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御殿編
琥珀乃
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「そういえば…琥珀乃って小僧みたいな見た目の奴とアンタの言う事を、あの助平野郎も聞いてたが……御手付き様の中でも位とかあるのか…?」
「う~ん…そうだね……公には無いけれど、神様同士の力関係が影響していないとは言えないな…」
江島はうつ伏せになって頬杖を付いた。そしてナジュにもそうしろと布団の上を叩いて合図をする。香炉が江島の側に移動し呼吸がしやすくなった為、ナジュは江島に従いうつ伏せになって両腕を枕代わりにした。
「僕はもろにその力関係の例だけど、琥珀乃さんは違うよ」
「あいつは何なんだ?アンタより偉そうな感じがしたが」
「琥珀乃さんはね、御手付き様という地位を作ったお人だ」
「あの…小僧が…?」
ナジュは琥珀乃の姿を思い出す。夕日に照らされた稲穂のような小金色の髪に、落ち着いた薄墨のような瞳、それに愛らしい顔。手足は細く、弱弱しい。部屋のあちらこちらで盛っていた御手付き様達は、琥珀乃と江島には手を出さなかった。
「見た目は少年だけれどね…数百年から千年程天界に居る古参なんだ」
「!…よ、妖怪か…!?」
「ハハ…僕も流石に正体が何なのかは聞けなかったよ。誰かが宴会の席で聞いてもはぐらかすし、秘密にしておきたいんだろう。彼が僕に良くしてくれるのも、詮索しない性格だったのもあるのかな…?だから、琥珀乃さんの正体はさておき、御手付き様の話の続きをしよう」
江島が次は何処に触れるかと聞いてくる。ナジュは近いからと適当に腕に触れた。
「琥珀乃さんが地位を作る前はね…神様が手を付けた者は、何の見返りも得られず、ただ好きに身体と心を弄ばれ、捨てられる子が多かったんだって。手を付ける度、いちいち側室を増やしていたんじゃ面倒だったんだろう。天界に長く居る琥珀乃さんだ、知人、友人も沢山いて、その子達が酷い扱いを受けているのが許せなかったんだろう。そんな現状に憤りを覚えた琥珀乃さんは、以前から関係があった神様の中で、特に琥珀乃さんへの寵愛が深くて力のある神様に進言したんだ」
「何て…?」
「神様が気まぐれで手を付けた者達は、一時でもその心と身体をお慰めした忠臣である。一時でも地位と褒美をお与えくださいってね」
「…そりゃあ立派だが…神様は別に下々の言う事なんか聞く必要ないんだろう?」
「ああ、そうだよ。でも琥珀乃さんは、渋る神様に”ならばこれまで。この琥珀の心は対岸に渡り、貴方様の元には二度と訪れません”と言って帰ろうとしたんだ。慌てた神様は次の会合で提案する事を約束する、と言ったんだけど、琥珀乃さんはそれじゃ駄目だって言って。次の会合で特別な地位を作らなきゃこの天界から消えて、下界で伴侶を見つけて仲睦まじく暮らし、その幸せな様子を文に認めて送りつけてやる、と脅迫してね」
「……とんでもねえ小僧だな。惚れた弱みを利用して」
「今の僕らがあるのはそのおかげさ。それで神様は根回しに走って、次の会合で新たな決まりが出来たのさ。一度でも手を付けたならば、御手付き様として地位を与え、相応しい扱いをして褒美を取らせること。その地位が剥奪されるのは、半年以上神様の渡りが無かったとき。一度の渡りに付き、贈り物を一つを用意する事…とね」
ナジュは股右衛門の、抱かれる度に贈り物が増えていくという言葉を思い出した。
「神様の力が上位なのもだけど、皆が琥珀乃さんを敬う一番の理由は、その功績ゆえだ。それでも悲しむ者は後を絶たないが、マシにした事は確かだ。昔は女性の御手付き様が多かったけれど、最近では僕らの様なのも増えて、こうして宴会を開くまでになった」
「……そんなお優しい琥珀乃だが、宴会部屋では楽しんでたよな?俺が囲まれて痴態を晒すのを見て」
「彼も大助平者の屋敷川君には及ばないけど、そういった事が嫌いじゃないからね。琥珀乃さんは…小助平くらいかな?」
「助平小僧……」
