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投獄編
第9話 夕陽色の想い
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「3人仲良くギャリアーの家に住みなよ!」
チャムはこの渾身の案を面々に提示した。一同はチャムとユウト、ニスを除いて唖然、ユウトの拍手する音が待機所内に明るく響く。ただ1人の賛同を得て、チャムはまだ呆然としているグンカを揺さぶって話を続ける。
「グンカさんは、お姉さんとなるべく一緒にいたいんでしょ?」
「いっ…見張りが必要だと言っただけだ!」
「口実は必要だもんね」
チャムは背後で抗議するグンカの声は無視して、ギャリアーに意思を問う。
「ギャリアーも連れて帰れるなら、見張り位我慢できるでしょ?」
「いや…外で見張るってならわかるが…一緒に住む…?」
ギャリアーは想像する。
ニスが居る暮らしは、今までのギャリアーの生活とそれ程変わらず、穏やかに時が流れるだろう。しかし、そこにグンカが加わる場合、衝突し喧嘩になる事は目に見えている。見張るといっても、家の中まで見張られたら自分もニスも気疲れしてしまうだろう、とギャリアーは思った。
「…無理だな。この人、ニスとは何となく上手くやっていけそうな気はするが、警備隊長さんとは…気が合わない」
「私も断る!この男まで見張る暇はない!」
グンカも主に怪しんでいるのは、ギャリアーではなくニスの方。同居するとなれば、グンカのする事に口を出して尋問を妨害されるのは目に見えている。
「それなら私の部屋に住まわせた方がマシだ」
「隊長!?そ、それは…どういう」
腕を組んで外方を向くグンカに、ランが言葉の真意を問う。
「?…言葉の通りだ。嫌疑が晴れるまで私が常に連れ歩けば、悪さのしようもない」
「そうでしょうが、それは……ぐぅ~っ!」
ランが頭を悩ませている一方、ギャリアーはチャムとユウト、ユンに囲まれて説得を受けていた。
「いいじゃない、グンカさんも入れてあげてよ!」
「あのなチャム…別に意地悪したいから隊長さんを住まわせないって言ってるんじゃないんだ。一緒に暮らすってことは色々考える事が…」
「じゃあ、お姉さんが隊長さんのお家に軟禁されてもいいの?」
「それは良くない」
「軟禁というか~帯同するって事よね~?警備隊では機密情報も扱ってるから、ずっとは困るのよね~。それなら勾留していた方が~」
ユンの言葉にギャリアーは反対の意を示す。
「それはダメだ。…潜源石の加工品にも興味があるみたいだし、うちに来るのが丁度いいよ」
「う~~ん……困ったわ~」
ギャリアーの意思は固く、ユンとユウトが説得しても、グンカとの2人暮らしも3人暮らしも認めない。勾留も拒否するとなると、警備隊への滞在は夜を迎えてからも続きそうだ。
「……」
3人のやり取りを聞いていたチャムは、もう一つ隠された目的であった、喫茶うみかぜの常連客を増やすという計画が頓挫しそうな気配を感じて1人焦る。グンカがギャリアーの家に住めば、ランやユンだけでなく、他の警備隊員も喫茶うみかぜの客になるかもしれないと、期待を抱いていた。チャムの目標は喫茶うみかぜ2号店の店長。常連客が増える可能性はどうしても掴みたい。
「ギャリアー!グンカさん!」
「な、なんだ…」
「チャム」
グンカはチャムの言葉に身構える。当人たちの意思を無視して恋愛絡みに捉え、何を言い出すかわからない相手の恐ろしさを身をもって知った。
「取り敢えずグンカさん付きで釈放して貰って、数日間一緒に暮らして、お姉さんが大丈夫だって知って貰うのが良いんじゃないかな」
