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学舎編 一
瀬河岸の素性
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雷蔵は重い足をなんとか動かし、瀬河岸と共に高い柳の木の下まで歩いて戻った。その途中、瀬河岸が雷蔵の足取りが重い事を指摘し、負傷をしているのかと心配するので、この領域にある石像の呪いを受けた事を話した。すると瀬河岸は雷蔵の足を見て少し考えると、雷蔵達が通ってきた道の先、まだ足を踏み入れていない通りを指差し「歩くか」と提案した。ナジュに会話内容が聴こえない辺りまで移動すればよいと考えていた雷蔵は、重い足を引き摺るように歩くのを億劫に思ったが、久しぶりの再会の上、泥座の領域に自分より長く居る瀬河岸の言う事を聞いておくかと、静かに首肯して二人で歩き出した。
「改めて久しぶりだな、雷蔵」
「ああ、数年振り……になるか?話し方が変わってて驚いた」
「はは、あれは魚売りの気風いい兄ちゃんとして泥座の領域にとけこむ為のものだよ。こちらの事情を知っている相手には、取り繕う必要がないから普通に話す。……でも、魚売りの早綱やってる方が、雷座配下で間者の瀬河岸やってる時より性に合ってる気がしてさ……屋敷に帰ったら早綱口調に変えようかな、なんて」
そう言うと瀬河岸は人好きのする笑みを雷蔵に向けた。屋敷に居た頃は、見た事がない緩んだ笑みだった。雷座金竜の配下、瀬河岸は、数年前より泥座の領域に行商人として潜入している間者で、雷蔵と同じく屋敷や主様の警護を任されていた。雷蔵の知る限り、朗らかに笑ったり、相手との距離を詰めるような軽快に話したりはしない、どちらかと言うと落ち着いた雰囲気の人物であった。潜入のため作り出した偽りの身分が元の人格を侵食しているのか、それともいつ癇癪を起こすとも知れぬ金竜の元から離れた事で気が緩んだのか、雷蔵は久方振りに会う同僚の軽口に困った様な笑みと「悪くねぇ」との言葉を返した。
「それにしても、まさかこんな所で屋敷の奴と再会するとは。あの道を通るのがちょっと早かったり遅れたりしたら、会う事もなかっただろうな」
「ははっ、雷蔵……学舎の日々が思ったよりも緩いのか、随分気の抜けた事を言うな。別に偶然じゃないぞ、こうして顔を合わせているのは」
瀬河岸は、魚売りの早綱の顔から間者の顔へと一変する。
「まさか、俺達が来るのを知っていたのか?」
「最初から知らされていたか?という意味なら、違うな。これでも天界一の神様から間者の役目を任されているんだ。この領域内で見聞きした事、学舎の事情、動いて掴んだ話を色々と考慮すれば、お前達神様候補が鷺鶴と共に泥座の領域にやってくる事は推測できる。その日は恐らく今日だろうと思って、この辺りで魚を売り歩いていたんだよ。それに、近くで地面を粉々にする騒ぎを起こしただろう?この領域ではそんなこと、滅多に起こらない。石像が鷺鶴によって占領されているって話も聞いたしな」
「……そこまでよく調べたもんだ」
雷蔵は素直に同僚の働きに感服した。
「ははっ、あまり見縊ってくれるなよ?今日再会すると読んで、雷蔵が知りたがっている情報を持って来たからな。まずはそうだな…………学舎の師、鷺鶴の素性なんてどうだ?」
「改めて久しぶりだな、雷蔵」
「ああ、数年振り……になるか?話し方が変わってて驚いた」
「はは、あれは魚売りの気風いい兄ちゃんとして泥座の領域にとけこむ為のものだよ。こちらの事情を知っている相手には、取り繕う必要がないから普通に話す。……でも、魚売りの早綱やってる方が、雷座配下で間者の瀬河岸やってる時より性に合ってる気がしてさ……屋敷に帰ったら早綱口調に変えようかな、なんて」
そう言うと瀬河岸は人好きのする笑みを雷蔵に向けた。屋敷に居た頃は、見た事がない緩んだ笑みだった。雷座金竜の配下、瀬河岸は、数年前より泥座の領域に行商人として潜入している間者で、雷蔵と同じく屋敷や主様の警護を任されていた。雷蔵の知る限り、朗らかに笑ったり、相手との距離を詰めるような軽快に話したりはしない、どちらかと言うと落ち着いた雰囲気の人物であった。潜入のため作り出した偽りの身分が元の人格を侵食しているのか、それともいつ癇癪を起こすとも知れぬ金竜の元から離れた事で気が緩んだのか、雷蔵は久方振りに会う同僚の軽口に困った様な笑みと「悪くねぇ」との言葉を返した。
「それにしても、まさかこんな所で屋敷の奴と再会するとは。あの道を通るのがちょっと早かったり遅れたりしたら、会う事もなかっただろうな」
「ははっ、雷蔵……学舎の日々が思ったよりも緩いのか、随分気の抜けた事を言うな。別に偶然じゃないぞ、こうして顔を合わせているのは」
瀬河岸は、魚売りの早綱の顔から間者の顔へと一変する。
「まさか、俺達が来るのを知っていたのか?」
「最初から知らされていたか?という意味なら、違うな。これでも天界一の神様から間者の役目を任されているんだ。この領域内で見聞きした事、学舎の事情、動いて掴んだ話を色々と考慮すれば、お前達神様候補が鷺鶴と共に泥座の領域にやってくる事は推測できる。その日は恐らく今日だろうと思って、この辺りで魚を売り歩いていたんだよ。それに、近くで地面を粉々にする騒ぎを起こしただろう?この領域ではそんなこと、滅多に起こらない。石像が鷺鶴によって占領されているって話も聞いたしな」
「……そこまでよく調べたもんだ」
雷蔵は素直に同僚の働きに感服した。
「ははっ、あまり見縊ってくれるなよ?今日再会すると読んで、雷蔵が知りたがっている情報を持って来たからな。まずはそうだな…………学舎の師、鷺鶴の素性なんてどうだ?」
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------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
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