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学舎編 一
貧相な扉
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ナジュは梅花錠の間の周囲に張られた幕の前に立ち、その前に立てられている“改修中”と記された看板を見る。雷蔵たちには決まった予定であるかのように話したが、実は改修中の場所に本当に入っていいのかはわからなかった。それを確かめるために、表以外に注意書き等があるのだろうか?と覗いてみると、裏に文字は無く、どこにも立ち入りを禁じる旨は書かれていなかった。
「う~ん……麒麟に説教された時は、学舎の規則に書いてなかったから知らなかった、って話したら一応許して貰ったし……壊さないように、なるべく静かに行けばいいか」
ナジュは下がる幕に手を掛けると、飛鳥田と佐渡ヶ銛から逃げてきた雷蔵が追いついた。垂れ幕を見て、看板を見て、幕を掴んでいるナジュを見る。
「この先が梅花錠の間なのか?」
「ああ、地図にはそう書いてた。…お前、二人と話さなくていいのかよ?やたら警戒してたが、俺にはそんなに悪そうな二人組には見えなかったぞ」
「油断させてくるような奴らが意外と食えねえんだよ。お前も場数踏めばわかってくるだろうさ」
「ふ~ん………お、廊下は変わりないみたいだな」
幕を少し捲って中を覗くと、幕の内外で廊下に変化は無く、どうやら改修しているのは梅花状の間の部分だけのようだ。ナジュがそろそろと幕の中に入っていくと、雷蔵も興味が湧いて後に続く。二人が幕の内に消えていった姿を見た飛鳥田と佐渡ヶ銛は、このままム失って撒かれないようにと走る速度を上げた。折角得た機会をどうしてもモノにしたいという気迫が滲んでいる。雷蔵は、背後から迫る二人の足音に気付いて嫌そうな顔していたが、「見てみろよ」というナジュの言葉に視線を戻す。
「ここが梅花錠の間か……うん」
雷蔵の反応が今一つであるのには理由がある。先程まで滞在していた菊花錠の間の美しさは、中へ入る為の扉の時点から溢れていた。贅を極めた座敷を封じる役割を担う品として過不足ない。だが、今ナジュと雷蔵が目にしている梅花錠の間の扉は、学舎を歩いていると目にする他の扉と変わりない。寧ろこちらの方が年季が入っている分、心許なく感じる部分もある。
「さっきの豪勢な座敷を見た後だと、どうしても貧相に見えるな」
「だろ?扉に梅の飾りなんか無いし、ああ…錠前も無いみたいだ。これなら頭を捻って考えなくても中に入れそうだ」
「嫌味かよ」
そんな気は無かったが、つい口から漏れてしまった言葉に、雷蔵が目を細める。その苦々しい表情を見たナジュは思わず笑ってしまいそうなったが、顔を逸らして視界から雷蔵を消した事で耐えることが出来た。しかし、雷蔵が疑いの目で後頭部を見ている気配がする。
「……さて、中を見学するとするか」
さっさとこの話題を終わらせるべく、梅花錠の間に続く扉の取手に手を掛ける。少し取手を引いてみると、菊花錠の間の扉よりも重さがあり、立て付けの悪そうなギギッという音がした。ついでに取手も色落ちして錆が目立っている。もしかしたら、かなり昔からある部屋なのかもしれないと思いつつ、扉を開けた。
「う~ん……麒麟に説教された時は、学舎の規則に書いてなかったから知らなかった、って話したら一応許して貰ったし……壊さないように、なるべく静かに行けばいいか」
ナジュは下がる幕に手を掛けると、飛鳥田と佐渡ヶ銛から逃げてきた雷蔵が追いついた。垂れ幕を見て、看板を見て、幕を掴んでいるナジュを見る。
「この先が梅花錠の間なのか?」
「ああ、地図にはそう書いてた。…お前、二人と話さなくていいのかよ?やたら警戒してたが、俺にはそんなに悪そうな二人組には見えなかったぞ」
「油断させてくるような奴らが意外と食えねえんだよ。お前も場数踏めばわかってくるだろうさ」
「ふ~ん………お、廊下は変わりないみたいだな」
幕を少し捲って中を覗くと、幕の内外で廊下に変化は無く、どうやら改修しているのは梅花状の間の部分だけのようだ。ナジュがそろそろと幕の中に入っていくと、雷蔵も興味が湧いて後に続く。二人が幕の内に消えていった姿を見た飛鳥田と佐渡ヶ銛は、このままム失って撒かれないようにと走る速度を上げた。折角得た機会をどうしてもモノにしたいという気迫が滲んでいる。雷蔵は、背後から迫る二人の足音に気付いて嫌そうな顔していたが、「見てみろよ」というナジュの言葉に視線を戻す。
「ここが梅花錠の間か……うん」
雷蔵の反応が今一つであるのには理由がある。先程まで滞在していた菊花錠の間の美しさは、中へ入る為の扉の時点から溢れていた。贅を極めた座敷を封じる役割を担う品として過不足ない。だが、今ナジュと雷蔵が目にしている梅花錠の間の扉は、学舎を歩いていると目にする他の扉と変わりない。寧ろこちらの方が年季が入っている分、心許なく感じる部分もある。
「さっきの豪勢な座敷を見た後だと、どうしても貧相に見えるな」
「だろ?扉に梅の飾りなんか無いし、ああ…錠前も無いみたいだ。これなら頭を捻って考えなくても中に入れそうだ」
「嫌味かよ」
そんな気は無かったが、つい口から漏れてしまった言葉に、雷蔵が目を細める。その苦々しい表情を見たナジュは思わず笑ってしまいそうなったが、顔を逸らして視界から雷蔵を消した事で耐えることが出来た。しかし、雷蔵が疑いの目で後頭部を見ている気配がする。
「……さて、中を見学するとするか」
さっさとこの話題を終わらせるべく、梅花錠の間に続く扉の取手に手を掛ける。少し取手を引いてみると、菊花錠の間の扉よりも重さがあり、立て付けの悪そうなギギッという音がした。ついでに取手も色落ちして錆が目立っている。もしかしたら、かなり昔からある部屋なのかもしれないと思いつつ、扉を開けた。
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