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一章
1# 超生物
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日本のボーダーラインをまたぐ北西に位置する人工島では、今まさに切羽詰まった状況に陥っていた。
陸上の大半を陣取っていた研究施設からは煙が昇り、各所で炎が燃え上がっている。
半壊寸前の建物の中で、ここの研究員であった僕は“奴ら”を捕獲するための銃を構え、全身を震わせていた。
辺りは硬合金の壁と床、それをホログラムシステムが白で覆っていて、鉄特有の臭みを消している。
幸いここは“奴ら”を隔離するための特別な場所であり、炎の耐性が強いこともあって、このような部屋は傷はついていても、他の部屋のように半壊ほどもしていなかった。
僕は左手首につけてある腕時計のような形をした機械のタッチパネルを人差し指でとんと叩くと、指紋認証が完了したと言う知らせのサインが現れ、パネル上から光が発生し、そこから続くようにして目の前に画面が現れる。
画面上から次々と浮き出てくるアイコンの中から、昔存在していたらしい『電話(正式名は知らない。電話に似たものは今でも存在しているが、今ではそう呼ばれることはほとんどなく、僕の知識上ではこう形容するしかない。とゆうより、正式名があるのかどうかと言う話だが)』の受話器と言う部分の形をしたアイコンをタッチした。
そこから連絡先を選んで通信を行おうとしたが、先にあちらから通信の知らせが入ってきた。
僕が連絡しようとしたのは、ここやここ以外の研究施設を取り仕切る本部である。
僕は通信許可のボタンをワンタッチすると、画面上に僕よりも若そうな柔和な顔立ちの男が見えた。
見覚えがある顔で、すぐにここ第十五研究所の内部システムの全体管理に携わっている者だと分かった。
彼はその穏やかな顔とは裏腹に、やや強張った口調で僕に話しかける。
「こちらre:nature本部。第十五研究所の施設管理全体を何者かにのっとられた。現在の状況をあなたの口よりお聞きしたい。これはどういう事だ」
これは可笑しな質問だ、と僕は思った。
現代の厳格を極める徹底された情報管理社会の下、上層部の人間、ましてや施設管理の担当人であれば、とうにこちら側の状況を把握しても不思議ではないはずだ。
研究員の一人が朝方デスクで研究結果の報告書をまとめていただとか、昼食にベーコンクリームパスタを食べていただとか、ブレイクタイムで飲んだコーヒーのブランドはアロリバだったとか、挙げ句の果てには研究員の中の二人が当日着た服の柄がお揃いだったとか、そんなものまで管理され、把握されるようになった今の時代。
息苦しいと子供時代に感じたことがあったが、それがあるお陰で僕らの安全は保証され、何事もなく一日を過ごせるのだから、それに越したことはない。
しかしまあ、今の状況に至っては、そんな能天気なことも言ってられない。
僕は通信画面の下部分を前にスライドさせ、言語キーボードを表示させると、素早い手つきでそれを打ち、メッセージを入力して本部に伝達する。
そのメッセージが僕の声を真似た人工知能によって発言され、本部にいる彼らに届くのだ。
「『SPcubeより大量の超生物が脱走しました。もう既に何体かは研究所の外に出ていると思われます。緊急時の全システムのシャットダウンを試みましたが、権限を奪われました。部屋のほとんどが燃え上がっている上、散らついた超生物がいるため、施設内からの脱出は困難なものです。私はcube内で待機していますが、メンバーの生死は不明。一時間ほど前に全メンバーに連絡を入れましたが、誰一人として応答しません』」
「何、超生物が脱走しただと」
そんなことまで知らないのか。僕はほとほと呆れた。
無論あちらから発せられる音声は僕にしか聞きとることが出来ない。
