127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

人に化けた麒麟

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蕾を思わせる緩く弧を描く曲線が上方から下方に向かって入り、球体上部から光の花びらが開いてゆく。開花し終えた花弁は徐々に空気に溶けて、球体があった場所には、この場の誰もが見知らぬ“人”が立っていた。人差し指程の長さの角が生えた黄色みがかった白髪に、警戒している獣に似た黒い縦割り線の入った金色の瞳。首から下は程よく筋肉がついてしなやかである。しかし、その肉体の線は直線的とも曲線的とも言い切れない複雑な印象を受ける。身体の皮膚には所々黒い鱗状の部分があり、元の姿の名残だろう。麒麟は何も言葉を発さず、黙って変異した己の肉体を観察している。化人の宝玉による変化を見守っていた一同は、上に下にと忙しく視線を動かして、誕生した“人”を驚きの目で見ていた。チチチ…という小鳥の囀りだけが響く春の庭で、雁尾がナジュの方を向いてぼそっと一言つぶやいた。

「これ……言う程、人かい?」
「いやっ、まず何で全裸なんだよ!」

ナジュと雁尾の疑問点は違ったようだ。二人は麒麟を指差しながら、どうしても見過ごせなかった部分を口にする。

「人に角なんてないでしょ。皮膚も麒麟殿みたいなのが残って中途半端だし」
「そりゃ元々あんな馬だか鹿だかわからねえ変な生き物なんだから仕方ねえだろ!そんな事より、全裸のやつを俺達が取り囲んでるこの状況の見てくれが悪い…!俺達がひん剥いたみてえじゃねえか!ほら、あっちに居る奴らが変な顔して見てるぞ」

この茶会を遠巻きに眺めていた者達が、急に現れた全裸人間を視界に入れて、この暖かな日差しで白昼夢でも見たのか?と己の正気を疑っている最中だ。その内、見間違いではないと気が付くだろう。

「麒麟殿、まずは御召し物を…」
「む?ああ、そうであったな。人の姿をしている者達は、最低限己の身体を隠さなければならないという我には理解できぬ決まり事があるのであったな。……褌とやらをここに!」
「う、う~ん……折角ですから、私どもと似た装いに致しましょうよ、麒麟殿。こちらの珍しき品を使用する機会は、今日以降あるかわかりませんし」
「そうそう!人に化けた姿も何だかお綺麗で、流行の着物を着こなせば、さらに二枚目になれますよぉ」
「そこまで言うならば着てみよう。……一式をここに!」

麒麟付使用人は、着物一式の調達の為、駆け足で学舎の内部へ向かった。着物が到着するまでは全裸の人間が集団に紛れ込んでいる事になる。それは流石に…と思った号左が、誰かの羽織でも借りられないかと探していると、ナジュがそこにあった盆を使えばいいと、雁尾が自身の扇子を貸そうかと提案してきた。号左は苦渋の決断で、両方を受け取った。

「麒麟殿、こちらで恥部を隠してください」
「恥部?我の身体に恥部などないが」
「股です、股」
「股」

麒麟と号左は揃って下半身に目をやる。

「えっ…!?あれ!?」
「どうされた号左殿」
「ど、どうというか……あまりまじまじと見ては失礼なのですが、その……」

麒麟は特に不思議に思わなかったが、下半身にある筈の男女どちらかの形が、どこにも見当たらなかった。まるでそこには元より何もなかったかのように、ただ凹凸の少ない肌の延長があるだけだった。

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