127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

四人組

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「あ、あの!僕お先に失礼しますね……夕餉の前に、師から指定された着物があるか確認しないと…」
「俺も。一旦宿舎に帰って一休みしたいからな」
「おう、また講義でな!」

飛鳥田は二人に声を掛けて見送り、その後ろ姿が廊下の角を曲がって消えたのを確認すると、「ようやく話せる人数になった」と呟いて雷蔵の肩を離した。雷蔵は身構えながら飛鳥田、佐渡ヶ銛と距離を取り、ナジュの側に寄った。戦力として頭数に入れていいのかと迷う部分はあるが、一応居た方が良い方に転ぶ筈と期待する事にした。ナジュはいつのまにか二対二の構図になっている事に不思議そうにしている。他夏の件では協力するが、ナジュに雷蔵と組んでいるという気は全くない。

「…俺、寄りたい所があるから先に帰っていいか?」

おかしな事に巻き込まれたら大変だと考え、早々に立ち去ってしまおうと足を踏み出したが、雷蔵に腕を掴まれて引き戻された。

「まあ待てよ。話には、こいつも同席して良いんだったよな?」
「ああ、勿論!話をした後は、僕の説明の続きを聞いてもらう予定だからね」
「二人きりの空座の神様候補、その片割れ。俺達としちゃ、すっっごく話してみたくなる存在だ。神様に成るか否か、可能性は半々。しかももう片方はあんた…雷蔵と同じ雷座の配下。俺達黄色に振り分けられて幸運だったな」
「“白”だったらこうして話す機会を作るのに骨を折っただろう!同じ座を目指す者同士は、どうしても警戒心が生まれてしまう」

良かった、良かったと呑気に言い合っている二人組を見て、雷蔵は目を細める。あらゆる態度が疑わしく見えて仕方ない。

「…それで、話ってのは何だよ。こいつと同じく俺も寄る場所があるんだ」
(そういえば、いつも一緒にいる他夏が居ないな。あいつは一番上の素養の“紫”だったっけ。今は一人で講義に出てるのか…?)
「僕達としては、あまり人目に付かない場所で話したいと思っているよ。こちらはこの通り見通しが良い場所で、話声も響くから。講義終わりに菊花錠の間で話しが出来たら良かったのだけれど、作業の邪魔をしてはいけないからね。他の場所に移ろう」
「…宿舎の飯処じゃできない話しなのか?」
「できないな」
「……勿体ぶってねえで、ここで話せよ」

いつまでも腹の探り合いのような事をしている飛鳥田と雷蔵に、痺れを切らしたナジュが掴まれた腕を払って三人から距離を取る。

「話を聞いた限り、お前らが用あるのはこいつで、俺はそのついでみたいなもんなんだろ?だったら後で聞くから三人でまず話せよ。俺は改修前の梅花錠の間って場所を見に行くんだ。今日を逃したら、新しいのに変わってるかもしれないからな。じゃっ」

そそくさとその場を離れるナジュ。残る三人は顔を見合わせて、互いの出方を窺っていた。雷蔵は二人とナジュを見比べてどうするか考えた結果、「待てよっ」とナジュの後姿に叫んで小走りで後を追う。二人になってしまった飛鳥田と佐渡ヶ銛は、一瞬呆然とした表情で遠ざかって行く二つの背中を眺めていたが、先に飛鳥田が正気に戻った。

「っおい!俺達も着いて行くぞ!最初に狙うのは“雷蔵”って決めただろ!?」
「ああ、そうだったね!おお~い、あまり速く走らないでくれ!」

二人は急いでナジュと雷蔵の後を追う。ナジュが目指していたのは菊花錠の間に面した廊下の先にある梅花錠の間。追いつくのは容易いだろう。
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