入力された音声がネットワークを通って、届いた機種本体から発せられると言うシステムは、今ではずいぶんと古めかしい。
現在普及してるものと言えば、まあ上記で言ったようなシステムと少し似ており、機種本体から発せられる微量の超音波を聴覚器官が直接的に受け取ることで、その瞬間から言葉のメロディーを僕と機内のみで共有できる。
盗み聞き対策としては上出来だし、今では色々な企業や軍事などに利用されているシステムだ。
僕がこんな状況にあっているのは今からおよそ三時間前、先の通り研究施設に保管していた実験動物(通称・超生物)が脱走したからだ。
脱走、と言うからには無理矢理にでも脱け出したのかと思われるかもしれないが、実は奴らは“普通に出た”だけなのである。
何者かが外部からハッキングしたことにより、施設内のシステムの作動権を奪われてしまい、奴らを収容していたSPcube(所謂カプセル型の牢屋だ)の出口扉を開かれてしまったのだ。
“厳重な強化ガラス、厳重な警備体制の下で厳重に管理することができる”
この牢屋を開発した業者はなんて得意気に言っていたが、この状態を見ては自分の言ったことを辱しめる他ないだろう。僕の今の立場としては良い気味だ。
しかし個人の生死に関わるとそんなことも言ってられない。正直今の現状では憤りしか感じられなかった。
八つ当たりにも管理人に対して怒りを漂わせるようにして返信したいところではあるが、人口知能がそれに協力して声音を変えてくれるとは思えない。やむを得ず僕は再び指を動かす。
「『高性能のハッカーでしょうか。いずれにせよ、こちらでは対処のしようがありません。本部からの対策は出来ないのですか?』」
「申し訳無い、現時点では不可能だ。こうして今通話をして現状を把握することが出来ているが、その何者かに管理権を握られている以上はこちらが情報を知るのには限度がある。君はシミュレーションに従って対処任務を行ってくれ」
呆れた上司だ。普通は管理人として現状を察知しサポートするはずの立場なのに、権限を取り返すことも儘ならないのか。
挙げ句、アマチュア向きの緊急戦闘シミュレーションを行っただけの一般研究員の僕に特攻しろと言うのだから、本当に息詰まっているのだろう。
対超生物の訓練を受けた警備員が十人いたはずだが、全メンバーに通信が繋がらない以上、死んだと判断する方が適正だ。
「だからって……」
苛々が募り、思わず声を漏らす。だいたい、対人格闘さえ出来ない僕にどうしろと言うのだ。
唯一の抵抗手段も、手元にある対超生物ボルトガンしかない。これだって、本来は警備員が扱う代物だ。
しかし、ここで長居していても全滅を待つだけだ。
超生物の統一本能は敵と認識したものを早急に殺す。先の僕や僕の同士を駆り立てようとするその姿はまさにそれであった。
つまり、施設内のシステム管理権だけでなく、超生物の支配権までもがあちら側の手中にあると言うわけだ。
超生物は複数の動物を合成、または遺伝子改良を施すことによって生まれる改造生物。
前者の場合、その合成される動物達の本能が入り交じることによって起こる不祥事に備え、我が社『re:nature(通称・リネイチャー)』は【思考制御デバイス】を開発した。
これを超生物の頭部にはめることで、こんがらがった本能を統一し、戦場へと送り込まれる。そもそもの超生物の生産の目的となったのがそれである。
かつて雨島方先と言う生物学者が計画した《絶滅種復元プロジェクト》をリネイチャーが引き継ぐ形となり生まれたもの、それが超生物だ。
第三次世界大戦で国外の非戦闘要員である人民の大量犠牲を代償に勝利した日本は、それまで同盟を結んでいたアメリカと仲違い、ほとんどの国との交流を一度断ち、戦争で得たアジアとその周辺の一部領土の完全支配を目論んだ。
当初は中華人民共和国とのみ対等な関係を落ち着かせ、朝鮮半島、オーストラリアとその周辺、インド、ハワイなどの各地大半の領土を支配下に置いた。
