ぽっちゃり幼馴染とサムライビッチ

綾 遥人

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09話 清楚で貞淑

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 散々な目にあった。頭のおかしいやからと喧嘩する羽目になったり、誰かれ構わず喧嘩を吹っ掛けるビッチを家まで送っていく事になったり。
 そのせいで普段の帰宅より1時間近く遅くなっている。

 「はぁ、美羽もタマも腹減らして待ってくれてるんだろうな……ただいま!」
 学生鞄を盾のように構えて家のドアをそっと開ける。 
 悪夢の公園から出来るだけ早く帰宅した俺を最初に出迎えたのは美羽の投げる棒手裏剣だった。
「わっ何するんだ!」
 正確に眉間と咽喉を貫く威力と軌道。鞄から鈍い衝撃が伝わってくる。
 美羽も俺が避けるって信じてくれているんだな。信じる力ってマジ怖ぇ……
「大丈夫。稽古用の手裏剣やけん、怪我したりしないよ」
 稽古用→木製 ○ 今回使用分→金属製 ×、ヤバイ、完全に空腹でキレれる。
「遅くなったらコロすっていったよね?」
「そんな事もおっしゃってましたね……」
 玄関でユラリと河野流体術の構えをとる美羽。
「悪かったって、変な奴に絡まれてあっちこっち逃げ回ってたんで遅くなった! 悪い!」
 必死の言い訳にも効く耳を持たない美羽の猛攻をしのぎ続ける。

「おかえり、翔くん! 美羽ちゃん、すぐご飯が出来るから、そのくらいにしてあげてね。うわっ!翔くんどうしたの?」
「ただいま、タマ。ちょっと帰りに公園で転んで制服が汚れた。写真とるって言ってたのにスマン!」
慌てて風呂場に向かう俺をタマが呼び止める。
「翔くん、その黒い服は?」
 そういえば、凛の服を鞄と一緒に持ったままだった。

「あ~、これな。後で説明する。早く飯にしないと美羽に今度はマジで締め殺される」
 すれ違う俺を見るタマの顔は心配そうに見えた。大丈夫、いじめられたわけじゃないから。
 タマの表情の原因は俺が凛のパーカーを着たことによる移り香が原因とはこの時、気づかなかった。

 食事中、今回もタマの天国への扉ヘブンズ・ドアーが発動したがまともに説明して信じてもらえるだろうか?
 ガラの悪い2人組を殴り倒す凛から救うべく凛を公園まで連れて行くと、凛と口論になりモンスタートレインされてPKと喧嘩する羽目になった、なんて信じてもらえるだろうか? 少しストーリーをよくある話に変更して話し始める。
 タマにはサムライさんが不良に絡まれていたので不意打ちでやっつけて公園まで逃げた。俺を探していた不良の仲間に見つかる前にサムライさんにパーカーを借りて(制服だったから)、悪い奴らをなんとかやっつけて家の近くまで送ってから帰宅した。パーカーは渡しそびれたと、若干のストーリー変更をした。

 途中で思わず一目惚れしたって伝えたと話していると、俺の前からハンバーグが消えてトマトサラダにメニュー変更された。『キモイ・迷惑』だとサムライさんに言われた辺りで少しホッとした表情のタマがメニューをハンバーグに戻してくれた。最後に送っていくと伝えると『変態』って言われたというと、ハンバーグが増量になった。

  美羽はそんなことするのは俺のキャラじゃないけど、普通の女子ならそれで軽く好きになるんじゃないか?と疑っている。たしかに、ありがちなシチュエーションだ。
 タマは俺の顔をチラチラ見ながらハンバーグとトマトサラダとご飯を三角食べしている。
 まあ、ストーリーは若干変更した位だし大丈夫かな?



* * * * * * 



 あの公園での騒動があってからもバイトに行くと毎回、凛がレジに並ぶ。
 連絡先を交換しようだの一緒に帰ろうだの。話しかけるなって言ったのはそっちの方だ。
 お断りするが、バイトなので仕方なく二言三言会話はする。何を考えているか分からないのでお友達にはなりたくない。

 金曜日の授業も終わり、俺は急いで荷物を抱えて教室を後にする。
 何人かの友人に週末遊びに誘われるが(もちろん男)、今週からは、美羽とタマの稽古に付き合うと言ってあるので残念ながらお断りする。
 しかし、アルバイトを始めて週に3日ほどしか稽古をしていない。去年まではほぼ毎日だったのだが、稽古の時間が減り、食べる量が変わらないので順調に体重は増えている。
(タマにダイエットするなって言ったけど、俺は少し痩せないとな……)
 毎朝のロードワークを少し増やすか?
 格闘技をするためにはある程度の体重は必要だ。俺ぐらいの身長(180㎝)があれば、85キロ位はあってもいいのだが、組手のスタイル的に75キロ位で維持したい。重くてスピードが鈍くなるからな。

 スマホが着信音を鳴らしタマからのメッセージを表示する。
 ごめんねと書いた猫のスタンプと一緒に道場には1時間ほど遅れるとのメッセージ。
 短く了解とだけ打ち込み校門を出た瞬間、手品のように俺の手からスマホがひったくられる。

「ちょっと、彼女を30分も待たせて遅くなったの一言も言えないの?」
 近くのお利口さんが通う女子高の制服。スカートを短くしブラウスを少し着崩した凛が俺のスマホを弄りながら文句を言う。
(ち、黙っていればめちゃくちゃ可愛いのに……)

「なんで、お前がここにいるんだ? こら! スマホを返せ!」
 奪い返そうとするが弾むようなバックステップで俺の間合いには入らない。
 しかし、タマや男友達以外にこんな口調で話せるって自分でも不思議だ。

「なんだかダーリンに会いたくなって。最近はバイト中に逢いに行ってもそっけないし。迷惑だった?」
 俺のスマホを差し出しながら上目づかいに……もう、『あざとい』以外の表情じゃない。
「お前が話しかけてくるなって言ったからだろ。今すぐ俺の個人情報を削除しろ!」
 自分のスマホを受け取り、凛のスマホもひったくろうとするが、奪い取れない。ちっくしょ、相変わらず反射神経はいい。
「いやよ」
「なんでだよ!」
「この前、告白してくれて、付き合ってあげるって言ったでしょ。私たちは恋人同士」
「どんな解釈をしたらアレがそうなるんだよ!」
「翔吾のナニがどうなってるのかは知らないけれど、こんなに可愛くて清楚で貞淑な彼女が出来てよかったじゃない」
「清楚と貞淑の意味を知って言ってんのか?」
 凛の通う高校は俺の通う公立高校とほぼ同等の偏差値だったはず。
「意味は十分理解しているわ。私を飾るのにふさわしい響きだと思うけど」
「響きかよ。もういい…… で、何の用だ?」
 こいつはまともに会話のキャッチボールにならない。お互いに暴投気味だ。

「デートをします」
 少し頬を赤くした凛が真顔で言う。

 ……これはまたひどいワイルドピッチだ。
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