「…お試しってことか」
「そう!グンカさんだってお仕事があるからずっとお姉さんと居られないだろうし、警備隊って勤務時間がバラバラでしょ?あんまりギャリアーと居ることも少ないんじゃない?」
ギャリアーは以前聞いた、警備隊の勤務事情を思い出す。朝早くからの勤務から夜通し日が昇るまでの勤務が何種類かある。夜の人手は少ないが手が空いている時間が多い、しかしその分事件が起こったら多忙を極め、帰宅後泥のように眠る、といった話を警備隊の知り合いに聞いた。その知り合いも、家に遊びに来た筈がソファでゆらゆら船を漕いでいた。グンカも外に居る時間、家で寝ている時間が多いかもしれない。ギャリアーは一時的な3人暮らしも場合によっては、と少し気を緩めた。
「…まあ」
ギャリアーの様子を見て、こちらは折れてくれそうだと感じたチャムは、次にグンカの様子を見る。手を繋がせたのは解いてしまったが、代わりにニスの手首を掴んで、ギャリアーよりも自分の側に寄せている。
「お姉さんは、グンカさんと一緒に暮らすのはいい?」
チャムはニスに狙いを変えた。
「また貴様か!」
「お姉さんは今どうしたい?」
「…」
ニスは少し考える素振りをした。目を伏せて思い浮かぶのは、ギャリアーの作っているというガラス玉の話。ニスはその品に似た特徴を持つ装飾品を以前見たことがある。それが同一のものかどうか確かめたい。同じ品の場合は、問いたいことがもう一つ増える。町中を歩き回って、数多の人に聞いて回らなければならなくなるかもしれない。その時に備えて何と答えればいいのか、ニスは警備隊詰所の外の景色を見る。
「…観光」
「は!?」
グンカが気の抜けた答えに驚愕する。反対にギャリアーは、ニスが冗談を言ったと思って、少し口元を緩めた。チャムはその答えを聞いてにっこりと笑う。
「なら、すぐ釈放してもらわなきゃ!グンカさんも一緒に行けば問題ないね。ランちゃん、グンカさんの仕事終わりは何時?」
「え……もう数分だが……。ん…?しかし、いや……というか…ニスが来てから着替えに帰っているだけで、ずっと居たような…」
「わっ本当!?もしかして、帽子の下目元クマだらけなんじゃ…早く退勤させてあげて!」
ユンとランは目を合わせて、どうしようかと相手に伝える。隊長以外の部下たちは勤務時間を徹底され、残業も基本的に無い。しかし隊長は己の裁量で勤務時間の延長が可能。ユンはグンカの勤務記録が書かれた冊子を捲る。
「あら~なんだかずっと居るって思ってたけど、勤務時間をごまかしているわ~」
「隊長!?この日も、この日もっ、居ない筈なのに居る!?」
ランとユンが勤務記録をグンカに見せる。
「た、隊長は己の裁量で……」
「もう数分なんだから、今日はもう帰りなさい~!」
「しかし…」
グンカは横に居るニスを見る。まだ処遇は決まっていない。
「ギャリアーさん、今日は彼女の釈放は待ってくれる?」
「ユン!?」
「何でだ」
「隊長の危惧することも最もだと思うのね~?私たちもこの町の平和を維持するためにこのお仕事してるから~」
「……それで」
「今日の所はお試し仮釈放ってことで~、少しの間見張り付の自由時間にして~、時間が来たら詰所に戻ってきてほしいの~!」
一時的に開放し、その後警備隊に帰還。それがユンの提案だった。
「隊長も睡眠をとって落ち着いたら考えも変わるかもしれないわ~。明日にまた集まって決めましょうよ!」
「隊長…!ニスの見張りは私にお任せください!」
「お前たち…」
ランとユンに眠れ眠れと詰め寄られるグンカ。折を見て短時間の仮眠はとっていたが、尋問で蓄積した苛々が疲労を回復するだけの睡眠を与えなかった。グンカの身体の方が睡眠を必要としていた。
