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御殿編
御簾の内外
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唐突にナジュの意識が戻る。
(……)
ナジュは暗闇にいた。
最後に見た景色は暗闇だったから、その延長線上に居るとぼんやり思った。
(……?)
しかしふと思う、自分は死んだ筈だ。
なぜ意識があるのだろう?
(……………?)
自身が死ぬまでを覚えていた彼は、目を覚ましたという感覚がある事にまず驚いた。それから、あれ程の地獄の苦痛が嘘の様に消えている事にも。
「……っ」
ナジュは手を動かしてみる。次に腕、足、足の指。身体が動く、そう判断した。でも何故?ナジュは疑問を解消する為、瞼を開けた。
「…」
ナジュの目の前には、彼が生まれてから見たこともない、豪華な壁画が描かれた天井があった。天に昇る龍と、地に落ちる龍が円を描き、その間にある鏡がナジュの姿を映し出していた。鏡の中のナジュが己の姿を見て目を見開いた。
ーーー身体が、焼けていない?
何も身に纏っていない、しかしそれが身体の異常を認識させる。焼け爛れていなければ辻褄が合わないのだ。異常が無いことが異常であった。
「……」
ナジュは口を開いて、どうして、と言葉を発しそうになったが、頭の方より視界に現れた扇子が、ナジュの口を閉じさせた。
「!?」
「…」
見上げると、頭に貴族の様な被り物をして、顔に一枚の白布が下がっている、身なりのいい何物かが扇子をナジュに当てていた。
ナジュは飛び起きた。
怪し気な人物の目下で、無防備に晒していた己の裸体を、隠す様に抱き締めて後退る。後退した先には御簾が降りていて、背中が御簾にぶつかった。
「…」
警戒するナジュは、怪しい人物から離れようと御簾を潜ろうとした。しかし、御簾はナジュの指を通さず、ガリガリと表面を何度も撫でるばかりとなった。動揺するナジュの様子を見かねた怪しい人物は、白魚の様な美しい手でナジュを指差す。
「…畏まりました」
何処からか言葉が聞こえたかと思うと、怪人物とナジュの間の御簾の向こうに、何物かの姿が薄らと見えた。ナジュは言葉の主はそちらかと、更に警戒し隅で身を抱く。
「…」
「哀れな人の子よ、怯えずとも良い。こちらへ来やれ」
御簾の向こうの存在が、ナジュに語りかける。ナジュは御簾の内外に居るどちらにも警戒の視線を向ける。
「…」
「私の言葉を侍従である御蔭が、代わりに発している」
ナジュは御簾の向こうを見る。話しているのはそちらの者、という事は信じるならば御簾の外が御蔭という人物、そして御簾の中に居るこの人物は御蔭という者より上の立場のもの。ナジュは目の前の白布の人物を睨む。
「…」
「いやはや、何と臆病か。愛らしく威嚇しておる。どれ、湯殿で怯えの氷を溶かしてやろう」
ナジュは臆病と評されて反抗心を抱いたが、実際怪しい人物から距離を取り、身を守ろうとしている。御簾の中ばかり警戒して、背後がガラ空きだった。
「主様の命だ。特別に湯殿での入浴の許可を下さった」
「…っ!?」
御蔭が御簾を捲り、ナジュの裸体をその逞しい腕で抱き上げた。ナジュは抵抗しようと、その腕に爪を立て強く押したが、御蔭は気にする様子無く、湯殿に向かって先導する。後ろからは、主様と呼ばれた怪人物が後をついてきていた。
(……)
ナジュは暗闇にいた。
最後に見た景色は暗闇だったから、その延長線上に居るとぼんやり思った。
(……?)
しかしふと思う、自分は死んだ筈だ。
なぜ意識があるのだろう?
(……………?)
自身が死ぬまでを覚えていた彼は、目を覚ましたという感覚がある事にまず驚いた。それから、あれ程の地獄の苦痛が嘘の様に消えている事にも。
「……っ」
ナジュは手を動かしてみる。次に腕、足、足の指。身体が動く、そう判断した。でも何故?ナジュは疑問を解消する為、瞼を開けた。
「…」
ナジュの目の前には、彼が生まれてから見たこともない、豪華な壁画が描かれた天井があった。天に昇る龍と、地に落ちる龍が円を描き、その間にある鏡がナジュの姿を映し出していた。鏡の中のナジュが己の姿を見て目を見開いた。
ーーー身体が、焼けていない?
何も身に纏っていない、しかしそれが身体の異常を認識させる。焼け爛れていなければ辻褄が合わないのだ。異常が無いことが異常であった。
「……」
ナジュは口を開いて、どうして、と言葉を発しそうになったが、頭の方より視界に現れた扇子が、ナジュの口を閉じさせた。
「!?」
「…」
見上げると、頭に貴族の様な被り物をして、顔に一枚の白布が下がっている、身なりのいい何物かが扇子をナジュに当てていた。
ナジュは飛び起きた。
怪し気な人物の目下で、無防備に晒していた己の裸体を、隠す様に抱き締めて後退る。後退した先には御簾が降りていて、背中が御簾にぶつかった。
「…」
警戒するナジュは、怪しい人物から離れようと御簾を潜ろうとした。しかし、御簾はナジュの指を通さず、ガリガリと表面を何度も撫でるばかりとなった。動揺するナジュの様子を見かねた怪しい人物は、白魚の様な美しい手でナジュを指差す。
「…畏まりました」
何処からか言葉が聞こえたかと思うと、怪人物とナジュの間の御簾の向こうに、何物かの姿が薄らと見えた。ナジュは言葉の主はそちらかと、更に警戒し隅で身を抱く。
「…」
「哀れな人の子よ、怯えずとも良い。こちらへ来やれ」
御簾の向こうの存在が、ナジュに語りかける。ナジュは御簾の内外に居るどちらにも警戒の視線を向ける。
「…」
「私の言葉を侍従である御蔭が、代わりに発している」
ナジュは御簾の向こうを見る。話しているのはそちらの者、という事は信じるならば御簾の外が御蔭という人物、そして御簾の中に居るこの人物は御蔭という者より上の立場のもの。ナジュは目の前の白布の人物を睨む。
「…」
「いやはや、何と臆病か。愛らしく威嚇しておる。どれ、湯殿で怯えの氷を溶かしてやろう」
ナジュは臆病と評されて反抗心を抱いたが、実際怪しい人物から距離を取り、身を守ろうとしている。御簾の中ばかり警戒して、背後がガラ空きだった。
「主様の命だ。特別に湯殿での入浴の許可を下さった」
「…っ!?」
御蔭が御簾を捲り、ナジュの裸体をその逞しい腕で抱き上げた。ナジュは抵抗しようと、その腕に爪を立て強く押したが、御蔭は気にする様子無く、湯殿に向かって先導する。後ろからは、主様と呼ばれた怪人物が後をついてきていた。
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