127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

”そば”と言えば…

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飯処の席は、長机の手前側から横に向かって来た順に着席し、端まで達したらまた入り口側の端の席奥側から横に座っていくのが基本となっている。ナジュの後にも神様候補達が横に着席していき、二列目の奥側も段々と埋まっていく。何を食べられるのだろうと気にして後ろを振り返って確認していたナジュの正面にも人が座った。

「手下その一じゃないか。何だい?飯が待ち遠しくて仕方ないみたいだね」
「うわぁ…ガンビサマだ」

ナジュは聞き覚えのある声がして体勢を戻すと、いつの間にか正面に雁尾が居た。行儀悪く机に肘をついて、椅子に片足を立てて座っている。激励会の日に催しの中心だった雁尾を覚えている神様候補達も多く、両隣になった者達は恐縮している様子であった。

「今日のお品書きには“そば”って書いてあった。気分的には冷たいのが食べたい所だねえ…」
「冷たいの?珍しいな」
「おや、手下その一は暖かいそばが好きかい?」
「まあ冷めたら冷たいけどよ。でも“そば”は大概煮て食うだろ?」
「そりゃ涼しい季節には温かいそばを食べたくなるよ?でも夏場の暑い最中は食欲が湧かないから、煮たあとに冷水で締めるじゃないか」
「しめる?」
「滑り気をとったり、コシを出したりする為に冷やすんだよ。私は厨房とは無縁だったから詳しくはないがね、そう聞いている」
「う~ん?」

ナジュの脳内には、収穫したそばをどのようにして食べたかの記憶が再生されている。覚えている中では、そばを煮てから態々冷やした記憶は無い。ナジュの様子から、そばに関して認識の違いがあるようだと雁尾は思った。

(そばの実って粥にして食ったり、練って固めて食ったくらいだよな……固めた奴の事か?冷やすっていうか、そのまま置いてただけのような……)
「まあ、涎垂らして待っていなよ。きっとそろそろ来るさ、“そば”」

奥の出入り口から沢山の給仕係が盆を持って入ってきた。盆の上には、大きな器が三つ、漬物が三つ、箸が三膳。二列目の端から順番に提供している。ナジュがそばについて考えている最中、雁尾は右隣りの席に座る神様候補が持って来た、ほうじ茶の入った湯呑を我が物のように扱って喉を潤すと、空いた湯呑を左隣の神様候補に見せて“おかわり”と言った。神様候補は断るわけにもいかずに、渋々茶を汲みに行く。湯呑を奪われた右隣の神様候補も立ち上がり、新しい湯呑を取りに行った。ナジュの右斜め後ろに立った給仕が器を持ちながら声を掛ける。

「お待たせしました、そばでございます」

コト、と机に置かれた器の中身を見て、ナジュは過去の記憶との違いを明確にする。

「そ…ば…?これが…?」
「正真正銘“そば”さ。湯気が出ているから、どうやら温かいのだね」
「ちょっと待ってくれ……そばの実って、主に粥にするよな?煮て練ったりもするが…これも“そば”?」
「私にとっちゃあ、寧ろそれこそが“そば”さ。そばの粥なんて食べた事ないね」

器の中には、数種類の山菜や揚げ、唐辛子が散らされ、その下に細く長く丁寧に切り分けられた温かいそばが入っていた。
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