127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

使用人達の夜

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屋敷で奉公する配下、使用人ほぼ全てに、金竜を迎える件と当日の各役職の動きが伝えられたその夜、主様付使用人稲葉に与えられた一室に、稲葉他使用人数名が集まっていた。あまり掃除をしていない畳部屋の床には、各自持ち寄った夜食や余りの菓子を広げ、それらを摘まみながら、夜が更けるにつれ温くなってしまった茶を飲んで話をしていた。

「ほおら、言った通りになっただろう?幾ら屁理屈捏ねたって、仮病使ったって……もぐ……御蔭様の決定を覆すこと等出来はしない。それこそ、主様や本匠様程の御方でなければな!」
「一ヶ瀬先輩も御力添えしてくだされば、何とか当日だけでも任を解かれたかもしれませぬよ?会議中に稲葉が何度も一ヶ瀬先輩に視線で合図しましたのにっ、先輩は本匠先輩をうっとり見つめるばかりで、てんで使い物になりませぬ!」
「一ヶ瀬も会議に参加したのかよ?屋敷の財政担当ったって、その役職の中じゃ下っ端だろう?財政担当の頭は誰だっけか…えー…」
「洛中……一応、屋敷の重鎮の名前くらいは覚えておけ。財政を取り仕切っている勘定頭は、“愛蛇かなへび”様だ」
「かなへび様…?」

洛中は聞き覚えが無いという顔で隣に座る瓜絵を見る。

「か、愛蛇様は……屋敷でも古株の方で……僕達の御給金を決めている方ですよ」
「へえ……厨房係の俺らは、頭からしか貰った事ねえから、そのかなへび様って方に会ったことねえな。名から察するに……蜥蜴とかげなのか?」
「愛蛇様は蜥蜴ではない。蛇だ」
「えっ…そうなんですか…?僕はてっきり…その…」
「私も財政担当になって初めて知ったが、愛蛇様の名には意味があるのだ」

一ヶ瀬は一口茶を飲むと、愛蛇の名の由来について洛中と瓜絵に話し始めた。

「愛蛇様の真の名は私も知らないが、愛蛇と名乗っているのは、この“愛”と“蛇”の字面に関係がある」
「愛と蛇に…?」
「ああ。愛蛇様は天界に昇る前から“龍”という存在に憧れていたそうだ。おとぎ話に残る高貴な存在を一目目にしたいという夢を長らく抱いていた。蛇は龍の眷属であるとも言われる事がある。この天の下、いつか運が良く巡り合えたならばどうにか配下にしてもらえぬだろうかと。天界に上がり、幾つかの商家で奉公した後、新しく座に就かれた私達の主様が龍神様であるという事を聞きつけると、商家を飛び出して主様の屋敷に“下っ端でも雑用でもいいから、龍神様の側で奉公させてほしい”と直談判に行き、使用人を経て配下となり、重鎮となった。正式に主様の配下になった時に通り名を愛蛇にしたらしい。龍神様に愛される蛇となれるよう、そんな願いを込めて“愛蛇”と。偶々、同じ名前の違う生き物がいるが……」

二人は一ヶ瀬の話を聞いて、感服したように「はあ~…」と息を吐く。愛蛇の由来は稲葉も知らぬ話であったが、餡団子が刺さっていた串に残る餡子を舐め取るのに忙しく、「へえ~」と興味薄そうに呟いた。
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