127柱目の人柱

ど三一

文字の大きさ
379 / 640
学舎編 一

人に化けた麒麟

しおりを挟む
蕾を思わせる緩く弧を描く曲線が上方から下方に向かって入り、球体上部から光の花びらが開いてゆく。開花し終えた花弁は徐々に空気に溶けて、球体があった場所には、この場の誰もが見知らぬ“人”が立っていた。人差し指程の長さの角が生えた黄色みがかった白髪に、警戒している獣に似た黒い縦割り線の入った金色の瞳。首から下は程よく筋肉がついてしなやかである。しかし、その肉体の線は直線的とも曲線的とも言い切れない複雑な印象を受ける。身体の皮膚には所々黒い鱗状の部分があり、元の姿の名残だろう。麒麟は何も言葉を発さず、黙って変異した己の肉体を観察している。化人の宝玉による変化を見守っていた一同は、上に下にと忙しく視線を動かして、誕生した“人”を驚きの目で見ていた。チチチ…という小鳥の囀りだけが響く春の庭で、雁尾がナジュの方を向いてぼそっと一言つぶやいた。

「これ……言う程、人かい?」
「いやっ、まず何で全裸なんだよ!」

ナジュと雁尾の疑問点は違ったようだ。二人は麒麟を指差しながら、どうしても見過ごせなかった部分を口にする。

「人に角なんてないでしょ。皮膚も麒麟殿みたいなのが残って中途半端だし」
「そりゃ元々あんな馬だか鹿だかわからねえ変な生き物なんだから仕方ねえだろ!そんな事より、全裸のやつを俺達が取り囲んでるこの状況の見てくれが悪い…!俺達がひん剥いたみてえじゃねえか!ほら、あっちに居る奴らが変な顔して見てるぞ」

この茶会を遠巻きに眺めていた者達が、急に現れた全裸人間を視界に入れて、この暖かな日差しで白昼夢でも見たのか?と己の正気を疑っている最中だ。その内、見間違いではないと気が付くだろう。

「麒麟殿、まずは御召し物を…」
「む?ああ、そうであったな。人の姿をしている者達は、最低限己の身体を隠さなければならないという我には理解できぬ決まり事があるのであったな。……褌とやらをここに!」
「う、う~ん……折角ですから、私どもと似た装いに致しましょうよ、麒麟殿。こちらの珍しき品を使用する機会は、今日以降あるかわかりませんし」
「そうそう!人に化けた姿も何だかお綺麗で、流行の着物を着こなせば、さらに二枚目になれますよぉ」
「そこまで言うならば着てみよう。……一式をここに!」

麒麟付使用人は、着物一式の調達の為、駆け足で学舎の内部へ向かった。着物が到着するまでは全裸の人間が集団に紛れ込んでいる事になる。それは流石に…と思った号左が、誰かの羽織でも借りられないかと探していると、ナジュがそこにあった盆を使えばいいと、雁尾が自身の扇子を貸そうかと提案してきた。号左は苦渋の決断で、両方を受け取った。

「麒麟殿、こちらで恥部を隠してください」
「恥部?我の身体に恥部などないが」
「股です、股」
「股」

麒麟と号左は揃って下半身に目をやる。

「えっ…!?あれ!?」
「どうされた号左殿」
「ど、どうというか……あまりまじまじと見ては失礼なのですが、その……」

麒麟は特に不思議に思わなかったが、下半身にある筈の男女どちらかの形が、どこにも見当たらなかった。まるでそこには元より何もなかったかのように、ただ凹凸の少ない肌の延長があるだけだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...