それから数年とたち、雨島方先はプロジェクトの準備を進めたのである。
そして、歴史に残る革命的なこのプロジェクトの初発となったのが、『マンモス』の復元だった。
マンモスはゾウの類縁と言われている一方で、直接的な祖先ではないためDNAなどは異なっているのだが、実験が成功した際に完成した疑似マンモスは鮮新世から更新世の間に存在していたとされる古代動物そのものの姿であった。
その完成度の高さと新時代へと続く確かな道筋を示した技術を評価された雨島方先は、更なるプロジェクト拡大を目的に会社リネイチャーを独自に設立。
それからも度肝を抜かすような研究法を立てては、複数の絶滅種のレプリカを作ることに成功した。
だが人工的に作り出されたもの、ましてや本能が異なっているならば、それは純正の復元ではないじゃないかと言われるかもしれない。
しかし今では現代の生物の本能を古代の生物の本能に似せるどころか、全く同じ本能にすることも可能なのである。
この技術は戦争でも応用されていて、戦場に立つ兵士が事前に受ける治療の医療システムに導入されている。
思考制御デバイスに似たこの【理性的脳内有効操縦】は、睡眠状態の脳にだけ適応され、言葉や音楽を通じて戦場に不要な感覚をいったん長期睡眠状態にかけることで、感情移入の抵抗を事前に除外し、思考の束縛を強めて必要最低限に考えられると言うわけだ。
しかしこのシステムは万能薬ではない。
期間を越えれば不要とされた感覚が目を覚まし、それによって今まで誤魔化していた良心の“いたみ”が原因となって、計り知れないストレスになりかねないだろう。
実際に、自らの家族を幸せにするのに必要な金を得るため戦場へと飛び立った、それこそ良心的な男がある時、作戦まであと少しと言うところで(その時にはもうすでに例の感覚が起床しつつある頃であったが)欲が出たのか、少しでも多く手柄を立てようと撤退命令をはね除けて戦い続けた。
その結果、目を覚ました彼の良心の中の多大なる罪悪感が一気に脳に充満し、突然的なストレスによるショック死と言う悲惨な終わりを遂げたのである。
ちなみにこの話は軍に属する友人に聞いたことだ。実際に戦場でその瞬間を目の当たりにしたと言う。
だからこそ、戦場ではこまめなメンタルケアが必要だ。と友人は言っていた。
人を殺すために。対称に同情しないために。
その理性的脳内有効操縦だが、これをどう超生物に応用するかと言うと、先ほど言った通り一時的に本能に催眠をかけるのである。
思考制御デバイスで統一させた本能をもう一度最初から組み立て直し、理想的な本能に改良する。
そうすることで強化された生物達は戦場に送り出され、無慈悲に敵兵を殺す。
超生物は思考の自由さえ獲得出来ないので、ある程度考えることを許された人間の兵士よりは戦力として扱いやすいのだ。
超生物を操るのは人間が予め設定したプログラムなのである。予定通りに動かされた兵士に情はない。
しかしこの時僕は今さらながらに気付いた。
思考制御デバイスは充電式だ。ケーブルと差し込み口さえあれば永久に機動し続けることだって出来る。ので、研究施設内で保管されている超生物は何もしない限り、脳に信号を送り続ければ24時間眠っていられるのだ。
そりゃまあ、餌を食べなければ餓死するので、定期的に信号を停止して起こさなければならないのだが。
しかしどうだろうか。短時間で多くの電力を消費するシステムが、充電無しで機動し続けたのであれば__________
「うわああああああああ!!!!!」
瞬間だった。
一体の大型超生物が狂ったように雄叫びを上げ、こちらに突撃してきた。
いや実際狂っているのだろう。もう奴は充電の切れた思考制御デバイスの加護を受けていない。
気体の粒子のように散らばった本能が暴れだし、混乱した大柄な体の突進で原型を保っていたSPcudeの壁をところどころ破壊していく。
僕は手元にあった銃を撃ったが、すでにボンクラとなったデバイスにきくはずもない。
