127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

企みを嗜んで

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飛鳥田、佐渡ヶ銛の両名は不敵な笑みを浮かべて雷蔵を見つめている。それが意味する所は対等に戦えるという自信か、弱者を前にした強者の余裕か、それとも。飛鳥田が口を開いて何かを言おうとしたその時。唐梳と鷺鶴の二人に動きがあったようだ。皆の意識が座敷の前方に一瞬逸れた事で、雷座の神様候補同士の張りつめた空気は緩んだ。

「…話は後で、だな」
「ああ!まだ僕の説明は終わっていないからな」
「阿呆、それより重要な話があるだろうが。“雷座”に関わる…な」
「…含みのある言い方だな」

雷蔵は二人を訝しんでいる。話があると呼び出して、二人にとって有利な場所で不意打ちを食らわせる腹積もりなのではないかと疑う気持ちがある。見た所二人は組んでいる様子であるので、相手の力量も知らない今、二対一の戦闘に持ち込まれて敗北する可能性は十二分にある。だから雷蔵も素直に応じられない。

「随分と慎重なんだな!もしかしたら、この選定を勝ち抜く自信に解れがあるのではないか?現雷座の推薦を受けた直接の配下など、有利以外のなにものでもないというのに」
「おいおい、堂々としてくれてなきゃあ困るぜ。俺達は現状お前が一番雷座に近いって見込んでるんだ。こうして接近したのが無駄になっちまう」

二人の言は雷蔵を評価しているととれるが、それを鵜呑みにする程雷蔵は自分を過信していない。遙か高みで見下ろす神の側で過ごせば、己を天界の上部になど位置付けられる筈がない。雷蔵の疑念はさらに強くなり、腹の中のものを看過しようと言動に注視する。隣に居るナジュは、目の前で繰り広げられる水面下の探り合いに茶々を入れる事など出来ずに静かにしている事しかできない。

「…何を企んでる?」

抱く疑念を口にすると、それを聞いた佐渡ヶ銛は真顔で一瞬静止した。"企み"という言葉への明確な反応に雷蔵の視線は佐渡ヶ銛に移る。表情の意味を見極めようとしていたが、静止は直ぐに解かれて元の爽やかな笑顔に戻った。

「はは!企みくらい、この学舎の門を潜った誰しもが持っていて当然だろう?」

子どもが悪戯を仕掛けて、目の前の人物がその罠に掛かるのを待っている時のような期待と秘密の暴露を楽しみにしている瞳、雷蔵はそんな印象を受けた。

「俺達は意外と冷静に周囲と自分を見てるんだぜ。力技で勝てない相手に真正面から挑む程馬鹿正直じゃあない。何も雷座の神様候補の中で自分が一番強くなる事が、目標の達成に繋がるとは限らない」

飛鳥田は雷蔵とナジュの肩を叩いて前に押す。

「さっき言った通り、"話は後で"。俺としては、唐梳の動向も見逃せないんでな」
「僕はそれ程魅力は感じないけどね。所で、君は何の座を目指す神様候補だい?」

佐渡ヶ銛が静かにしていたナジュに問う。

「お、俺?空座……だけど」
「空座!噂の曰く付きの座だ。競合は何名かな?」
「一人……」
「…ほう!」

答えを聞いた佐渡ヶ銛は目を爛々とさせてナジュを見る。飛鳥田も興味を持った様子だ。

「もう一人は何て奴?」
「た…」
「俺の同僚、雷座の配下だ」

ナジュの代わりに雷蔵が答えると、二人は目を見合わせて「どう思う?」「本人を見ない事には」とコソコソ話し合っている。雷蔵は前に向き直りつつ、密やかにナジュに耳打ちした。

「この二人は信用するな。競合じゃないからって、味方ってわけじゃない」
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