127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

二人組の正体

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一瞬即発の空気が流れる菊花錠の間。師と神様候補の睨み合いが続いている。喧しくしていた面々も借りてきた猫のように静かになり、音を立てて矛先が向かないようソロリソロリと各々の座布団に戻った。唐梳に一番近い先頭を雷蔵にして、皆二人から距離を取って座り、成り行きを窺っている。ナジュも雷蔵が座る場所より座布団を少し後ろに下げた。そんな中、解説魔の神様候補は何時の間にかナジュの右後ろに陣取り、ひそひそとナジュと雷蔵に囁いてくる。

「先程の話の続きだが、僕のお勧めは縄を複雑かつ緻密に結えて肉体を締め上げる類の…」
「な、縄…?」
「俺が言うのもなんだが……この雰囲気の中、よくもそんな話をしていられるなお前」

張りつめた空気であるが、どうしても解説の仕上げとしてお勧めの春本色本を紹介したかったらしいこの神様候補は、くいくいとナジュの袖を引いて、睨み合う二人に向けられようとする意識を自分に向けさせ、書物の名と内容を最後まで聞かせようとする。雷蔵に呆れた目で見られても気にしていない。

「わ、わかった、あんたの好みは後でゆっくり聞くから!今は静かにしてろっ」

ナジュが唇に指を当てて「しーっ」と合図をして見せる。何度前を向いても袖を引っ張り、肩を引っ張りと中々にしつこかったからだ。だが、解説魔の神様候補は首を振った。

「説明をすると言った手前、途中で投げ出す事は出来ない。御二方の膠着状態が継続する事を信じつつ、僕は説明を続けるよ。それで、誰に対しても同じ方法で縛り上げるのが良いという事ではな…」
「なんで諦めねえんだよ、こいつ!?」
「意思が固えっていうか、とんだ頑固者だな…」

ナジュと雷蔵は、呆れを通り越して何かすごいものを間近で見ている気分になっていると、この解説魔の相方である二人組のもう一人がソロソロと三人の元へ寄ってきて、解説魔の襟首を引っ掴んだ。

「おっと!まだ僕の解説中だ、飛鳥田あすかた
「お前ほんっっっと静かにしとけ!!師はさっきまでとは雰囲気が変わってちょっと怖くなったし、唐梳の怒りを買ったら親父が出しゃばってくるかもしれねえし、体力訓練の時に見せた刀ァこっちに振り回してくるかもしれねえだろっ!?」
「こっちの奴もまあまあ声が大きいんだが…」

解説魔に飛鳥田と呼ばれた神様候補は、余計な火の粉がこちらに降りかからぬようにと、歯を剥き出しにして注意をする。それなりに生量を抑えているようだが、周囲の神様候補全員に聞こえている為、恐らく師と唐梳にも聞こえているだろう。飛鳥田はナジュと雷蔵に向き合って「すまねえな」と言った。

「この説明好きの神様候補は、佐渡ヶ銛さどがもりっていう名で、見ての通りの意思が固い奇人でな。悪い奴じゃねえって思う時と、悪い奴かも?って思う時が凡そ半々だ。同部屋で過ごしていると殴りたくなる時がままある」
「それは…悪い寄りでいいんじゃないか?」

ナジュがそう言うと、飛鳥田は曖昧な表情をして佐渡ヶ銛を見て考え込んだ。現在も佐渡ヶ銛はナジュの袖を掴んで説明している。その話しぶりは明朗快活だが、この場所、この時には相応しくない。飛鳥田は「うん」と呟き、何らかの判断を終えてナジュの方を向く。

「だが、単に面倒くさい性格って思えば耐えられる。だから俺共々仲良くしてくれよ、雷蔵に…二枚目の兄ちゃん」
雷蔵こいつの名前知ってるのか?」
「雷座の神様候補として学舎に来たなら、知ってて当然だろ?」
「雷座…!」

雷座の競合と聞き、雷蔵の目にも鋭さが宿る。春本色本の解説に夢中であった佐渡ヶ銛も話を止め、「僕も雷座だ」と雷蔵を見て宣言した。同じ座を狙う三名が揃い、ナジュはここで争いが始まってしまうのかと唾を飲んだ。
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