127柱目の人柱

ど三一

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金竜行脚編

泥座結界に入る方法

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町に住む人々は、一瞬、巨大な影に覆われて反射的に空を見上げた。しかし、すでに影の主の姿はなく、近くの人々と今のは一体何だったろうねと話し合い、それからそれぞれの営みに戻っていく。だが、泥座に潜入している間者は、瞬きの間の異変に対し、その正体を探るべく動き出していた。魚を売っていた雷座の間者 瀬河岸せがしは、早速予定外のことが起きていると察して行司丸に同情した。

(きっと、あの赤い鳥の背中には主様が乗っているんだろうな。この場所で間者と露見しないよう緊張しながら生活するのも大変だが、屋敷も屋敷でまあ波瀾万丈ときたもんだ)
「兄ちゃん、魚頼めるかい?」
「はいよっ!いつもご贔屓にどうも」

朱鴉が向かった方向、泥座の屋敷がある森を眺めていると常連客から声がかかり、直ぐ様気のいい魚売りの顔に戻ったのだった。一方泥座屋敷の結界の頂点では大怪鳥が悠然と空を舞っていた。

「金竜様、この真下に見える屋敷が泥座の住処でございます」
「あれか……かなり年季が入っているようだ」
「神様が住んでいるのに、瓦が所々ないし、色褪せて……全然豪華じゃ無いんですね。うちの屋敷なんてもう目を瞑ってしまう程に輝いて、御伽話に出てくる海の中のお屋敷みたいで、色合いも凄いのに……」

瓜音は、初めて雷座の領域に足を踏み入れた日、観光がてら神様の屋敷でも覗いておくかと思い、町の人々にその場所を尋ねた。すると皆一様にある方角を指差し、見たらわかると曖昧な案内をした。詳しい道を聞いても、一目瞭然だからと笑って去って行く。赤の他人でも話しかければ気さくに対応する性格が多い町人だが、どこか大雑把。町を彷徨いている厳しい男に尋ねても同じ答え。揶揄われているのだろうか?と考えつつ、毎日開催している祭りに遭遇し、横を通る神輿を見上げていると、視界の中に黄金色を基調に鮮やかな色で彩られた城のような建物を発見した。この領域で一番偉い存在が住まう場所として、そこ以外ありえないといった様相の雷座屋敷。瓜音が泥座屋敷を見て地味に思うのも仕方ない。

「ふふ……どちらにも趣があり、金竜様のお屋敷は天界一華やかで賑やかな領域の主として相応しく、泥座屋敷も分相応を弁え、慎ましやかで良いと思いますよ……」
「それじゃあ、蓮中殿に俺が来た事を伝えるとするか。お前達、少し離れていろ」

金竜がふわりと浮かぶと、朱鴉は数度大きく羽ばたいて池の真上に移動した。泥座の屋敷を守る門番は、既に上空の異常を察知しており、屋敷中に朱鴉の飛来を知らせている。だが、巨大な鳥の背に乗る金竜の姿は見えなかったようで、朱鴉が移動した後、宙に浮かぶ男の姿を目を細めて観察し、やっとその正体に気付く。

「結界を壊さないように手加減してやらなきゃな。蓮中殿が驚いて泥座を落っことすかもしれねぇし」

金竜は右手を掲げて人差し指以外の指を折る。すると天を示す指先が小さな雷を纏い、バチッバチッと短く鳴き始める。金竜は門番と視線を絡ませて口端を吊り上げ、一応呼び掛けてやる。

「俺が来たぞ!蓮中殿!」

立てていた人差し指を素早く下ろす。すると辺りが一瞬にして眩い光に包まれ、泥座屋敷の結界の頂点に天から雷が降った。恐ろしい雷鳴の音、結界が悲鳴を上げる音、二つが同時に聴こえて、瓜音は朱鴉の羽に身を伏せて、目を強く閉じた。結界に落ちた雷鳴は泥座中に轟き、町人達は雲一つない空を見上げる。

「蓮中殿ー!居るかー?」

門番は雷を落とした後に屋敷内に戻ったようで姿がない。屋敷の縁側を忙しく駆ける使用人、配下らしき姿はあるが、肝心の蓮中が出てこない。

「しかたない、もう一度雷を落としてみるか。先ほどは少し弱すぎたか」

人差し指を再び立てて雷を纏わせたところで、屋敷の門から門番に支えられた者が出てきた。その者は金竜に向かって手を掲げると、結界の頂点の部分が朱鴉が通れるほどに開いた。

「久しぶりだなー!蓮中殿!」

金竜が大声で呼び掛けると、顔色の悪い蓮中は門番の支えを振り払って一人で立ち、金竜一行に対し、こちらに来るようにという合図を送った。
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