127柱目の人柱

ど三一

文字の大きさ
48 / 640
御殿編

琥珀乃

しおりを挟む
「そういえば…琥珀乃って小僧みたいな見た目の奴とアンタの言う事を、あの助平野郎も聞いてたが……御手付き様の中でも位とかあるのか…?」
「う~ん…そうだね……公には無いけれど、神様同士の力関係が影響していないとは言えないな…」

江島はうつ伏せになって頬杖を付いた。そしてナジュにもそうしろと布団の上を叩いて合図をする。香炉が江島の側に移動し呼吸がしやすくなった為、ナジュは江島に従いうつ伏せになって両腕を枕代わりにした。

「僕はもろにその力関係の例だけど、琥珀乃さんは違うよ」
「あいつは何なんだ?アンタより偉そうな感じがしたが」
「琥珀乃さんはね、御手付き様という地位を作ったお人だ」
「あの…小僧が…?」

ナジュは琥珀乃の姿を思い出す。夕日に照らされた稲穂のような小金色の髪に、落ち着いた薄墨のような瞳、それに愛らしい顔。手足は細く、弱弱しい。部屋のあちらこちらで盛っていた御手付き様達は、琥珀乃と江島には手を出さなかった。

「見た目は少年だけれどね…数百年から千年程天界に居る古参なんだ」
「!…よ、妖怪か…!?」
「ハハ…僕も流石に正体が何なのかは聞けなかったよ。誰かが宴会の席で聞いてもはぐらかすし、秘密にしておきたいんだろう。彼が僕に良くしてくれるのも、詮索しない性格だったのもあるのかな…?だから、琥珀乃さんの正体はさておき、御手付き様の話の続きをしよう」

江島が次は何処に触れるかと聞いてくる。ナジュは近いからと適当に腕に触れた。

「琥珀乃さんが地位を作る前はね…神様が手を付けた者は、何の見返りも得られず、ただ好きに身体と心を弄ばれ、捨てられる子が多かったんだって。手を付ける度、いちいち側室を増やしていたんじゃ面倒だったんだろう。天界に長く居る琥珀乃さんだ、知人、友人も沢山いて、その子達が酷い扱いを受けているのが許せなかったんだろう。そんな現状に憤りを覚えた琥珀乃さんは、以前から関係があった神様の中で、特に琥珀乃さんへの寵愛が深くて力のある神様に進言したんだ」
「何て…?」
「神様が気まぐれで手を付けた者達は、一時でもその心と身体をお慰めした忠臣である。一時でも地位と褒美をお与えくださいってね」
「…そりゃあ立派だが…神様は別に下々の言う事なんか聞く必要ないんだろう?」
「ああ、そうだよ。でも琥珀乃さんは、渋る神様に”ならばこれまで。この琥珀の心は対岸に渡り、貴方様の元には二度と訪れません”と言って帰ろうとしたんだ。慌てた神様は次の会合で提案する事を約束する、と言ったんだけど、琥珀乃さんはそれじゃ駄目だって言って。次の会合で特別な地位を作らなきゃこの天界から消えて、下界で伴侶を見つけて仲睦まじく暮らし、その幸せな様子を文に認めて送りつけてやる、と脅迫してね」
「……とんでもねえ小僧だな。惚れた弱みを利用して」
「今の僕らがあるのはそのおかげさ。それで神様は根回しに走って、次の会合で新たな決まりが出来たのさ。一度でも手を付けたならば、御手付き様として地位を与え、相応しい扱いをして褒美を取らせること。その地位が剥奪されるのは、半年以上神様の渡りが無かったとき。一度の渡りに付き、贈り物を一つを用意する事…とね」

ナジュは股右衛門の、抱かれる度に贈り物が増えていくという言葉を思い出した。

「神様の力が上位なのもだけど、皆が琥珀乃さんを敬う一番の理由は、その功績ゆえだ。それでも悲しむ者は後を絶たないが、マシにした事は確かだ。昔は女性の御手付き様が多かったけれど、最近では僕らの様なのも増えて、こうして宴会を開くまでになった」
「……そんなお優しい琥珀乃だが、宴会部屋では楽しんでたよな?俺が囲まれて痴態を晒すのを見て」
「彼も大助平者の屋敷川君には及ばないけど、そういった事が嫌いじゃないからね。琥珀乃さんは…小助平くらいかな?」
「助平小僧……」
「一応、琥珀乃さんを小僧って呼ぶのは止めておきなさいね。屋敷川君みたいに怒られちゃうから」

江島は香炉に線香を足す。今度は爽やかな香りのようだ。

「次は僕の話かな…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...