悲鳴を上げた僕に奴は恐怖したのか一度ピクリと止まったが、しかしそれは一瞬の間。
奴は後の僕の断末魔のような叫びを受け入れることなく、その大きな顎を開いて上半身を噛み砕いた。
陸上の大半を陣取っていた研究施設からは煙が昇り、各所で炎が燃え上がっている。
半壊寸前の建物の中で、ここの研究員であった僕は“奴ら”を捕獲するための銃を構え、全身を震わせていた。
辺りは硬合金の壁と床、それをホログラムシステムが白で覆っていて、鉄特有の臭みを消している。
幸いここは“奴ら”を隔離するための特別な場所であり、炎の耐性が強いこともあって、このような部屋は傷はついていても、他の部屋のように半壊ほどもしていなかった。
僕は左手首につけてある腕時計のような形をした機械のタッチパネルを人差し指でとんと叩くと、指紋認証が完了したと言う知らせのサインが現れ、パネル上から光が発生し、そこから続くようにして目の前に画面が現れる。
画面上から次々と浮き出てくるアイコンの中から、昔存在していたらしい『電話(正式名は知らない。電話に似たものは今でも存在しているが、今ではそう呼ばれることはほとんどなく、僕の知識上ではこう形容するしかない。とゆうより、正式名があるのかどうかと言う話だが)』の受話器と言う部分の形をしたアイコンをタッチした。
そこから連絡先を選んで通信を行おうとしたが、先にあちらから通信の知らせが入ってきた。
僕が連絡しようとしたのは、ここやここ以外の研究施設を取り仕切る本部である。
僕は通信許可のボタンをワンタッチすると、画面上に僕よりも若そうな柔和な顔立ちの男が見えた。
見覚えがある顔で、すぐにここ第十五研究所の内部システムの全体管理に携わっている者だと分かった。
彼はその穏やかな顔とは裏腹に、やや強張った口調で僕に話しかける。
「こちらre:nature本部。第十五研究所の施設管理全体を何者かにのっとられた。現在の状況をあなたの口よりお聞きしたい。これはどういう事だ」
これは可笑しな質問だ、と僕は思った。
現代の厳格を極める徹底された情報管理社会の下、上層部の人間、ましてや施設管理の担当人であれば、とうにこちら側の状況を把握しても不思議ではないはずだ。
研究員の一人が朝方デスクで研究結果の報告書をまとめていただとか、昼食にベーコンクリームパスタを食べていただとか、ブレイクタイムで飲んだコーヒーのブランドはアロリバだったとか、挙げ句の果てには研究員の中の二人が当日着た服の柄がお揃いだったとか、そんなものまで管理され、把握されるようになった今の時代。
息苦しいと子供時代に感じたことがあったが、それがあるお陰で僕らの安全は保証され、何事もなく一日を過ごせるのだから、それに越したことはない。
しかしまあ、今の状況に至っては、そんな能天気なことも言ってられない。
僕は通信画面の下部分を前にスライドさせ、言語キーボードを表示させると、素早い手つきでそれを打ち、メッセージを入力して本部に伝達する。
そのメッセージが僕の声を真似た人工知能によって発言され、本部にいる彼らに届くのだ。
「『SPcubeより大量の超生物が脱走しました。もう既に何体かは研究所の外に出ていると思われます。緊急時の全システムのシャットダウンを試みましたが、権限を奪われました。部屋のほとんどが燃え上がっている上、散らついた超生物がいるため、施設内からの脱出は困難なものです。私はcube内で待機していますが、メンバーの生死は不明。一時間ほど前に全メンバーに連絡を入れましたが、誰一人として応答しません』」
「何、超生物が脱走しただと」
そんなことまで知らないのか。僕はほとほと呆れた。
無論あちらから発せられる音声は僕にしか聞きとることが出来ない。
入力された音声がネットワークを通って、届いた機種本体から発せられると言うシステムは、今ではずいぶんと古めかしい。