「お姉さんはそれでもいい?少しの時間だけど、あたし案内するよ!」
「……そう、ね。見て回れるならそれで」
「やった!ギャリアーもいいよね?」
ギャリアーは今日の内連れて帰ると宣言した手前、完全には賛成できなかったが、ニスがそうしたいと言うならばとチャムに頷いて見せる。
「ランちゃん、ユンちゃん、行ってきていい?」
「暗くならないうちに帰ってきなさいね~」
「隊長は今すぐ帰ってください!もう3分過ぎています…!」
「わ、わかったから、背を押すな…!」
ランに押されてニスの手首を掴んだまま詰所の敷地から押し出される。ニスが続くのなら手を繋ぐギャリアーも転びそうになりながら外に連れて行かれる。チャムを中心としたニスの観光に同行するメンバーがその3人を囲んだ。
「出発!さあ、最初は…あ」
チャムが3人を見ると、まだグンカは手首を掴んでいた。
「グンカさんも行く?」
チャムがグンカの腕を絡ませるように捕まえる。
その瞳が何か得体のしれない期待に満ち溢れていて、悪い予感を感じ取り嫌そうな顔をしたグンカは、絡まれた腕を外しながら「行かない」と口にしようとしたが、意外にもギャリアーが同行を促す発言をする。
「あんたも来たら?」
「貴様…」
「そうだよねギャリアー…いっぱい来た方が…ねえ?」
「俺たちが案内する観光には、欠かせない場所だからな」
2人だけが案内する場所を共有しているようだ。グンカはランの補助の為、という理由をプライベートで散策するという建前に変えて、同行することにした。
チャムとユウトを先頭、ギャリアー、ニス、グンカを間に、最後尾にランという配置で6人は町中を歩いてゆく。最初はやはり定番の市場だと、チャムの先導に大人しくついていく。歩き始めて早々、背後から3人を見ていたランが遠慮気味にグンカに進言する。
「その…隊長?真ん中のニスが…歩きづらいと思うのですが」
ニスは両サイドの二人の、手を振る動作に合わせて腕を動かされていた。2人のタイミングは違うため、腕を両方後ろに出されたり、前に引かれるタイミングで体勢を崩しそうになっていた。
「…」
「…」
グンカはニスの隣のギャリアーに視線をやる。ギャリアーはその視線に気づき、ニスの手をしっかり握る。
「…プライベートだからな」
「隊長…!?」
本当は逃亡防止の為であったが、現在は職務から離れているという事情から嘘を吐いた。その言葉にショックを受けるランと、沸き立つチャムとユウト。ニスは自由に動く腕に翻弄され、市場の品々をロクに眺めることが出来なかった。その中にニスが探していたガラス玉も飾られていたが、見逃してしまった。
その後は石畳の長い坂道に夕日が差し込む人気の観光地を巡ったり、謎の置物が並ぶ公園、お祭り会場にもなる中央広場と、ニスに色々な景色を見せた。最後にチャムが向かったのは町の外れ、チャムのアルバイト先。
「ここっ、喫茶うみかぜ!海鮮料理がおいしいです!」
「チャム…ここに連れてくるのが目的だったのか」
「おじさん連れてくるから待ってて!」
チャムは1人喫茶うみかぜの扉を開き中に入る。中に客がいたようで、ウォーリーと少し話した後すぐに出てきた。手には警備隊詰所に届けたものと同じ饅頭を人数分持って。
「本当は食事して貰いたかったけど、おじさんが皆で食べろって!」
「おお…太っ腹だなウォーリー」
「その代わり、今度お店に食べに来て…だって!」
「また行くと後程伝えてくれ、礼も」
他の者も口々に礼を言うと、最後にニスがチャムにありがとうと言った。
「おいしいから、あったかいうちに食べよう!」
「折角だから海岸で食べるか?」
