213 / 640
学舎編 一
初めての神業
しおりを挟む
「この大広間の何処か…どこでもって言われると迷うな…。誰でも出来るって話だったが、やってみないことにはな。場所か人物を思い浮かべて…う~ん」
誰の声ともわからない【ウタラ】という言葉が聞こえ、周囲ではもう紙が空を舞っている。すぐそこの床や、大広間の四隅、天井など遠近関係なく目的の場所に紙が到着すると、一瞬張り付いて空中であれば落下する。神様候補の中には大広間に居る友人に向かって紙を飛ばしている者も居るようだ。紙の行先で迷っているナジュの膝にもひらりと紙が舞い落ちて来た。それを手に取って見ると、可愛らしい花や動物の絵が記された紙面に“桃栗”と名があった。ナジュは頭を上げて辺りを確認すると、丁度対角線の位置にある席に桃栗が居て手を振っていた。
「桃栗の紙だ!よし、なら俺も名前を書いて桃栗に送ってみよう…!えーと大広間の向かいの席に居る桃栗を思い浮かべて~……【ウタラ】!」
目にした景色をそのまま頭の中に浮かべながら言葉を唱えた後、紙に記した【ウタラ】の文字が僅かに光ったような気がした。ナジュは目を凝らして文字を見返したが、文字は書いた時のように黒いまま。
「あれ?気のせいか?…んんん……紙が上に引かれて……うおっ!」
人差し指と親指で摘まんでいた紙が、突如上に向かってぐぐぐ…と引っ張られているような感覚がして、挟んでいる指を少し緩めると、ナジュと名前が記された紙は宙に浮いて対角線に居る桃栗の方へ向かって飛んでいく。神様候補達の頭上、紙が飛び交う中を器用に避けて、ナジュの方に身体を向けている桃栗の胸の前で揃えられた手のひらの上にひらりと舞い落ちた。ナジュと大きく記された紙を掲げて、「届いたよ~!」と唇の動きで伝える桃栗。ナジュは初めての術が上手くいって、嬉しそうに手を振りかえした。
「すげえ…!本当に俺の紙が空を飛んだ!」
天界に来て主様の使う不思議な力を目にする機会はあったが、それを自分が使えるとは露ほども思えなかったナジュの喜びはひとしおである。たとえそれが誰にでも使える術だとしても、胸が高鳴りじわじわと喜びが心に沁みて自然と笑顔になる。そんなナジュの様子を目にしていたのは桃栗だけではなかった。学舎の者は、宙に浮かぶ紙の数が少なくなってきた所で手を叩いて注目を自分に集めた。
「皆問題なく出来た事かと思う。それでは今日はこれで解散とする。明日からは通常の講義日程どおりに進んで行くので、準備を怠らぬように。また毎日掲示板か看板を確認しておくこと。それでは解散」
神様候補達の大凡は、解散の言葉を聞いてさっさと大広間を出て行った。残っているのは特に行き先も目的も無い者か、友人と話をしたい者。ナジュは真っ直ぐに桃栗の座る席に向かい、術を使用できた感動を伝える。桃栗に届いた紙を見せると、大きくナジュと名前があり確かに自分の紙だと再認識して破顔する。ナジュが喜んでいる様子を、桃栗は微笑ましそうに何度も頷いて耳を傾けていた。
誰の声ともわからない【ウタラ】という言葉が聞こえ、周囲ではもう紙が空を舞っている。すぐそこの床や、大広間の四隅、天井など遠近関係なく目的の場所に紙が到着すると、一瞬張り付いて空中であれば落下する。神様候補の中には大広間に居る友人に向かって紙を飛ばしている者も居るようだ。紙の行先で迷っているナジュの膝にもひらりと紙が舞い落ちて来た。それを手に取って見ると、可愛らしい花や動物の絵が記された紙面に“桃栗”と名があった。ナジュは頭を上げて辺りを確認すると、丁度対角線の位置にある席に桃栗が居て手を振っていた。
「桃栗の紙だ!よし、なら俺も名前を書いて桃栗に送ってみよう…!えーと大広間の向かいの席に居る桃栗を思い浮かべて~……【ウタラ】!」
目にした景色をそのまま頭の中に浮かべながら言葉を唱えた後、紙に記した【ウタラ】の文字が僅かに光ったような気がした。ナジュは目を凝らして文字を見返したが、文字は書いた時のように黒いまま。
「あれ?気のせいか?…んんん……紙が上に引かれて……うおっ!」
人差し指と親指で摘まんでいた紙が、突如上に向かってぐぐぐ…と引っ張られているような感覚がして、挟んでいる指を少し緩めると、ナジュと名前が記された紙は宙に浮いて対角線に居る桃栗の方へ向かって飛んでいく。神様候補達の頭上、紙が飛び交う中を器用に避けて、ナジュの方に身体を向けている桃栗の胸の前で揃えられた手のひらの上にひらりと舞い落ちた。ナジュと大きく記された紙を掲げて、「届いたよ~!」と唇の動きで伝える桃栗。ナジュは初めての術が上手くいって、嬉しそうに手を振りかえした。
「すげえ…!本当に俺の紙が空を飛んだ!」
天界に来て主様の使う不思議な力を目にする機会はあったが、それを自分が使えるとは露ほども思えなかったナジュの喜びはひとしおである。たとえそれが誰にでも使える術だとしても、胸が高鳴りじわじわと喜びが心に沁みて自然と笑顔になる。そんなナジュの様子を目にしていたのは桃栗だけではなかった。学舎の者は、宙に浮かぶ紙の数が少なくなってきた所で手を叩いて注目を自分に集めた。
「皆問題なく出来た事かと思う。それでは今日はこれで解散とする。明日からは通常の講義日程どおりに進んで行くので、準備を怠らぬように。また毎日掲示板か看板を確認しておくこと。それでは解散」
神様候補達の大凡は、解散の言葉を聞いてさっさと大広間を出て行った。残っているのは特に行き先も目的も無い者か、友人と話をしたい者。ナジュは真っ直ぐに桃栗の座る席に向かい、術を使用できた感動を伝える。桃栗に届いた紙を見せると、大きくナジュと名前があり確かに自分の紙だと再認識して破顔する。ナジュが喜んでいる様子を、桃栗は微笑ましそうに何度も頷いて耳を傾けていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる