127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

ちょっと待て

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(す、すげえ…桃栗…!格好いい!!)

桃栗にしがみついていたナジュは、その言葉の熱量をすぐ近くで受けて圧倒されていた。今の自分に何が出来るのか、これから何をすればいいのかと頭を悩ませていたが、眼前に立ち込める霧の向こうに、道しるべとなる僅かな灯りを見つけたような頼もしさを感じ、ナジュの心の中にも桃栗の漲る闘志が伝播したようだ。しかし、勇猛な熱気に中てられた中にも冷静な部分が存在しており、桃栗の宣言の意味する所をナジュに理解させる。

(でも、それって……この合議が終わる頃合いになるまで、永遠と殴られ、叩かれ、はたかれるって事だよな…?壁に戻されないから、転んでも休む間もなく立ち上がって、また…)

桃栗の言う“僕達”にナジュが含まれているのは確定しているだろう。何せ、しっかりと腕を絡ませて共に五島師の前に立っているのだから。ナジュはとんでもない宣言に巻き込まれている事を察して、冷や汗をかき始める。

「…桃栗の悪い所が出たな」

一人羽織の中に引きこもる男、丹雀が小さく発した呟きは、本人以外には聞こえなかった。五島師と桃栗の対話の場面に、何を言うのかわからないまま連れて行かれて、かなり厳しい鍛錬に参加させられる事になるだろうナジュの動揺が、丹雀には目で見ずともわかった。

「やれやれ……初心者と玄人は体力からして違うというのに。まして基本的な事を殆ど学ばぬまま、その場しのぎ、出たとこ勝負の考えで長時間挑み続ける鍛錬など…。実践の中での学びは得難いものだが、それにしても……だ」

桃栗は女のような見た目をしているが、その内心は芯から豪快な男であるというのが、共に過ごす時の多い丹雀の評価である。気安く人懐っこい面が目立ち、世渡り上手。どこにいたとしても、苦も無く仲間を作り、和気藹々としているだろう。だが、戦闘に於いては好戦的で、学舎での血生臭い争いを心配する気持ちの奥には、仕合をしてみたいという欲が隠れている。この五島師の講義が、命の取り合いだったとしても、桃栗は意気揚々と前へ出ただろう。桃栗が化粧を好むようになったきっかけも、戦闘と関わりがある。丹雀が化粧仲間として化粧をするようになった経緯を尋ねた際、桃栗は照れ笑いをしながらこう答えた。

“敵に討たれた際、恥ずかしくないようにって始めたんだよね、戦化粧!前はね、白粉を厚塗りして、お歯黒をしっかり塗った公家っぽい感じで通してたんだ~。戦場でもだけど、寝るとき以外は化粧落とさなかったね。今は薄化粧に肌がほんのり色付いている位が僕に似合うから好きだけどっ!”

丹雀は、近くに居る神様候補達の気配がそわそわとしたものに変わってきた事に気付いて、ふうと溜め息を吐く。桃栗の熱い宣言に中てられた者がちらほらといるようだ。暫く喧しくなりそうだと思った丹雀は、羽織をしっかりと合わせて、なるべく声が聞こえないようにと更に閉じこもったのだった。
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