「いいんじゃない?今なら景色綺麗だよ」
6人は海岸へ続く階段を下って、砂浜に打ち上げられた流木を椅子にして座った。
「はいはい配るよ~、受け取ってね~」
チャムが1人1人に手渡ししていると、やっと繋がれていた手と掴まれていた手首が自由になった。
「悪いな、疲れただろ?」
「いえ…大丈夫」
「フン……」
ランだけは5人の背後に立ち、一応見張りの役目を果たしている。
手に持った饅頭を見てごくりと喉を鳴らしながら。
「いただきます…」
饅頭の皮表面からふわふわと湯気が立つ。ランがふかふかの饅頭を小さい口で頬張った。口を離すと、とろみのある餡に具材が包まれ熱いままだったこともあり、倍以上の白い湯気が海風に流されていく。ランは念願の饅頭にありつけて、クールな表情を双子の姉ユンとそっくりな喜色溢れる笑みに変える。それを見ていたギャリアーはほおと息を吐いた。
「やっぱり双子だなぁ…」
「むっ…!こ、こちらを見なくてもいい!前を向いて食べろ!行儀が悪いぞ…!」
「…うまい」
グンカも気に入ったようで、一言ぼそっと零したその声をチャムの耳は拾い、嬉しそうににやける。
「あつっ…あつ……ふう」
ニスも暖かい饅頭を食んで、ゆっくりと味わう。そしてチャムの方を向いておいしいと言った。青白かった手も、饅頭に暖められたのと、暖かい食べ物を摂ったことで赤みを帯びてきた。舌を火傷しない様に、ふうふうと息を吹きかけて冷まして食べている。
「…」
ギャリアーはほっとした。あまり反応を示さなかった彼女が、美味しいと言ったり、観光したいと言う。ギャリアーは人間らしい面を見て安心したのだ。
髪が赤く、白い衣を纏い縛られていたこの女は、まだ生きている。
目を細めて饅頭を食べるニスを見る。
ギャリアーのその瞳に宿る想いは夕陽に上塗りされ、他の者の目からは慈愛の色に見えただろう。真っ直ぐに照らす夕陽が、昏いニスの瞳をオレンジ色に変えた様に。
チャムはこの渾身の案を面々に提示した。一同はチャムとユウト、ニスを除いて唖然、ユウトの拍手する音が待機所内に明るく響く。ただ1人の賛同を得て、チャムはまだ呆然としているグンカを揺さぶって話を続ける。
「グンカさんは、お姉さんとなるべく一緒にいたいんでしょ?」
「いっ…見張りが必要だと言っただけだ!」
「口実は必要だもんね」
チャムは背後で抗議するグンカの声は無視して、ギャリアーに意思を問う。
「ギャリアーも連れて帰れるなら、見張り位我慢できるでしょ?」
「いや…外で見張るってならわかるが…一緒に住む…?」
ギャリアーは想像する。
ニスが居る暮らしは、今までのギャリアーの生活とそれ程変わらず、穏やかに時が流れるだろう。しかし、そこにグンカが加わる場合、衝突し喧嘩になる事は目に見えている。見張るといっても、家の中まで見張られたら自分もニスも気疲れしてしまうだろう、とギャリアーは思った。
「…無理だな。この人、ニスとは何となく上手くやっていけそうな気はするが、警備隊長さんとは…気が合わない」
「私も断る!この男まで見張る暇はない!」
グンカも主に怪しんでいるのは、ギャリアーではなくニスの方。同居するとなれば、グンカのする事に口を出して尋問を妨害されるのは目に見えている。
「それなら私の部屋に住まわせた方がマシだ」
「隊長!?そ、それは…どういう」
腕を組んで外方を向くグンカに、ランが言葉の真意を問う。
「?…言葉の通りだ。嫌疑が晴れるまで私が常に連れ歩けば、悪さのしようもない」
「そうでしょうが、それは……ぐぅ~っ!」
ランが頭を悩ませている一方、ギャリアーはチャムとユウト、ユンに囲まれて説得を受けていた。