現在普及してるものと言えば、まあ上記で言ったようなシステムと少し似ており、機種本体から発せられる微量の超音波を聴覚器官が直接的に受け取ることで、その瞬間から言葉のメロディーを僕と機内のみで共有できる。
盗み聞き対策としては上出来だし、今では色々な企業や軍事などに利用されているシステムだ。
僕がこんな状況にあっているのは今からおよそ三時間前、先の通り研究施設に保管していた実験動物(通称・超生物)が脱走したからだ。
脱走、と言うからには無理矢理にでも脱け出したのかと思われるかもしれないが、実は奴らは“普通に出た”だけなのである。
何者かが外部からハッキングしたことにより、施設内のシステムの作動権を奪われてしまい、奴らを収容していたSPcube(所謂カプセル型の牢屋だ)の出口扉を開かれてしまったのだ。
“厳重な強化ガラス、厳重な警備体制の下で厳重に管理することができる”
この牢屋を開発した業者はなんて得意気に言っていたが、この状態を見ては自分の言ったことを辱しめる他ないだろう。僕の今の立場としては良い気味だ。
しかし個人の生死に関わるとそんなことも言ってられない。正直今の現状では憤りしか感じられなかった。
八つ当たりにも管理人に対して怒りを漂わせるようにして返信したいところではあるが、人口知能がそれに協力して声音を変えてくれるとは思えない。やむを得ず僕は再び指を動かす。
「『高性能のハッカーでしょうか。いずれにせよ、こちらでは対処のしようがありません。本部からの対策は出来ないのですか?』」
「申し訳無い、現時点では不可能だ。こうして今通話をして現状を把握することが出来ているが、その何者かに管理権を握られている以上はこちらが情報を知るのには限度がある。君はシミュレーションに従って対処任務を行ってくれ」
呆れた上司だ。普通は管理人として現状を察知しサポートするはずの立場なのに、権限を取り返すことも儘ならないのか。
挙げ句、アマチュア向きの緊急戦闘シミュレーションを行っただけの一般研究員の僕に特攻しろと言うのだから、本当に息詰まっているのだろう。
対超生物の訓練を受けた警備員が十人いたはずだが、全メンバーに通信が繋がらない以上、死んだと判断する方が適正だ。
「だからって……」
苛々が募り、思わず声を漏らす。だいたい、対人格闘さえ出来ない僕にどうしろと言うのだ。
唯一の抵抗手段も、手元にある対超生物ボルトガンしかない。これだって、本来は警備員が扱う代物だ。
しかし、ここで長居していても全滅を待つだけだ。
超生物の統一本能は敵と認識したものを早急に殺す。先の僕や僕の同士を駆り立てようとするその姿はまさにそれであった。
つまり、施設内のシステム管理権だけでなく、超生物の支配権までもがあちら側の手中にあると言うわけだ。
超生物は複数の動物を合成、または遺伝子改良を施すことによって生まれる改造生物。
前者の場合、その合成される動物達の本能が入り交じることによって起こる不祥事に備え、我が社『re:nature(通称・リネイチャー)』は【思考制御デバイス】を開発した。
これを超生物の頭部にはめることで、こんがらがった本能を統一し、戦場へと送り込まれる。そもそもの超生物の生産の目的となったのがそれである。
かつて雨島方先と言う生物学者が計画した《絶滅種復元プロジェクト》をリネイチャーが引き継ぐ形となり生まれたもの、それが超生物だ。
第三次世界大戦で国外の非戦闘要員である人民の大量犠牲を代償に勝利した日本は、それまで同盟を結んでいたアメリカと仲違い、ほとんどの国との交流を一度断ち、戦争で得たアジアとその周辺の一部領土の完全支配を目論んだ。
当初は中華人民共和国とのみ対等な関係を落ち着かせ、朝鮮半島、オーストラリアとその周辺、インド、ハワイなどの各地大半の領土を支配下に置いた。
それから数年とたち、雨島方先はプロジェクトの準備を進めたのである。
そして、歴史に残る革命的なこのプロジェクトの初発となったのが、『マンモス』の復元だった。
