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◾️◾️ 喪失
「母さん、アタシに取って交通刑務所って全然苦痛でも何でもなかったの、負け惜しみとかじゃなくて」
好江が脈絡もなく突然に収監中の話を始めるのにも、母は慣れてきた。うんうんと頷いて彼女を否定はしないこと、心療内科の秋庭先生から指示されていることだ。
「好きなことだって出来たし、不自由は塀の外へ出られないことくらいだった、だから何ともなかったの」
「それはよかったわね」。相槌は打ったものの母子を死なせてしまったことへの反省はないのか、後悔はしてないのかと心配にはなる。秋庭先生の診断によれば、責任の大きさを感じるあまりに一時的な記憶喪失を起こし、自我の崩壊を守っている状態もあり得るとのことだった。
「もうひとりで出掛けてもいいわよね?母さん」
「そうね、好きになさい」
そう言っても好江はひとりで外出したことはなかった、母と通院のために外出をするのも、抵抗があるように見える。事故後の世間のバッシングはうっすらと、彼女の感覚の中に残っているのだろう。
◾️◾️ 再会すれば再開
会津若松の今年の桜の開花は、例年より早く4月始めと予想されていたが、鶴ヶ城公園はもう四部咲きで充分に華やいでいる。入学式には桜の花をバックにいい写真が撮れそうである。公園内は桜を眺めながらのそぞろ歩きの人達で賑わっている。その人混みの流れの中にに好江もいた。
「あれ、よしえ?好江だよね」
チャラチャラした若い男が好江を指差している。
「やっぱりそうだ。なんだまだ引っ越したわけじゃないのか、ずっとコッチに住んでたのかよ。あれ?僕だよタケイ
武井隆だよ、忘れてないでしょ?」
「たかし、、あ、ひさしぶりね」
「元気そうだね、よく人前に出られるじゃない」
「それ、どういう意味?」
「意味?そのまんまの意味だけだけど。無期懲役かなんかじゃなかったんだな、ラッキーだったんだ」
「何を言ってるのか分からないわ、さようなら」
「そんな冷たくするなよ、こんな所で偶然に再会するなんてさ、運命なんじゃないのか僕たちって」
「サヨナラ」
まとわり付きそうな武井をそのひと言で切って、足早にそこから立ち去る好江の手にしたスマホが震えて、着信を知らせた。目線を落として画面を確認し、ギョッとした後に振り返った。そこにはスマホを軽く振ってアピールする武井隆が立っていた。
「へぇ、番号変えてないんだね、また連絡するね」
◾️◾️ 謝罪
「娘が取返しのつかないことをしてしまいまして、申し訳ないございませんでした。本来ならば娘が来るべきなのでますが、まだ本人がきちんとした行動が取れません、今しばらく直接の謝罪をお待ち頂きたいです。勝って申してすみません、申し訳ありません」
好江の母は、亡くなられた母子の月命日に城東家に頭を下げに欠かさずに行っていた。
「謝罪なんか来なくていい。謝られたって妻も子どもも帰ってくるわけじゃない、顔など見たくもない」
それに対して賢一は迷惑そうに答えていたが、今では居留守を使うこともある。好江に会いたくない理由は賢一の方が大いにあった。元不倫相手に会いたい訳などあるだろうか。ましてや事故加害者であれば尚更である。
◾️◾️ 復讐。
「母さん、アタシに取って交通刑務所って全然苦痛でも何でもなかったの、負け惜しみとかじゃなくて」
好江が脈絡もなく突然に収監中の話を始めるのにも、母は慣れてきた。うんうんと頷いて彼女を否定はしないこと、心療内科の秋庭先生から指示されていることだ。
「好きなことだって出来たし、不自由は塀の外へ出られないことくらいだった、だから何ともなかったの」
「それはよかったわね」。相槌は打ったものの母子を死なせてしまったことへの反省はないのか、後悔はしてないのかと心配にはなる。秋庭先生の診断によれば、責任の大きさを感じるあまりに一時的な記憶喪失を起こし、自我の崩壊を守っている状態もあり得るとのことだった。
「もうひとりで出掛けてもいいわよね?母さん」
「そうね、好きになさい」
そう言っても好江はひとりで外出したことはなかった、母と通院のために外出をするのも、抵抗があるように見える。事故後の世間のバッシングはうっすらと、彼女の感覚の中に残っているのだろう。
◾️◾️ 再会すれば再開
会津若松の今年の桜の開花は、例年より早く4月始めと予想されていたが、鶴ヶ城公園はもう四部咲きで充分に華やいでいる。入学式には桜の花をバックにいい写真が撮れそうである。公園内は桜を眺めながらのそぞろ歩きの人達で賑わっている。その人混みの流れの中にに好江もいた。
「あれ、よしえ?好江だよね」
チャラチャラした若い男が好江を指差している。
「やっぱりそうだ。なんだまだ引っ越したわけじゃないのか、ずっとコッチに住んでたのかよ。あれ?僕だよタケイ
武井隆だよ、忘れてないでしょ?」
「たかし、、あ、ひさしぶりね」
「元気そうだね、よく人前に出られるじゃない」
「それ、どういう意味?」
「意味?そのまんまの意味だけだけど。無期懲役かなんかじゃなかったんだな、ラッキーだったんだ」
「何を言ってるのか分からないわ、さようなら」
「そんな冷たくするなよ、こんな所で偶然に再会するなんてさ、運命なんじゃないのか僕たちって」
「サヨナラ」
まとわり付きそうな武井をそのひと言で切って、足早にそこから立ち去る好江の手にしたスマホが震えて、着信を知らせた。目線を落として画面を確認し、ギョッとした後に振り返った。そこにはスマホを軽く振ってアピールする武井隆が立っていた。
「へぇ、番号変えてないんだね、また連絡するね」
◾️◾️ 謝罪
「娘が取返しのつかないことをしてしまいまして、申し訳ないございませんでした。本来ならば娘が来るべきなのでますが、まだ本人がきちんとした行動が取れません、今しばらく直接の謝罪をお待ち頂きたいです。勝って申してすみません、申し訳ありません」
好江の母は、亡くなられた母子の月命日に城東家に頭を下げに欠かさずに行っていた。
「謝罪なんか来なくていい。謝られたって妻も子どもも帰ってくるわけじゃない、顔など見たくもない」
それに対して賢一は迷惑そうに答えていたが、今では居留守を使うこともある。好江に会いたくない理由は賢一の方が大いにあった。元不倫相手に会いたい訳などあるだろうか。ましてや事故加害者であれば尚更である。
◾️◾️ 復讐。
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