「いいじゃない、グンカさんも入れてあげてよ!」
「あのなチャム…別に意地悪したいから隊長さんを住まわせないって言ってるんじゃないんだ。一緒に暮らすってことは色々考える事が…」
「じゃあ、お姉さんが隊長さんのお家に軟禁されてもいいの?」
「それは良くない」
「軟禁というか~帯同するって事よね~?警備隊では機密情報も扱ってるから、ずっとは困るのよね~。それなら勾留していた方が~」
ユンの言葉にギャリアーは反対の意を示す。
「それはダメだ。…潜源石の加工品にも興味があるみたいだし、うちに来るのが丁度いいよ」
「う~~ん……困ったわ~」
ギャリアーの意思は固く、ユンとユウトが説得しても、グンカとの2人暮らしも3人暮らしも認めない。勾留も拒否するとなると、警備隊への滞在は夜を迎えてからも続きそうだ。
「……」
3人のやり取りを聞いていたチャムは、もう一つ隠された目的であった、喫茶うみかぜの常連客を増やすという計画が頓挫しそうな気配を感じて1人焦る。グンカがギャリアーの家に住めば、ランやユンだけでなく、他の警備隊員も喫茶うみかぜの客になるかもしれないと、期待を抱いていた。チャムの目標は喫茶うみかぜ2号店の店長。常連客が増える可能性はどうしても掴みたい。
「ギャリアー!グンカさん!」
「な、なんだ…」
「チャム」
グンカはチャムの言葉に身構える。当人たちの意思を無視して恋愛絡みに捉え、何を言い出すかわからない相手の恐ろしさを身をもって知った。
「取り敢えずグンカさん付きで釈放して貰って、数日間一緒に暮らして、お姉さんが大丈夫だって知って貰うのが良いんじゃないかな」
「…お試しってことか」
「そう!グンカさんだってお仕事があるからずっとお姉さんと居られないだろうし、警備隊って勤務時間がバラバラでしょ?あんまりギャリアーと居ることも少ないんじゃない?」
ギャリアーは以前聞いた、警備隊の勤務事情を思い出す。朝早くからの勤務から夜通し日が昇るまでの勤務が何種類かある。夜の人手は少ないが手が空いている時間が多い、しかしその分事件が起こったら多忙を極め、帰宅後泥のように眠る、といった話を警備隊の知り合いに聞いた。その知り合いも、家に遊びに来た筈がソファでゆらゆら船を漕いでいた。グンカも外に居る時間、家で寝ている時間が多いかもしれない。ギャリアーは一時的な3人暮らしも場合によっては、と少し気を緩めた。
「…まあ」
ギャリアーの様子を見て、こちらは折れてくれそうだと感じたチャムは、次にグンカの様子を見る。手を繋がせたのは解いてしまったが、代わりにニスの手首を掴んで、ギャリアーよりも自分の側に寄せている。
「お姉さんは、グンカさんと一緒に暮らすのはいい?」
チャムはニスに狙いを変えた。
「また貴様か!」
「お姉さんは今どうしたい?」
「…」
ニスは少し考える素振りをした。目を伏せて思い浮かぶのは、ギャリアーの作っているというガラス玉の話。ニスはその品に似た特徴を持つ装飾品を以前見たことがある。それが同一のものかどうか確かめたい。同じ品の場合は、問いたいことがもう一つ増える。町中を歩き回って、数多の人に聞いて回らなければならなくなるかもしれない。その時に備えて何と答えればいいのか、ニスは警備隊詰所の外の景色を見る。
「…観光」
「は!?」
グンカが気の抜けた答えに驚愕する。反対にギャリアーは、ニスが冗談を言ったと思って、少し口元を緩めた。チャムはその答えを聞いてにっこりと笑う。
「なら、すぐ釈放してもらわなきゃ!グンカさんも一緒に行けば問題ないね。ランちゃん、グンカさんの仕事終わりは何時?」
「え……もう数分だが……。ん…?しかし、いや……というか…ニスが来てから着替えに帰っているだけで、ずっと居たような…」
