左目を隠す必要も無い。
自室に戻り、何も無い空虚な部屋を眺めた。
何も必要なかったのだ。
理央がいれば。
理央の為に、自分は存在していたのだから。
ベッドに座り、眼帯をサイドチェストの上に置く。
横になり、目を閉じた。
明日から俺は、剱ではなくなる。
理央を、失う。
主人を失う。
運命を、失う。
俺では、なくなる。
「…俺が、…理央にそうさせた、…」
静寂を湛える部屋に、かすれた俺の声が虚しく響いた。
翌日。
神木に送られ、剱本家に戻った。
道中、神木は一言も話さず、俺も何も言わなかった。
もはや神木が何を言おうと後の祭りにすぎず、俺が何を言おうと言い訳にしかならない。
それを分かっていたからだ。
俺にはただ一つ、仄暗い喜びが残った。
神木の言葉が本当ならば、理央は俺以外の誰とも番えない。
理央はこの先、誰のものにもならないのだ。
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