127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

やられるにしても

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今回の体力訓練の講義も、前回と同じ五島師との戦闘であった。綺麗に磨かれた床は、あっという間に五島師の粘液に塗れ、神様候補達が触腕に弾き飛ばされて壁に衝突する痛々しい音が響く。前回目立っていた唐梳、オウソウ、雷蔵は、それぞれ戦略を練り、違った攻めで五島師に向かっていく。雷蔵の背中に居て五島師に一泡吹かせた他夏は、今回は壁際ですやすやと眠っている。雷蔵は、他夏を背にするように戦闘しており、弾き飛ばされた神様候補が他夏に当たらないようにと気遣いながらとなり、今ひとつ集中仕切れていないといった様子だ。他の神様候補達も、前回の反省を活かして、なりふり構わずあの手この手で五島師を追い詰めようとするが、何せ履き物を履いても脱いでも床が滑る。これが大きな障害となり、術により足場を作り出してそこに立ち、そもそも粘液に足を濡らさない唐梳とオウソウ以外は、この滑りを攻略しなければならない。

「うわぁっ」

弾き飛ばされた壁際で、顔に付着した粘液を着物で拭っていたナジュの横に、五島師に薙ぎ払われて床を滑ってきた丹雀が衝突した。前方を見ていなかったナジュは、突然の音と振動にビクリと肩を揺らし、粘液に塗れて不服そうな雰囲気の羽織男を見た。

「丹雀、お前……すっごい事になってるが……。羽織で口元しか見えねえけど、滑りのせいで揚げ物食ったみたいに光ってるぞ…」
「……不覚。派手に動いていた触腕に気を取られて、足元を這う存在を見落としていた」
「丹雀くんもやられたか~。よしっ、僕が二人の敵を取ってくるよっ」

丹雀とは反対側に座っていた桃栗が、両膝をパンッと一つ打って立ち上がる。桃栗もまた、五島師に白兵戦を挑んで薙ぎ払われた同士だ。

「ああ…頼んだ…。私は少し休んでいる」

丹雀は着物から褌に粘液が染み込もうとするのを食い止める事をやめた。もう全て手遅れと覚悟を決めて、羽織の隙間から僅かに見えた口元まで完全に顔を隠してしまった。その様は不貞腐れているようにも見える。丹雀を覗き込んでいたナジュは、小刀を上から下に振り下ろして汚れを落としながら、次の作戦の準備をしていた桃栗に声をかけられた。

「ナジュくんも一緒に行く?」
「うー……体力は回復したから行けるんだが、流石にもう少し頭を使わないと、すぐまたここに戻って来ると思うんだよなぁ……。何か、ただやられに行ってるだけみたいで…。同じやられるとしても、ここが良かったとか、これは悪かったとか……なんて言えばいいんだ……?もっと、こう…」

ナジュの言葉に仕切れない曖昧な表現を聞いた桃栗は、少し考える素振りをして、近くから見ていたナジュの動きを思い出す。

(襲って来た触腕に対して、ナジュくんの対処方法は……粘液塗れの床の上を逃げようとするか、身体を強張らせて防御体勢を取る事が多かったかな…?攻撃を避けられたらいいけど、五島師の触腕は太くて当たる面が広いのと、素早い動きもあって、逃げるならかなりの距離を取らなければいけない。触腕の届く範囲を逃げ続けるのは、綺麗な場を持ってる唐梳くん達でも難しいから、今回は安全を優先しながら遠巻き寄りの動き……"けん"だね。ナジュくんも、一旦他の人や五島師の動きを見て学ぶ過程が必要……)

理性の奥に隠れた好戦的な部分が、"だけど"を言葉の端に付け足す。
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