「わっ本当!?もしかして、帽子の下目元クマだらけなんじゃ…早く退勤させてあげて!」
ユンとランは目を合わせて、どうしようかと相手に伝える。隊長以外の部下たちは勤務時間を徹底され、残業も基本的に無い。しかし隊長は己の裁量で勤務時間の延長が可能。ユンはグンカの勤務記録が書かれた冊子を捲る。
「あら~なんだかずっと居るって思ってたけど、勤務時間をごまかしているわ~」
「隊長!?この日も、この日もっ、居ない筈なのに居る!?」
ランとユンが勤務記録をグンカに見せる。
「た、隊長は己の裁量で……」
「もう数分なんだから、今日はもう帰りなさい~!」
「しかし…」
グンカは横に居るニスを見る。まだ処遇は決まっていない。
「ギャリアーさん、今日は彼女の釈放は待ってくれる?」
「ユン!?」
「何でだ」
「隊長の危惧することも最もだと思うのね~?私たちもこの町の平和を維持するためにこのお仕事してるから~」
「……それで」
「今日の所はお試し仮釈放ってことで~、少しの間見張り付の自由時間にして~、時間が来たら詰所に戻ってきてほしいの~!」
一時的に開放し、その後警備隊に帰還。それがユンの提案だった。
「隊長も睡眠をとって落ち着いたら考えも変わるかもしれないわ~。明日にまた集まって決めましょうよ!」
「隊長…!ニスの見張りは私にお任せください!」
「お前たち…」
ランとユンに眠れ眠れと詰め寄られるグンカ。折を見て短時間の仮眠はとっていたが、尋問で蓄積した苛々が疲労を回復するだけの睡眠を与えなかった。グンカの身体の方が睡眠を必要としていた。
「お姉さんはそれでもいい?少しの時間だけど、あたし案内するよ!」
「……そう、ね。見て回れるならそれで」
「やった!ギャリアーもいいよね?」
ギャリアーは今日の内連れて帰ると宣言した手前、完全には賛成できなかったが、ニスがそうしたいと言うならばとチャムに頷いて見せる。
「ランちゃん、ユンちゃん、行ってきていい?」
「暗くならないうちに帰ってきなさいね~」
「隊長は今すぐ帰ってください!もう3分過ぎています…!」
「わ、わかったから、背を押すな…!」
ランに押されてニスの手首を掴んだまま詰所の敷地から押し出される。ニスが続くのなら手を繋ぐギャリアーも転びそうになりながら外に連れて行かれる。チャムを中心としたニスの観光に同行するメンバーがその3人を囲んだ。
「出発!さあ、最初は…あ」
チャムが3人を見ると、まだグンカは手首を掴んでいた。
「グンカさんも行く?」
チャムがグンカの腕を絡ませるように捕まえる。
その瞳が何か得体のしれない期待に満ち溢れていて、悪い予感を感じ取り嫌そうな顔をしたグンカは、絡まれた腕を外しながら「行かない」と口にしようとしたが、意外にもギャリアーが同行を促す発言をする。
「あんたも来たら?」
「貴様…」
「そうだよねギャリアー…いっぱい来た方が…ねえ?」
「俺たちが案内する観光には、欠かせない場所だからな」
2人だけが案内する場所を共有しているようだ。グンカはランの補助の為、という理由をプライベートで散策するという建前に変えて、同行することにした。
チャムとユウトを先頭、ギャリアー、ニス、グンカを間に、最後尾にランという配置で6人は町中を歩いてゆく。最初はやはり定番の市場だと、チャムの先導に大人しくついていく。歩き始めて早々、背後から3人を見ていたランが遠慮気味にグンカに進言する。
「その…隊長?真ん中のニスが…歩きづらいと思うのですが」
ニスは両サイドの二人の、手を振る動作に合わせて腕を動かされていた。2人のタイミングは違うため、腕を両方後ろに出されたり、前に引かれるタイミングで体勢を崩しそうになっていた。