「一応、琥珀乃さんを小僧って呼ぶのは止めておきなさいね。屋敷川君みたいに怒られちゃうから」
江島は香炉に線香を足す。今度は爽やかな香りのようだ。
「次は僕の話かな…」
「う~ん…そうだね……公には無いけれど、神様同士の力関係が影響していないとは言えないな…」
江島はうつ伏せになって頬杖を付いた。そしてナジュにもそうしろと布団の上を叩いて合図をする。香炉が江島の側に移動し呼吸がしやすくなった為、ナジュは江島に従いうつ伏せになって両腕を枕代わりにした。
「僕はもろにその力関係の例だけど、琥珀乃さんは違うよ」
「あいつは何なんだ?アンタより偉そうな感じがしたが」
「琥珀乃さんはね、御手付き様という地位を作ったお人だ」
「あの…小僧が…?」
ナジュは琥珀乃の姿を思い出す。夕日に照らされた稲穂のような小金色の髪に、落ち着いた薄墨のような瞳、それに愛らしい顔。手足は細く、弱弱しい。部屋のあちらこちらで盛っていた御手付き様達は、琥珀乃と江島には手を出さなかった。
「見た目は少年だけれどね…数百年から千年程天界に居る古参なんだ」
「!…よ、妖怪か…!?」
「ハハ…僕も流石に正体が何なのかは聞けなかったよ。誰かが宴会の席で聞いてもはぐらかすし、秘密にしておきたいんだろう。彼が僕に良くしてくれるのも、詮索しない性格だったのもあるのかな…?だから、琥珀乃さんの正体はさておき、御手付き様の話の続きをしよう」
江島が次は何処に触れるかと聞いてくる。ナジュは近いからと適当に腕に触れた。
「琥珀乃さんが地位を作る前はね…神様が手を付けた者は、何の見返りも得られず、ただ好きに身体と心を弄ばれ、捨てられる子が多かったんだって。手を付ける度、いちいち側室を増やしていたんじゃ面倒だったんだろう。天界に長く居る琥珀乃さんだ、知人、友人も沢山いて、その子達が酷い扱いを受けているのが許せなかったんだろう。そんな現状に憤りを覚えた琥珀乃さんは、以前から関係があった神様の中で、特に琥珀乃さんへの寵愛が深くて力のある神様に進言したんだ」
「何て…?」
「神様が気まぐれで手を付けた者達は、一時でもその心と身体をお慰めした忠臣である。一時でも地位と褒美をお与えくださいってね」
「…そりゃあ立派だが…神様は別に下々の言う事なんか聞く必要ないんだろう?」
「ああ、そうだよ。でも琥珀乃さんは、渋る神様に”ならばこれまで。この琥珀の心は対岸に渡り、貴方様の元には二度と訪れません”と言って帰ろうとしたんだ。慌てた神様は次の会合で提案する事を約束する、と言ったんだけど、琥珀乃さんはそれじゃ駄目だって言って。次の会合で特別な地位を作らなきゃこの天界から消えて、下界で伴侶を見つけて仲睦まじく暮らし、その幸せな様子を文に認めて送りつけてやる、と脅迫してね」
「……とんでもねえ小僧だな。惚れた弱みを利用して」
「今の僕らがあるのはそのおかげさ。それで神様は根回しに走って、次の会合で新たな決まりが出来たのさ。一度でも手を付けたならば、御手付き様として地位を与え、相応しい扱いをして褒美を取らせること。その地位が剥奪されるのは、半年以上神様の渡りが無かったとき。一度の渡りに付き、贈り物を一つを用意する事…とね」
ナジュは股右衛門の、抱かれる度に贈り物が増えていくという言葉を思い出した。
「神様の力が上位なのもだけど、皆が琥珀乃さんを敬う一番の理由は、その功績ゆえだ。それでも悲しむ者は後を絶たないが、マシにした事は確かだ。昔は女性の御手付き様が多かったけれど、最近では僕らの様なのも増えて、こうして宴会を開くまでになった」
「……そんなお優しい琥珀乃だが、宴会部屋では楽しんでたよな?俺が囲まれて痴態を晒すのを見て」
「彼も大助平者の屋敷川君には及ばないけど、そういった事が嫌いじゃないからね。琥珀乃さんは…小助平くらいかな?」
「助平小僧……」
「一応、琥珀乃さんを小僧って呼ぶのは止めておきなさいね。屋敷川君みたいに怒られちゃうから」
江島は香炉に線香を足す。今度は爽やかな香りのようだ。
「次は僕の話かな…」
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