127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

青二才の知恵

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(粋とか訳が分からねえが、いきなり外から割って入ったら怒鳴られちまうんじゃ…)

ナジュは両陣営の顔色を窺いながら、対戦する両者と麒麟の言葉が発せられるのを恐々として待っていた。勝負の裁定をする厨房係は、乱入してきた二人に対し、早々に下がるように言おうとしたが、それよりも先に場の空気が変わった。

「無粋と言われてしまっては、引き下がる他あるまい」
「おや?こちらは別に粋を気取るつもりはないけれど?」
「我が少々大人げなかった。神に成って日が浅い雛鳥の我儘くらい聞き入れてやらねばならぬ。副将戦はこのままで良い」
「ありがとうございます麒麟殿」

どうやら柳本の言葉で、縺れた話がまとまったようだ。麒麟を煽っていた雁尾も熱が冷めては面白くないのか、また口を噤んで静かになった。

「いやぁ~良かった良かった。それじゃァ、あっしらは元の席に戻りますんで、素晴らしいお点前をどうかお願いいたしやす!」

袖を掴んだままのナジュの手を握って立ち上がると、戻ろうと促していたナジュよりも先に茶会に背を向けて歩き出す。用件が終わればさっさと立ち去るという、あまりに潔い後姿だ。この面々の中では比較的寛容である号左が、諍いを止めた功労者とその友に声を掛けずに帰らせる訳はない。

「二人とも。折角であるから近くに座って観戦していなさい。このように座る席は余っているから」
「よろしいんで!?」

帰還に徹していた柳元が、号左の誘いを受けて、あまりにも容易く振りかえった。その変わり身の早さを近くで見たナジュは、「え?」と声が漏れ、呆けた顔をした。

「好きな場所に座ると良い」
「どちらか応援しているなら、そちらでもいいから」
「そりゃァ、ありがてェことで。ナジュの旦那、どこに座る?」
「え?どこにって…」

ナジュは一度茶会を見渡した。雁尾の側には、列の後ろに広い空間がある。麒麟の側には、氷頭見と猪熊が居る分少々狭い。師と神様候補達は名の知れぬ者ばかり。ついでにナジュは、先日の湯殿での一件で、麒麟から目を付けられている。湯殿で怪しい行為に及んだ事への仕置きの蹄跡は、まだ尻にはっきりと残っている。

「よし!あっちにしよう!」

ナジュは麒麟側の列の後ろを指差した。丁度氷頭見、猪熊の隣の辺りだ。

「え…旦那、こっちの方が空いてるよう?」

柳元は単純に広い場所を選んだようだ。

「手下その一ともう一人、こっちに来なよ。こんなに空いてるんだからさァ」
「ぐっ……!」

ナジュの心情などお見通しの雁尾は、自身が先ほどまで座っていた大将席の後ろに座れと指差した。

「こっち来いってよ!良かったなァ旦那」
(雁尾様自ら側に呼び寄せるなんて……余程寵愛されているのだろうか…)

氷頭見の視線を受けながら、二人は正反対の表情で指定された席に座った。

「しかし、おっさん。よくこの場を治める台詞が思い付いたもんだ。すげえよ」
「いやァ、簡単な事だよォ。ちょいと耳貸してくんな!……お上ってモンは、時には面子が命よりも大事だからさァ…中々自分から引き下がれねェ訳よ。そン時ァ、こうしたら格好いいですよ!とか、下々の心を汲んでくれる器の大きいお方って皆思いますよ!って形に持ってくんだ。勿論そのまんまの台詞言うんじゃなく、遠回し遠回しにな?男前な大義名分ってやつを用意してやれば、案外それに乗ってくれる方は居る。あっしは、そこに賭けたのよォ」
「はぇ~…おっさん、意外と切れ者なんだな。年の功ってやつか?」
「大して歳食ってねェよォ……あっしはまだ青二才さ」

ヒソヒソ話が終わると、草臥れた中年のような外見をした柳元は、若い青年のような毒気の無い笑顔を見せたのだった。
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