319 / 640
学舎編 一
問答時間
しおりを挟む
「お前ら…やっぱり着いてきたのかよ」
「勿論!兄ちゃんの目的地はすぐそこで良かったな。いくら撒こうと思っても、この距離じゃあ俺達は撒けないぜ」
「あちらの菊花錠の間は畳が敷き詰められて、菊花を模った装飾がこれでもかとあしらわれていたが、こちらは随分と質素な造りの板間だね!一応、菊に梅と花の名が付いた錠前の掛かった揃いの部屋ならば、ここも梅に関する装飾がありそうだけれど、一目ではわからないな」
二人が履物を脱いで上がってくると、流石の雷蔵も観念するしかなかった。不思議な穴を見ようと屈んでいた姿勢を元に戻し、近付いて来る二人の前に立ち塞がる。これから急に戦闘となる可能性がある為、ナジュの着物の端をくいくいと引っ張って警戒するよう言外に促すが、“うるさい”というふうに後ろ手で振り払われる。この梅花錠の間に四人が揃う羽目になったのは雷蔵にも一因があるので、巻き込まれた形のナジュを背に隠すように立ったが、手を払われた事は、一応の親切心を無碍にされたようで少々腹が立つところもある。いっその事着物を思いっきり掴んで強制的に隣に立たせてやろうかと考えていると、飛鳥田が咳払いをして、内装を眺めている佐渡ヶ銛に“これから話をするぞ”と合図する。
それに佐渡ヶ銛が「承知した!」と元気に答えると、とことこと歩いて飛鳥田の隣に立つ。ナジュと雷蔵とは違い、息が合った遣り取りである。二人が揃うと、飛鳥田が本題へ向けて話し始めた。
「まずだな……大前提として、雷蔵は本気で雷座を狙ってるんだよな?誰を押しのけても、蹴落としても座を得るって覚悟はあるのか?」
「答えるまでもねえよ」
「ハハ、これは失礼な問いになってしまったな、飛鳥田」
「当然って事か。うんうん」
雷蔵の剣呑な表情に対して、答えを聞いた二人は朗らかで余裕がある。背後からは、ナジュが呑気に穴の数を一つひとつ指差しで数える声が聞こえ、内心で“そんな場合じゃねえだろ”と思っている。更に質問は続く。
「術の素養が低い事が弱点であるけれど、体力訓練で抜きんでた実力を見せつけていたし、雁尾師の術による攻撃を上手く避けていた。これから血生臭くなる争いを耐え抜く体力と丹力はありそうだね」
「呪いへの対処は出来るのか?」
「それには答える必要を感じねえな」
「どうしてだい?」
「出来ても出来なくても、答えたそれが嘘かもしれねえし、本当かも知れねえだろう?第一…この選定に集まった奴が、同じ座を狙う競合に対して易々と自分の弱みを打ち明けるかよ」
「うん!それなりに考えているみたいだね。お喋りが過ぎる者は、自慢屋は余計な事をついつい口にしてしまうから。これなら安心材料に入れていいかい?」
「佐渡ヶ銛は当てはまりそうな……まあいいだろう」
再び何らかの納得に至った様子の二人。この状況でまだ本題に辿り着かないもどかしさを解消すべく、雷蔵は「おい」と言って鋭い視線で二人を射抜く。
「焦らし過ぎてしまったようだ。苛立って片眉が上がっているよ」
「…鷺鶴の件が懸念だが、まあ俺達の考えは一致してるからな。じゃあ…」
いよいよ本題、という空気に変わる。穴の方を気にして振り返らなかったナジュだったが、流石に二人の目的が気になっていた為、聞き耳は立てていた。雷蔵はいつでも動ける準備をして飛鳥田の言葉を待つ。
「勿論!兄ちゃんの目的地はすぐそこで良かったな。いくら撒こうと思っても、この距離じゃあ俺達は撒けないぜ」
「あちらの菊花錠の間は畳が敷き詰められて、菊花を模った装飾がこれでもかとあしらわれていたが、こちらは随分と質素な造りの板間だね!一応、菊に梅と花の名が付いた錠前の掛かった揃いの部屋ならば、ここも梅に関する装飾がありそうだけれど、一目ではわからないな」
二人が履物を脱いで上がってくると、流石の雷蔵も観念するしかなかった。不思議な穴を見ようと屈んでいた姿勢を元に戻し、近付いて来る二人の前に立ち塞がる。これから急に戦闘となる可能性がある為、ナジュの着物の端をくいくいと引っ張って警戒するよう言外に促すが、“うるさい”というふうに後ろ手で振り払われる。この梅花錠の間に四人が揃う羽目になったのは雷蔵にも一因があるので、巻き込まれた形のナジュを背に隠すように立ったが、手を払われた事は、一応の親切心を無碍にされたようで少々腹が立つところもある。いっその事着物を思いっきり掴んで強制的に隣に立たせてやろうかと考えていると、飛鳥田が咳払いをして、内装を眺めている佐渡ヶ銛に“これから話をするぞ”と合図する。
それに佐渡ヶ銛が「承知した!」と元気に答えると、とことこと歩いて飛鳥田の隣に立つ。ナジュと雷蔵とは違い、息が合った遣り取りである。二人が揃うと、飛鳥田が本題へ向けて話し始めた。
「まずだな……大前提として、雷蔵は本気で雷座を狙ってるんだよな?誰を押しのけても、蹴落としても座を得るって覚悟はあるのか?」
「答えるまでもねえよ」
「ハハ、これは失礼な問いになってしまったな、飛鳥田」
「当然って事か。うんうん」
雷蔵の剣呑な表情に対して、答えを聞いた二人は朗らかで余裕がある。背後からは、ナジュが呑気に穴の数を一つひとつ指差しで数える声が聞こえ、内心で“そんな場合じゃねえだろ”と思っている。更に質問は続く。
「術の素養が低い事が弱点であるけれど、体力訓練で抜きんでた実力を見せつけていたし、雁尾師の術による攻撃を上手く避けていた。これから血生臭くなる争いを耐え抜く体力と丹力はありそうだね」
「呪いへの対処は出来るのか?」
「それには答える必要を感じねえな」
「どうしてだい?」
「出来ても出来なくても、答えたそれが嘘かもしれねえし、本当かも知れねえだろう?第一…この選定に集まった奴が、同じ座を狙う競合に対して易々と自分の弱みを打ち明けるかよ」
「うん!それなりに考えているみたいだね。お喋りが過ぎる者は、自慢屋は余計な事をついつい口にしてしまうから。これなら安心材料に入れていいかい?」
「佐渡ヶ銛は当てはまりそうな……まあいいだろう」
再び何らかの納得に至った様子の二人。この状況でまだ本題に辿り着かないもどかしさを解消すべく、雷蔵は「おい」と言って鋭い視線で二人を射抜く。
「焦らし過ぎてしまったようだ。苛立って片眉が上がっているよ」
「…鷺鶴の件が懸念だが、まあ俺達の考えは一致してるからな。じゃあ…」
いよいよ本題、という空気に変わる。穴の方を気にして振り返らなかったナジュだったが、流石に二人の目的が気になっていた為、聞き耳は立てていた。雷蔵はいつでも動ける準備をして飛鳥田の言葉を待つ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる