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学舎編 一
術の探究
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解散の号令の後、大広間にて桃栗と談笑した後に宿舎の自室に帰って日課の勉強に励む。空座の冊子は情報が少なく読み込む必要もない為に文字の勉強をしていると、机に置かれた桃栗の紙が目に入る。【ウタラ】の課題でナジュの元に届いたものだ。それを手に取ったナジュは、筆を置いて少し考える動作をする。
(さっきは大広間の中の範囲だったけど、あれ以上遠くにも送れるのかな?説明してた人は、目的地か人物を思い浮かべればいいって話で…何処までなら飛ばせるとは言ってなかった。一山も二山も越えて紙を飛ばせるなら便利だよなぁ…)
一旦疑問が生まれると、試せるならば試してみたいという気持ちが湧いてくる。大広間で実際に術を使用できた事が、ナジュの若い探究心を刺激しているようだ。この部屋には試す道具も方法もある。材料はすべて揃っている。
(試しに…少し遠くまで飛ばしてみて……徐々に距離を遠くしてみようっ)
屋敷の者に、文字の練習用にと沢山持たせて貰った紙が入っている箱を開けて、一枚紙を手に取り、箱を元に戻す。その紙を机に置いて、端を歪な四角に毟るのを四回繰り返す。出来上がった四つの紙片は親指の爪位の小さいもの。そこに【ウタラ】の天界文字を一枚ずつ記していく。
(まずはどこに飛ばしてみようか……。日は落ちていないから紙はある程度探しやすい。町までだと俺が到着する間に風で飛ばされるか、誰かが拾うかもしれないし…。試すなら学者の敷地の中かな…?)
ナジュは一枚目の紙片に【ウタラ】と記して、自分の飛ばした紙だと分かるようにナジュの"ナ"と"三階反対側"と書く事にした。大広間の端から端よりも宿舎の廊下の方が長いとみたのと、探し易いという点を考慮してそこに決めた。
「んん~~~……【ウタラ】」
きらりと光った紙片がナジュの部屋の戸の隙間を通っていくのを見届けると、鍵を持って廊下に出る。紙片はとっくにナジュの目からは見えなくなる距離まで飛んでいて、ナジュは誰かに拾われる前に辿り着こうと小走りで反対側に向かう。
(思い浮かべたのは三階廊下の突き当たりの壁。術が正しく使えていれば壁際や壁近くの廊下に紙片がある筈だ)
ナジュの部屋とは反対に位置する突き当たりに到着すると、矮小な紙片を探して身を屈める。廊下に居た神様候補は何をしているのだろうと気にしてナジュの居る端を怪しげに見ている。
「あった!"ナ"と"三階反対側"!」
てっきり下に落ちているものと思っていたが、壁の上下を二分しているように見える、描かれた一本の横線上に張り付いていた紙片を剥がして懐に入れる。
(もしかしたら…ある程度の時間内なら紙は張り付いたままなのか?それとも、大広間で使った紙よりかなり小さいから張り付いていられたのか…?確かめたい事が増えて来たな…!)
今日のところは、残り三枚の紙片を使って【ウタラ】で飛ばせる距離と張り付いていられる時間を測ってみる事にした。同階の廊下の次は宿舎の外、学舎の中、学者の敷地の端から端。四枚の紙片全てを試し終わると、ナジュは紙箱から少し上質な紙を取り出して手のひら程の大きさに鋏で切った。
「屋敷まで届くかな……。少しだけ言葉を添えて飛ばしてみよう!宛名は…誰でもいいが……一応…」
ナジュが【ウタラ】と唱えて送り出した紙には、軽く近況を知らせる文章と"ナジュより"の文末。それと、"双メンきふくの君へ"との宛名が記されていた。
(さっきは大広間の中の範囲だったけど、あれ以上遠くにも送れるのかな?説明してた人は、目的地か人物を思い浮かべればいいって話で…何処までなら飛ばせるとは言ってなかった。一山も二山も越えて紙を飛ばせるなら便利だよなぁ…)
一旦疑問が生まれると、試せるならば試してみたいという気持ちが湧いてくる。大広間で実際に術を使用できた事が、ナジュの若い探究心を刺激しているようだ。この部屋には試す道具も方法もある。材料はすべて揃っている。
(試しに…少し遠くまで飛ばしてみて……徐々に距離を遠くしてみようっ)
屋敷の者に、文字の練習用にと沢山持たせて貰った紙が入っている箱を開けて、一枚紙を手に取り、箱を元に戻す。その紙を机に置いて、端を歪な四角に毟るのを四回繰り返す。出来上がった四つの紙片は親指の爪位の小さいもの。そこに【ウタラ】の天界文字を一枚ずつ記していく。
(まずはどこに飛ばしてみようか……。日は落ちていないから紙はある程度探しやすい。町までだと俺が到着する間に風で飛ばされるか、誰かが拾うかもしれないし…。試すなら学者の敷地の中かな…?)
ナジュは一枚目の紙片に【ウタラ】と記して、自分の飛ばした紙だと分かるようにナジュの"ナ"と"三階反対側"と書く事にした。大広間の端から端よりも宿舎の廊下の方が長いとみたのと、探し易いという点を考慮してそこに決めた。
「んん~~~……【ウタラ】」
きらりと光った紙片がナジュの部屋の戸の隙間を通っていくのを見届けると、鍵を持って廊下に出る。紙片はとっくにナジュの目からは見えなくなる距離まで飛んでいて、ナジュは誰かに拾われる前に辿り着こうと小走りで反対側に向かう。
(思い浮かべたのは三階廊下の突き当たりの壁。術が正しく使えていれば壁際や壁近くの廊下に紙片がある筈だ)
ナジュの部屋とは反対に位置する突き当たりに到着すると、矮小な紙片を探して身を屈める。廊下に居た神様候補は何をしているのだろうと気にしてナジュの居る端を怪しげに見ている。
「あった!"ナ"と"三階反対側"!」
てっきり下に落ちているものと思っていたが、壁の上下を二分しているように見える、描かれた一本の横線上に張り付いていた紙片を剥がして懐に入れる。
(もしかしたら…ある程度の時間内なら紙は張り付いたままなのか?それとも、大広間で使った紙よりかなり小さいから張り付いていられたのか…?確かめたい事が増えて来たな…!)
今日のところは、残り三枚の紙片を使って【ウタラ】で飛ばせる距離と張り付いていられる時間を測ってみる事にした。同階の廊下の次は宿舎の外、学舎の中、学者の敷地の端から端。四枚の紙片全てを試し終わると、ナジュは紙箱から少し上質な紙を取り出して手のひら程の大きさに鋏で切った。
「屋敷まで届くかな……。少しだけ言葉を添えて飛ばしてみよう!宛名は…誰でもいいが……一応…」
ナジュが【ウタラ】と唱えて送り出した紙には、軽く近況を知らせる文章と"ナジュより"の文末。それと、"双メンきふくの君へ"との宛名が記されていた。
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