127柱目の人柱

ど三一

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御殿編

君が出した答え

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主様の屋敷に帰ると、ナジュはすぐさま自分に与えられた部屋に閉じこもった。世話をするという股右衛門を遠ざけ、1人きりで夜に控える主様の訪問を待つ。日が落ちるまでそう時間は長くない。この天界は現世とは違う時の流れだが、宵と明けの周期は同じだと股右衛門は話していた。ナジュは部屋の掛け軸をぼんやりと眺め、自分の生前と現在までを思い出せる限りで遡っていた。集落の事、そこに住む人々、生活、恋人、狩人、甥、そして身体を焼かれる熱さ。

(まだ恨みは消えていない…)

主様が言った、憎悪を忘れて生きる穏やかな毎日。この部屋にある素晴らしい調度品に囲まれて、美味い食事に、使用人までついて、左団扇の生活を得られる機会がこの手の中にある。しかし、江島に聞いた御手付き様の実情は、華やかな着物を纏っていても、その下にはいつ寵愛が切れるか不安に過ごす日々が待っているのかもしれないとナジュに思わせた。主様の好きな時に身体を捧げ、見返りとして贈り物を得る。神様に見限られたならば、元の鞘に戻るか贈り物を売って手にした財で、慎ましやかに暮らしている者もいるらしい。きっと御手付き様として暫く暮らしていた方が、命の期限に因る死のないこの世界では賢い選択なのだろう。

(幸せに……)

ナジュは部屋に用意された菓子箱を開けて、その中から粉雪が舞った宝石のような見た目の透き通った菓子を一つ取る。一口小さく齧ってみると、角ばって堅そうな見た目に反し柔らかく割けていく。舌の上に乗ると、品の良い優しい甘みが広がる。

(甘い……)


太陽が沈み、星が巡る夜が来る。御殿にも影が落ちる。主様付の使用人の稲葉は、手に小さな提灯を持って声を張り上げる。

「主様のおなりにございまする!」

その声を遠くに聞きながら、だんだんと足音が近づいてくるのを感じ、ナジュは佇まいを正した。股右衛門に促されるまでもなく、用意された下座の座布団に腰を下ろして、正座にて主様を待つ。

(答えは決まっている……)

失礼いたしまする、と言って稲葉がナジュに与えられた部屋に入ってくる。先頭は稲葉、次に御蔭、そして主様。部屋の薄暗い、明るいに関わらず、白布がその表情を隠す。だからナジュの決心は揺らがない。主様が上座に座ると、御蔭が口火を切る。

「お前の答えを聞かせて貰おう」
「…俺は」
「……」

主様は切ない願いを胸に秘め、ただ沈黙してナジュの答えが己にとって良きものであるように願っていた。
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