マンモスはゾウの類縁と言われている一方で、直接的な祖先ではないためDNAなどは異なっているのだが、実験が成功した際に完成した疑似マンモスは鮮新世から更新世の間に存在していたとされる古代動物そのものの姿であった。
その完成度の高さと新時代へと続く確かな道筋を示した技術を評価された雨島方先は、更なるプロジェクト拡大を目的に会社リネイチャーを独自に設立。
それからも度肝を抜かすような研究法を立てては、複数の絶滅種のレプリカを作ることに成功した。
だが人工的に作り出されたもの、ましてや本能が異なっているならば、それは純正の復元ではないじゃないかと言われるかもしれない。
しかし今では現代の生物の本能を古代の生物の本能に似せるどころか、全く同じ本能にすることも可能なのである。
この技術は戦争でも応用されていて、戦場に立つ兵士が事前に受ける治療の医療システムに導入されている。
思考制御デバイスに似たこの【理性的脳内有効操縦】は、睡眠状態の脳にだけ適応され、言葉や音楽を通じて戦場に不要な感覚をいったん長期睡眠状態にかけることで、感情移入の抵抗を事前に除外し、思考の束縛を強めて必要最低限に考えられると言うわけだ。
しかしこのシステムは万能薬ではない。
期間を越えれば不要とされた感覚が目を覚まし、それによって今まで誤魔化していた良心の“いたみ”が原因となって、計り知れないストレスになりかねないだろう。
実際に、自らの家族を幸せにするのに必要な金を得るため戦場へと飛び立った、それこそ良心的な男がある時、作戦まであと少しと言うところで(その時にはもうすでに例の感覚が起床しつつある頃であったが)欲が出たのか、少しでも多く手柄を立てようと撤退命令をはね除けて戦い続けた。
その結果、目を覚ました彼の良心の中の多大なる罪悪感が一気に脳に充満し、突然的なストレスによるショック死と言う悲惨な終わりを遂げたのである。
ちなみにこの話は軍に属する友人に聞いたことだ。実際に戦場でその瞬間を目の当たりにしたと言う。
だからこそ、戦場ではこまめなメンタルケアが必要だ。と友人は言っていた。
人を殺すために。対称に同情しないために。
その理性的脳内有効操縦だが、これをどう超生物に応用するかと言うと、先ほど言った通り一時的に本能に催眠をかけるのである。
思考制御デバイスで統一させた本能をもう一度最初から組み立て直し、理想的な本能に改良する。
そうすることで強化された生物達は戦場に送り出され、無慈悲に敵兵を殺す。
超生物は思考の自由さえ獲得出来ないので、ある程度考えることを許された人間の兵士よりは戦力として扱いやすいのだ。
超生物を操るのは人間が予め設定したプログラムなのである。予定通りに動かされた兵士に情はない。
しかしこの時僕は今さらながらに気付いた。
思考制御デバイスは充電式だ。ケーブルと差し込み口さえあれば永久に機動し続けることだって出来る。ので、研究施設内で保管されている超生物は何もしない限り、脳に信号を送り続ければ24時間眠っていられるのだ。
そりゃまあ、餌を食べなければ餓死するので、定期的に信号を停止して起こさなければならないのだが。
しかしどうだろうか。短時間で多くの電力を消費するシステムが、充電無しで機動し続けたのであれば__________
「うわああああああああ!!!!!」
瞬間だった。
一体の大型超生物が狂ったように雄叫びを上げ、こちらに突撃してきた。
いや実際狂っているのだろう。もう奴は充電の切れた思考制御デバイスの加護を受けていない。
気体の粒子のように散らばった本能が暴れだし、混乱した大柄な体の突進で原型を保っていたSPcudeの壁をところどころ破壊していく。
僕は手元にあった銃を撃ったが、すでにボンクラとなったデバイスにきくはずもない。
悲鳴を上げた僕に奴は恐怖したのか一度ピクリと止まったが、しかしそれは一瞬の間。
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