「…」
「…」
グンカはニスの隣のギャリアーに視線をやる。ギャリアーはその視線に気づき、ニスの手をしっかり握る。
「…プライベートだからな」
「隊長…!?」
本当は逃亡防止の為であったが、現在は職務から離れているという事情から嘘を吐いた。その言葉にショックを受けるランと、沸き立つチャムとユウト。ニスは自由に動く腕に翻弄され、市場の品々をロクに眺めることが出来なかった。その中にニスが探していたガラス玉も飾られていたが、見逃してしまった。
その後は石畳の長い坂道に夕日が差し込む人気の観光地を巡ったり、謎の置物が並ぶ公園、お祭り会場にもなる中央広場と、ニスに色々な景色を見せた。最後にチャムが向かったのは町の外れ、チャムのアルバイト先。
「ここっ、喫茶うみかぜ!海鮮料理がおいしいです!」
「チャム…ここに連れてくるのが目的だったのか」
「おじさん連れてくるから待ってて!」
チャムは1人喫茶うみかぜの扉を開き中に入る。中に客がいたようで、ウォーリーと少し話した後すぐに出てきた。手には警備隊詰所に届けたものと同じ饅頭を人数分持って。
「本当は食事して貰いたかったけど、おじさんが皆で食べろって!」
「おお…太っ腹だなウォーリー」
「その代わり、今度お店に食べに来て…だって!」
「また行くと後程伝えてくれ、礼も」
他の者も口々に礼を言うと、最後にニスがチャムにありがとうと言った。
「おいしいから、あったかいうちに食べよう!」
「折角だから海岸で食べるか?」
「いいんじゃない?今なら景色綺麗だよ」
6人は海岸へ続く階段を下って、砂浜に打ち上げられた流木を椅子にして座った。
「はいはい配るよ~、受け取ってね~」
チャムが1人1人に手渡ししていると、やっと繋がれていた手と掴まれていた手首が自由になった。
「悪いな、疲れただろ?」
「いえ…大丈夫」
「フン……」
ランだけは5人の背後に立ち、一応見張りの役目を果たしている。
手に持った饅頭を見てごくりと喉を鳴らしながら。
「いただきます…」
饅頭の皮表面からふわふわと湯気が立つ。ランがふかふかの饅頭を小さい口で頬張った。口を離すと、とろみのある餡に具材が包まれ熱いままだったこともあり、倍以上の白い湯気が海風に流されていく。ランは念願の饅頭にありつけて、クールな表情を双子の姉ユンとそっくりな喜色溢れる笑みに変える。それを見ていたギャリアーはほおと息を吐いた。
「やっぱり双子だなぁ…」
「むっ…!こ、こちらを見なくてもいい!前を向いて食べろ!行儀が悪いぞ…!」
「…うまい」
グンカも気に入ったようで、一言ぼそっと零したその声をチャムの耳は拾い、嬉しそうににやける。
「あつっ…あつ……ふう」
ニスも暖かい饅頭を食んで、ゆっくりと味わう。そしてチャムの方を向いておいしいと言った。青白かった手も、饅頭に暖められたのと、暖かい食べ物を摂ったことで赤みを帯びてきた。舌を火傷しない様に、ふうふうと息を吹きかけて冷まして食べている。
「…」
ギャリアーはほっとした。あまり反応を示さなかった彼女が、美味しいと言ったり、観光したいと言う。ギャリアーは人間らしい面を見て安心したのだ。
髪が赤く、白い衣を纏い縛られていたこの女は、まだ生きている。
目を細めて饅頭を食べるニスを見る。
ギャリアーのその瞳に宿る想いは夕陽に上塗りされ、他の者の目からは慈愛の色に見えただろう。真っ直ぐに照らす夕陽が、昏いニスの瞳をオレンジ色に変えた様に。
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