【こんな恋なら男なんて絶滅すればいいのに】

秋庭海斗

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□□□ 愛が欲しい

 賢一がいた。隣の女は奥さんよね。車を路上パーキングスペースに慌てて滑り込ませると、ミラー越しに動きを目で追っている。

「何よ、手を繋いだりして…」。好江の胸をドス黒い霧が一杯に満たしてむせ返りそうになった。

 スマホを取り出してLINEを立ち上げ迷わずに賢一に入力をして送信する。

(いま、なにしてんの?)

 ニッコリしたスタンプも送る。

「既読になれ…既読に、既読になれ!」

 スマホを凝視しながら呪うが如くに小さく呟いている。

「なった!」。鏡の中の賢一に目を移すとスマホを手に
LINEを確認したのだろう。奥さんらしき人に何かを言っているが、そのままスマホはポケットに滑り込んだ。

「クソやろう…」

(どこにいるんだろうなぁ、会いたいなぁ…♡)

 ぐらぐら煮えたぎる感情は文字に一切表さずに送信、ミラー越しのふたりは建物の中に消えて姿は見えなくなってしまった。跡を着けたい衝動に駆られたが、バックミラーに写っている自分の顔をみてハッと我に帰った好江だった。

「跡つけて、どうなるっていうの…」

 怒りに震えた自分を抑えられたのが嬉しいような、悲しいような切なさが黒い霧の晴れた胸に去来した。ひとつ深呼吸をしてウィンカーを出し家路へと車を走らせた。

□□□ 深夜

 眠剤の効果が切れたのかしら…時計は3時11分を指している。スマホを手にしてみると賢一からのおっそいLINE返信があった。

(寝てた、すまん)

 寝てた?はぁ!あそこにいたのは、賢一じゃなかったのかしら?それとも、眠っていたじゃなくて奥さんとエッチでもしてたの意味の寝てたなのかしら!

「フザケンナ!嘘つき、嘘つき!」

 やはりイライラするのは生理前かな?

 脳裏に不意に武井隆の顔が浮かんだ。

「よしえって言うんですね…」

「デートしてくださいよ…」

 若い男の子の臭いが鼻腔にフワリと漂ったような気がした。

「タカシくん…」

 武井が覆いかぶさってくる。メチャメチャなキスをして、所構わずにキスマークをつけていく。

「ダメよ、ヤメテ!跡が…ぁあ、残るぅ、、」

 だんだんと上半身から下へ下へと行き、股間に舌を這わされるとキュンとなった。

「ここを舐めて欲しいんだろ⁉︎よしえは…」

「ダメ、チガう…そこは…あんッ!」

 クリトリスに舌先が当たる。

「ぁあ…ダメよ、タカシくん…そこは…」

 激しい息遣いが聞こえて、クチャベチャとツバだらけにされて冒されていく小陰茎。あ、イク…いく、来るよ、そう、そこ…もぅ、もぅ少し…やめないで…あぅ、、、、グルんと何かが頭の中でひっくり返った。

「タカシ…く、ん…」

 自分の中指に入っていた力が次第に抜けて、刺激する速さもゆっくりとなっていく。

「イッたあとの余韻が好き…」

 賢一なんか、忘れてやるから!出来そうもない呪いの言葉を、まだ薄暗い天井に向かってぶつける好江であった。

□□□ 母親らしさ

 昨夜は3時過ぎに目が覚めて、武井くんと妄想エッチしちゃって、しかも3回も中へ出された。それは好江DNAから発信された生理現象の一つで、無意識に男を求め子孫を残そうと性交に走る気持ちは本能かもしれない。決して好江がインランな女であると烙印を押すには早いのである。しかし、本人がそこに気がついていない。

「アタシ、あんなに激しくされるのを望んでいるなんて、やっぱり異常かしら」。ふと、そんな罪悪感に苛まれている。

 ただ好江に取って罪悪感よりも、はるかに大きく問題なのはこの眠気だった。

「私もう、シスコーン食べたから朝ごはんは要らないから、大丈夫だよ!」

 すっかり学校に行く支度は済んでいて、作ってあげようとした朝食も必要ないと断られてしまった。

「おかあさん、遅刻じゃない?」、反対に小4の娘から心配されている。

 本当にダメな母親だ…そう反省したが、お母さんだって疲れて眠いんだけど未唯が学校に行くまでは起きて、努力してるのよ…頑張ってるんだよ…好江の中に悔いと自己主張が入り混じる。

◾️◾️◾️

 学校からのお便り(お知らせ)のA4用紙が四つ折りを、更に2回折り16つ折りで畳みきれずに、L型になってダイニングのテーブルに乗せてあった。

「なにかな…」

 折り目でシワシワになった紙を開くと授業参観の日時が書いてあった。

「なんで、こんな大事なお知らせをなにも言わないで置いておくの、あの子は…!」。責める様な口調で独り言を呟く。その紙には保護者各位から始まり、授業参観の案内が書き連ねてある。

 4年生授業参観 ・7月14日 (木曜) 4時間目算数

 それに目を通して眠気が少し覚めた。だけど、好江には娘の未唯がどうしてお便りを丸める様に何回も折り畳んで黙ってテーブルに置いたのかは、理解していなかった。

《お母さんは来なくてもいいよ…》

 未唯のサイレントメッセージは伝わる事なく、逆に好江が張り切る方向に作用してしまっていた。
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